【セミナーレポート】地域ブランドを盛り上げ、地域経済にインパクト 〜自治体が導く、事業者のEC活用!〜
「Withコロナ」時代の現在、観光客の回復が思うように進まないことで特産品などの売り上げ低迷状態が続き、各地の経済は大きな打撃を受けています。そんな中、地域経済回復施策として注目されているのが、EC サイトや EC モールを活用した「オンライン販売」です。地方の特産品や産直品オンラインショップは昨今、「旅の気分が味わえる」「新鮮」などの要因で人気が高まり、市場は拡大し続けています。一方で、「立ち上げ(出店)費用がない」「運営ノウハウが得にくい」といった事情で、難しさを感じている地方事業者も少なくないようです。そこで今回のセミナーでは、地域産品のオンライン販売支援で豊富な実績を持つ図書印刷様に、青森県とともに取り組んだ2021年度事例を紹介してもらいました。
概要
◼タイトル:地域ブランドを盛り上げ、地域経済にインパクト〜自治体が導く、事業者のEC活用!〜
◼実施日:6月9日(木)
◼参加対象:自治体職員
◼申込者数:72人
◼プログラム
Program1
地域事業者自立・自走支援型のEC活用カリキュラム
Program2・トークセッション
自立・自走支援型がなぜ地域経済発展に有効なのか?~ECの現状と取り組む上での課題から解説~
地域事業者自立・自走支援型のEC活用カリキュラム
<講師>
図書印刷株式会社
マーケティングソリューション営業本部
高橋 芽生 氏
プロフィール
青森県に対して、自立支援型のEC活用カリキュラムを提案。同県の物産系大型ECモールの事業にも携わり、ECモール構築、Web広告運用、SNSプロモーション、100ページを超える報告書作成を担当。その他、飲料・化粧品・機械メーカー等に対して、各種プロモーション施策からサイトのグロースハック(Growth Hack)まで、幅広くソリューションを提案。
図書印刷が青森県で実施した、地域事業者自立・自走支援型のEC活用カリキュラムについて、事業者募集から選定会の実施、個別指導によるページ作成の具体的なノウハウ伝授とテストマーケティング内容などを、同社マーケティングソリューション営業本部の高橋氏がスケジュール感とともに紹介する。
ウェビナー開催に向けた背景と目的
コロナ禍に伴う観光客減少の中でも、ECサイトによる通販やECモールを活用したオンライン販売は、地域経済回復に向けた施策として注目を集めています。「地方特産品をオンラインショップでどのくらい購入するか」「地方の食材や工芸品に、どのような魅力を感じるか」という、当社が行った独自アンケートの結果、ほぼ100%の人が地方特産品をECで購入することに関心を持ち、また、地方食材や工芸品に対しては50%以上の人が「旅の気分が味わえる」という点に魅力を感じていると回答しています。
Web上には、数多くの地方特産品ECモールがあり、需要も旺盛なので、オンラインで販売を始めれば売上減少を解決できるのではないか…と思われる方もいるでしょう。ただ、オンライン販売を始めるには、いくつかのハードルがあります。例えば、人手が足りず、人材を雇うにも成功するのかどうか予測困難なため、多くの費用をかけられません。商品を届けるための物流やコストの問題もあります。
このような課題に対して必要なのは、事業者の「EC自立実装支援型」のカリキュラムであると当社は考えています。事業者がECサイトで物を販売できるように支援し、支援期間終了後も事業者自身がオンライン販売を続けていける状態になるまで応援することが重要なのです。
事業内容とその他の実績について
青森県内の事業者に、オンライン販売に必要な各種ノウハウを提供する本事業は、同県から委託を受けて実施しました。
業務内容としては、参加事業者の選定から企画運営や商品ページの制作支援、制作物を用いたテストマーケティング、事業者への個別指導会の開催など。県には、個別指導会を行う会場の手配や事業者へのフォローを担当してもらいました。また、テストマーケティングとして、県内事業者である「あおもり北彩館」が持つ楽天市場のショップの一部を借り、本事業の特設ページを設置しました。
テストマーケティングに関する受託業務概要と実施スケジュールは下記の通りです。
実施内容の詳細について、お話しします。まず、本事業への参加者を募集するチラシ、申込書を県に作成してもらい、参加事業者を募集(昨年5月)。集まった12事業者に、各2~3品目を出品してもらい、合計34品目の応募となりました。その後、県と当社の担当3名とで、本県地域資源を活用した商品を製造・販売している県内事業者であるか、参加目的が明確か、製造方法等、技術的に他社と比べて優位性があるか…など、計9項目の選定基準に沿って審査を行いました。
5人の選考委員が5点満点で評価をし、総合評価点の高い事業者から選定。また、必要に応じて商品や地域のバランスなどを考慮し、7事業者・11品目を支援対象として選定しました。支援対象事業者に対しては、7月から計3回の個別指導をオンラインで実施しました。
第1回の個別指導は7月に実施し、各事業者の最終目標確認とテスト販売商品の確定を行いました。指導のポイントは
・ターゲット設定とブランディング
・外箱のデザイン
・価格設定
の3項目で、次回の個別指導までに商品紹介ページに掲載する商品の説明文、画像を準備・共有してもらうことを約束。第2回の個別指導は、9月に実施し、商品の説明文や画像などを用いて当社デザイナーが商品LPを制作すると同時に、制作の基本的な流れや商品LPの構成を解説しました。指導のポイントは、
・商品ページの構成
・口コミや受賞歴
・カラーバリエーション
・同梱物について
の4項目です。その後、11月からのテストマーケティングとテスト販売開始を挟み、第3回、第4回の個別指導を10月、12月にそれぞれ実施。LP内容の最終確認と、テンプレート活用方法の指導、テストマーケティングの途中経過の報告、商品LPへの訪問者数および訪問者属性(性別、年代、楽天会員ランク)のチェックなどについて指導しました。
テストマーケティングからアドバイス会議まで
テストマーケティング期間終了後、これまでの振り返りとして当社チームと楽天市場からのフィードバックをまとめ、各事業者に向けてアドバイス会議を実施しました。当社からは、テスト販売期間の商品LPへの訪問者数と属性についての報告と、オンラインショップでの販売に関するアドバイスなど。楽天からは、各事業者に対して価格設定、容量(販売数)等の工夫や、競合商品との比較、広告配信のポイントなどを報告しました。
以上が、青森県の地域経済活性化を目指して取り組んだ事例です。今回は青森県の規模や要望に応じて組み立てましたが、各自治体の規模や要望に沿ったアレンジして組み立てていくことも可能です。
当社は他にも、地方特産品を販売するECサイトを構築し、運用支援を行った実績があります。ECサイト以外にもちろんパンフレットやチラシ制作なども行っておりますので、興味を持っていただきましたら、ぜひご相談ください。
トークセッション
自立・自走支援型がなぜ地域経済発展に有効なのか?
~ECの現状と取り組む上での課題から解説~
<講師>
青森県よろず支援拠点コーディネーター
八島 和浩 氏
プロフィール
2016年4月から(独)中小企業基盤整備機構「青森県よろず支援拠点」コーディネーター。職歴として、楽天(株)で、出店企業の立ち上げサポートや楽天大学講師の経験や、食品メーカーの楽天ショップ、ECサイトの運営全般の担当を経験。コンサルタントとして自治体との協業実績も多く、様々な業種のEC事業や各種プロモーション戦略立案に携わる。
株式会社UNIWORX 代表取締役
小椋 巧 氏
プロフィール
システム開発会社を経て、2013年に(株)UNIWORXの代表取締役に就任。東京と秋田に事業所を構え、クライアントのEC事業、システム構築、マーケティング支援に従事。また、自社で枕販売のECサイトを運営。仕入れから販売、物流、CRMなど一連の業務を社内で行っているので、事業者サイドの視点からも豊富な知見を持つ。
図書印刷とともに自立支援型EC活用カリキュラムを協同で推進した、「青森県よろず支援拠点」コーディネーターの八島氏と、ECサイト運営に付随する様々な業務について知見を持つ、UNIWORX代表の小椋氏が、地域ブランド発信にECを利用する魅力と経済的なインパクトについて、トークセッション形式で紹介する。
コロナ禍が終息してもECの市場は拡大を続ける
八島:ひと言にECと言っても、大別して自社のECとモール型の2種類があります。「モール型」とは、楽天市場やYahoo!ショッピングなどです。私のイメージとしては、『国内のモール型=楽天市場』なのですが、比較すると、Yahoo!が117万店舗と突出しています。
小椋:モール型は、売上の約10%が手数料で取られます。その点、Yahoo!は月額費用がなく、手数料が売上の1%だけです。この理由から出店数が多くなっているのではないかなと思われます。実際の売り上げでは、楽天とAmazonが約5兆円、ヤフーは9,000億円ほどです。モール型に出店する場合はコストを考え、最初はYahoo!からテスト的にスタートするのも良いのではないでしょうか。
八島:昨年度、青森県の事業で行った、テストマーケティングを例にあげて話を進めます。楽天市場は出店数が5万5,000店舗、年間の国内EC流通総額は5兆円を超えています。
小椋:下記の図の計算部分をご覧ください。1日の売り上げは137億円で、これを店舗数で割ると、およそ24万5,000円。年間で計算すると、1店舗あたり9,000万円ほど売れる計算になりますが、実際は大きな売り上げを出しているのは一部で、全く売れない店舗もあり、二極化しています。そのため、撤退する店舗もかなりあります。
八島:ネットショップの良い点は、訪問者数や転換率、客単価などが全て数字で分かる点です。ネットショップをオープンすることがゴールではなく、そこがスタートです。ただ、それぞれのモールや自社サイトによって、売り方も変わりそうですね。
小椋:おっしゃる通りです。自社サイトの場合の流入は、Googleの検索やSNSからになり、モールの場合は、モール内での検索対策が重要になります。モール内ではまず、商品名で検索されるケースが多いからです。そのため、自社ECサイトとモールの販売とでは、商品ページの作り方が全然違うのです。
八島:今回のウェビナーに参加するにあたり、私なりに調べてきました。以下の図は、楽天で販売されている食品の売れ筋ランキング画面をキャプチャーしたものです。上位にランキングしている商品の多くは1,000円台かつ送料無料です。モールごとに適した商品設計や販売価格帯、戦略があるように感じます。
小椋:楽天市場の場合ですが、アクセス数を増やす前提として、モールに合う売れ筋の金額が非常に重要になります。売れ筋ランキングに入って、そこからの流入を図ったり、レビューを溜めることが重要です。レビューを書いてもらうことで信憑性が高まり、うまくまわると検索結果などでも上位に表示易されやすくなると言われています。
八島:ネットで物を売るには、やはり「商品構築→ブランド構築→販路構築」の順番が大切です。地元で人気のお菓子を、単純にネット販売に切り替えるだけで、それがヒット商品になるといったことは、まずあり得ないと思ってください。
ECスキル提供商品の、LP制作基本フローと基本構成について
八島:ネットで物を売るためには、ECのスキルと販売戦略が必要です。先ほど、青森県の事業例で高橋さんもおっしゃっていましたが、LPをどのような工程で制作されていたんでしょうか。
小椋:基本的な流れについては、ページの基本構成であるワイヤーフレームを使って説明します。それぞれのパートでどういった素材、訴求が必要なのかを学んでもらいました。さらに、ECサイトにおいてクオリティーが高い写真は、非常に重要です。良い写真がない場合は、地元在住のカメラマンに依頼することで、今後も依頼できるような関係性を築けます。今回はこの部分まで支援させてもらいました。
八島:図書印刷のデザイナーがつくったデザインファイルですが、通常はお渡ししないことが多いのですが、今回参加した事業者には全て提供されていましたね。このねらいを教えてください。
小椋:今回提供したカリキュラムは、「自走できる」ことが目的です。次回の制作もまた依頼するのではなく、自分たちでページを作れるようになってほしかったため、写真や文字の差し替えが可能なPhotoshopのデザインファイルを全て提供しました。
八島:最後に私から、セミナーに参加されている皆さんにお伝えしたいことがあります。私は「目先の成果より、5年・10年後の種まき」が重要だと思っています。事業者がECスキルを自走できる仕組みを提供することで、5年・10年後にはECがねづき、それが産業として確立することが重要です。結果が出るまでには、種まきの期間は重要だと思っています。下のグラフは、今まで私たちが関わってきた中の2事業者による売り上げの推移です。支援してから結果が出るまでは、2年ほどかかっています。これを自治体でやるとした場合、公金を投じて事業者を育てるわけで、事業者たちが産業としてねづいて売り上げを上げ、儲かったお金は税収として自治体に還元し、それで次の事業者を育てていく…というサイクルが重要だと思います。
[参加者とのQ&A] ※一部抜粋
Q:青森県の取り組み事例が紹介されましたが、市区町村でも実施可能なのでしょうか。費用面が心配です。
A:(八島)自治体の大きさや予算などによって、当然違いはあると思います。今回図書印刷で取り組んだ事例は、フルパッケージです。これを切り分けてミニマムな形にアレンジすることはできますので、ぜひご相談ください。
Q:青森県事例の参加事業者から、実際に耳にされた感想をうかがいたいです。意識の変化などはあったのでしょうか。
A:(高橋)「自分たちが良いと思った商品のセット組みが、テストマーケティングの結果、反応が悪いことが分かった」とか、「この事業に参加してテストマーケティングしたからこそ、気づいたことがかなりあった」など、発見があり、勉強になったという感想が多かった印象です。
Q:自治体としての中小事業者支援のあり方に苦戦しています。様々な機関がある中で、ダブらず漏れなく支援が行き届いているのかという点が手探り状態です。
A:(八島)まさに、どこの自治体でも悩んでいることだと思います。重要なのは、どこが音頭を取るか…です。つまり、どの機関が事業者の面倒をみるかではなく、その事業者のためにみんなで集まって知恵を絞りましょう…という具合に考えた方が良いと思います。