箱根や熱海・伊豆といった国際観光地の近くに位置する神奈川県小田原市。名所として小田原城や小田原漁港、かまぼこ通りなどがあるが、「市内の周遊ができていないのでは、という課題が以前からありました」と一般社団法人小田原市観光協会・DMO推進マネージャーの高村完二さんは話す。
これまでインターネットによる旅前調査や対面アンケートを実施し、今後の観光推進に生かせるデータはとれていた。ただ、観光客の旅中の動態は実際どうなのか。すべての年代、属性のサンプルがとれるところにメリットを感じ、ビッグデータを活用した観光動態調査に乗り出した。
※下記はジチタイワークス内閣官房推進 EBPM特集号(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
ターゲット設定は想定通り発地・流入経路に意外な結果が
平成2 9( 2 0 17 )年8月、平成3 0(2018)年3~4月の3ヶ月間を対象として観光動態調査を実施。分析によると、40代・60代の女性の観光客が多いという結果が出て、ターゲット設定の属性はこれまでの調査と一致した。発地や流入経路を市内のエリアごとに比較すると、箱根からの流入が多いエリアや伊豆からの流入が多いエリアがあるなど、市内のエリアごとに異なった特徴があるというデータが得られた。意外だったのは発地だ。最も多いのは想定通り県内の横浜方面からだったが、中部と関西方面からの観光客が全体の1割強を占めていることは、調査でわかった事実だった。
「ターゲットの設定が正しかったと証明され、これまでの戦略が無駄にならないと安心感がありました。ビッグデータの特長は細かいエリアのデータも拾えること。発地や流入経路のデータがとれたのは今後の観光戦略の立案に有効です」(高村さん)。
小田原市観光協会ではインターネット調査や対面調査に加え、ビッグデータを活用した動態調査を実施。観光客の滞在時間増、市内周遊率アップに取り組んでいる。
データに裏打ちされた観光戦略新たな取り組みもスタート
現在、小田原市観光協会では観光推進のため、新たに三つの取り組みに力を入れている。
一つ目はエリア内の周遊促進だ。動態調査実施以前から、小田原名産品のブースを小田原城址公園に毎月出店していたが、動態調査の結果を受けて今後もかまぼこ通りや小田原漁港などの各観光スポットの魅力をPRし、周遊を促していく考えだ。
二つ目は鉄道会社とのコラボレーションだ。J R 東海に小田原・箱根を周遊する商品造成をしてもらい、関西地区・中部地区からの誘客を実現している。またJR東日本の「駅からハイキング&ウォーキング」というイベントを小田原市でも開催。さらには、小田急線利用者に向けたPRにも力を入れている。
三つ目はターゲットの再検討だ。今後は6 0歳以上の女性だけでなく、若年層へのPRも必要だと考えている。
仮説を後押しするのがデータスピード感のある決定に役立つ
「データの活用は戦略の構築だけでなく、地域の合意形成にも役立ったことは大きな収穫だった」と振り返る高村さん。たとえば漁港エリアの事業者に調査結果を説明したところ、夜間の滞在が少ないことから、関係者の合意をとって夜間のイベント開催を決定。令和元(2 019)年5月に実施された「港の夜市大作戦」が大成功を収めたことで、夜間の滞在時間増による取り組みに注目するようになったという。
また、観光施策の決定スピードが上がったことも見逃せないメリットだ。「データで人の動きがわかれば、観光戦略のヒントが出ます。どのような施策を打つかスピーディーに決定が出せ、アクセルを踏める。判断スピードが上がれば機をうまくとらえることができ、適切な施策が打てる。それを後押ししてくれるのがデータなんです」(高村さん)。
「各観光地の担当者がデータ分析に興味を持ってくれたことが嬉しい」と高村完二さん。
How To
01 ターゲットを意識した販促物制作
データ分析により観光客のメインターゲットを6 0歳以上の女性に設定した。パンフレットなどの販促物は文字の大きさやフォントの種類、デザインや色味など、ターゲットを意識したつくりに変更している。
02 「港の夜市大作戦」で夜の滞在時間増へ
動態調査の結果、ほとんどの観光客が日中の滞在であることが判明。夜間の滞在時間増による地域経済の活性化を目的に、令和元(2019)年5月、小田原漁港で「港の夜市大作戦」を初めて開催し、大成功を収めた。