歩道に座り、ただ一心に人を見つめる。手にはカチカチと音が鳴るカウンターが握られている――そう、「歩行者通行量調査」だ。旭川市ではこれまで、中心市街地活性化基本計画に基づきまちの賑わいの実態を測るため、この調査方法で対象エリアの来訪者数を調べていた。しかし、今後の効率的かつ持続的な調査方法を検証するなかで、位置情報をもとに計測する手法を検討することとなった。
※下記はジチタイワークス内閣官房推進 EBPM特集号(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
現状の「見える化」で改善点としっかり向き合える
地域振興課の坂口稔さんは「これまでの手法に問題があったわけではありません。携帯電話は今やほとんどの人が持っているので、ここから取得したデータは確実性が高く、これまでの調査との代替性の検証のほか、まちなか居住や中心市街地活性化の取組の基礎データとしても活用できると考えました」と話す。まずは平成29(2017)年に実証実験としてスタート。「確実な年齢や流入経路など、見た目では判断しかねる個々人の属性を把握できるのが何より強いと感じました」(坂口さん)。
そして平成30(2018)年に本格的な調査に至ったという。平和通買物公園南・北、銀座商店街、旭山動物園、旭川空港の5つのエリアを対象に調査を実施した。「曜日別、時間別、居住地別など様々な角度からデータがとれました」と、坂口さん。たとえば銀座商店街の日曜の来訪者数は9.1%と他の曜日に比べて大幅に下がっている。「まちなかエリアは、日曜日は休んでいるお店も多いので通行量に影響しているかもしれません。また、空港や動物園は日曜日の落ち込みがほとんどないこともわかりました。郊外からまちなかへ人を呼び込むしかけが求められていると感じます」。
一方で、43. 1%と他のエリアに比べて群を抜いて60代女性の来訪が多いのも銀座商店街だった。「曜日の通行量の違い、性別や世代にここまで開きがあることも客観的データとして整理できました。どんな人がまちに来ているかを知ることで、事業者のターゲティングにも繋がればと思います」。
北海道中央部に位置する旭川市。人口では、札幌市に次ぐ北海道第二の中核市として知られる。全国同様、人口は減少傾向であるが、まちのプレーヤーを見出しながら様々な取り組みを進めている。
分析結果はすべて開示関心を集めて動きにつなげる
結果をもとに、地域振興課では平成31(2019)年3月5日に「旭川に眠るタネを探せ!(通称・アサタネ)」という名の研修会を開催。職員のデータ分析による知識を高めるべく、研修を職免として認めることで参加意欲を促した。また、職員だけではなく商店街のほか小売や宿泊、交通、飲食事業者など関係する人々も招いたという。「まずは調査結果を報告し、それらをもとに旭川市をおもしろくするアイデアを皆さんと一緒に考えたいと思いました」と、坂口さん。
今回のレポートは市のホームページにすべてアーカイブし、誰でも、いつでも見られる状態をつくっている。「地域の活性化には、行政はもちろん、市民や民間事業者が主体となって動くことが必要です。だから、開示している情報はすべて自由に使ってほしいのです」。
「アサタネ」開催時の様子
動態調査は分析だけではなく可能性を探るためのツール
さらに坂口さんは続ける。「旭川市に移住を考えている人が今回のデータを見れば『こんな町なんだ』とイメージを掴むきっかけにもなります。例えば中心部での起業を考えている人には商圏50万人のまちというよりは年間2300万人が訪れるエリアと伝えた方がより興味を持ってもらえるはず。そんな客観的データが人を呼び込むツールになればと期待しています」。
その後は、研修会に参加した事業者と市により、リノベーションをテーマとした協働事業が動き出すなど、新しい展開も生まれている。調査結果は旭川市ホームページよりみることができる。
How To
01 実証実験でまずはお試し
「何だか費用がかかりそう」「データで果たしてどこまで詳細にわかるのか」など、新たなシステムを導入する際は何かと不安がつきもの。しかし、そのままでは何も変わらない。旭川市のようにまずは実証実験として取り入れて検証をしてみるという手は有効だ。
02 検証結果をもとに本格実施へ
位置情報データの優位性を確認するとともに、今後のまちづくりへの活用ができると判断したことから、本格実施に至る。
03 ワークショップでデータをフル活用
平成31(2019)年3月5日に報告会とワークショップを実施。町の動きにつながるためのチャレンジを誰でも起こしやすいようにと、参加はオープンに。付箋を使って地域の強みなど意見を各自で出し合い、活性化に向けたアイデアを出し合った。調査結果では、買物公園の北と南を行き来する人が多かったことから、カフェ巡りや健康などをキーワードとした「既存資源」を使ったコンテンツ開発などの提案が出た。
市内を6つの居住地区にわけて、調査エリアごとにどの居住地区からの来訪が多いかについても調査。まちなかの3エリアについて、中心部から離れるほど近場からの来訪割合が高くなる結果となった。