「現場に配属されたが、研修で学んだこととは勝手が違う…」「実務と並行しているので、なかなかゆっくりは先輩に聞けない…」
本企画では、元自治体職員で、現在はオフィス業務効率化コンサルタントとしても活躍している長野ゆかさんに、「新採1年目が学ぶこと」について執筆いただいた。
第1回目は、新人公務員が知っておきたいビジネスマナーの基本について執筆いただいた。
「ビジネスマナーとは、相手の方を不快にさせないように、相手を思う気持ちがあらわれた立ち振る舞い」と長野さん。具体的にはどういうことなのだろうか?以下見ていこう。
新人公務員に求められるビジネスマナーとは?
心構え、あいさつ、お辞儀の仕方や名刺交換といった立ち振る舞い、電話や窓口での接遇、そしてコミュニケ―ション・報連相。
これまでに、新人公務員向けのビジネスマナー研修のご依頼時に研修に入れてほしいとリクエストいただいた内容です。最近では「ビジネスメール・職場の環境改善・公文書の管理」などの追加もありました。新人公務員のみなさんには、たくさんのことが基本スキルとして求められていますね。
確かに上記はどのような部署で業務を行っていくにも必要なスキルですが、中でも、言葉遣いやお辞儀の角度、名刺交換など民間企業のそれとほぼ同じものは形として、押さえておくべきです。ただし、なぜ必要なのかと考えたとき「社会人なら身につけていて当然、スマートに見られるため・恥ずかしくないように…」であれば、それは個人的に違うと考えています。特に公務員のビジネスマナーの目的はここに置くべきではないでしょう。
仕事上で相手を不快にさせない・相手を配慮する気持ち
よく知られているマナーの一つに、スープを飲むときに音を立てないという食事のマナーがありますね。スマートに上品に見せる立ち振る舞いではなく、その音で一緒にいる人たちに不快な思いをさせないため。電車や図書館のマナーで静かにする・大きな声で話さないのもそうですし、SNSのマナーも同様です。
つまりビジネスマナーも、ビジネス上で相手の方を不快にさせないように、相手を思う気持ちがあらわれた立ち振る舞いと言えます。ビジネスマナーのとらえ方を「社会人なら当然のスキル」から上記のように変わるだけでも、普段の意識や行動に変化があらわれ始めます。
例えば、研修の受講後に「変化があった」と感想をいただくのがあいさつです。人間関係はあいさつからと言われるくらいあいさつは大切。「はよーっす…」とボソボソと言っていませんか?「大きな声ではっきりと」なんて、子どものころから言われていることを今さら聞いても、あまりピンと来ませんよね。そんな方は、あいさつには「自分の心があらわれる」を重視していただいています。例えば「こんな朝早くから仕事のために、みなさんお疲れさまです」という気持ちがあれば「お早(はよ)う御座います」という言葉に、感情と意味がこもります。すると、音に変化、抑揚がつき自然と先ほどより、気持ちの良いあいさつができる方が増えるのです。
窓口の応対も電話の応対も同じです。丁寧な言葉遣いを学ぶことも大事ですが、長い間お待ちいただいて申し訳なかったなと思う気持ちがあれば「大変お待たせして申し訳ございません」という言葉は自然と出るのです。
逆に相手に寄り添う気持ちはしっかりあるけれど、こうした言葉が出ない方は経験を積み慣れるだけです。確かに最初は焦ったり早口になったりと、スマートな対応は難しいかもしれませんが「一生懸命に取り組んでいる姿勢」という大事な部分が相手に伝わるので、新採ならそれで十分です。職場でその場面を何度も経験し練習を重ねること、その上で改めてビジネスマナーの基本について学ぶなど、ご自分でスキルアップを図っていく方法はいくらでもあります。
一方で、本人は一生懸命対応しているつもりでも、住民対応の窓口で、カウンターに肘をついている、案内係で片方に体重をかけもたれかかりながら、立っている姿はNGですね。「相手に配慮している」という内面を態度から感じることはできません。内面が態度に出ているという点では、寄り添う気持ちが欠けていたり、慣れが出ていたり、見直す点がありそうです。もちろんクセならなおした方がいいでしょう。ですます調でない伝え方、雑なモノの扱い方、不機嫌さがあらわれているその背中や足音。無意識にこうした態度をとらないために必要なことは心掛けだけなのです。
相手が理解したことが、自分が伝えたこと
また、ビジネスマナーではコミュニケーションについて学ぶ機会が多いですね。人対人での業務では欠かせないスキルです。しかし苦手意識を持つ方も多く「コミュニケーションスキルをアップするにはどうしたらいいですか」というご相談も多々受けてきました。この回答は人間関係を前提にするため一問一答では難しいのですが、一つ全員に共通して意識していただきたいことは「そもそも自分の意図通り、相手に伝わっているか?」という点です。
例えば自分が伝えたこと、してほしいことと違う行動を相手がした。こんなとき「どうしてAって言ったのに、Bをしたんだろう」「普通こう説明したら、みんなAと理解するでしょう?」、このように考えそうになったときは「相手が理解したことが、自分の伝えたこと」というコミュニケーションの原則に立ち返ってください。そのためBと解釈して相手が動いたなら、Bと伝わった、自分が伝えたことはBだったと受け止めます。
ではどうすればよかったのかと振り返るのは自分自身の改善点なので、いろいろと対策ができます。次回からは最後に「Aでお願いしますね」と念押しで確認する、「A」の進め方のポイントを説明する、書いたメモを渡すなど。この原則を胸にとどめておけば「理解してほしい・変わってほしい」と相手に求めなくてすみます。相手に変化を求めるのは非常に難しく自分にとってもストレスです。相手が変わることを求めるより、自分の対応を工夫し変える方がラクでもあります。
こうした気持ちで日々の仕事に取り組む方は、どんな小さな出来事からでも日々学び、スキルアップし続けられることでしょう。
ほんの少しの気づきで、関係性も大きく変わる!?
またこちらも、実際にあった事例として「私はコミュニケーションが苦手。相手の人にいつも何度も聞き返される。伝えるのが下手で苦手意識がある」と相談を受けた新採の方。研修のシミュレーションで分かったのは「声が小さい」でした。彼女自身は「伝わらない、緊張する、苦手、声が震える・小さくなる、さらに伝わらない」の悪循環でした。さらに苦手意識から顔がうつむいてしまうため床に向かって言葉を発しており、余計に声が届かなかったのです。顔を相手に向けるだけで、ぐっと聞き返される機会がなくなり、安心できることで先の悪循環から抜け出したそうです。
余談ですが、この事例を別の研修でお話をしていたところ「実は僕は、右耳の聴力が低くて。いままで周囲にいってなかったんですが。もしかしたらあいさつや、声を掛けていただいても無視をしてしまったり、聞き返すことが多かったりで不快な思いをさせていたら、申し訳ない」とおっしゃったこともありました。
ビジネスマナーやコミュニケーションは知識や技術に走りがちですが、このようなほんの少しの気づきで、周囲との日常のコミュニケーションが大きく変わるケースもあります。誰かが悪い・うまくいかないではなくまず「自分の言葉は、相手に正しく聞こえているのか?」と、振り返ってみるのも良いでしょう。
全職員に求められるビジネスマナー
幅広い行政サービスを提供する自治体職員にとって、接遇スキルは必須であると位置づけ、住民に寄り添い、親切・丁寧・信頼を得て住民の満足度を高めること、おもてなしの心で丁寧かつ円滑なコミュニケーションを図ることを接遇マニュアルなどに記載している自治体も増えました。
つまり、今回の内容は、新人公務員はもちろん、役職や年齢に関係なく、すべての職員に必要な心構えといえます。職員一人一人が組織の代表である意識。これも「社会人・公務員としての心構え」としてマナー研修で学ぶ内容です。ビジネスマナーへのとらえ方を意識し、みなさんの仕事の姿勢へプラスに影響し続けてもらえればうれしく思います。
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プロフィール
株式会社オフィスミカサ 代表取締役
長野 ゆか(ながの・ゆか)
大阪府生まれ、大阪府内中核市にて情報システム部門所属、15年勤続を経て独立。
現在は、文書(書類・データ)ファイリングを中心に、オフィスの環境改善・効率化などを指導。1か月で5.2トンの削減の実施。各社企業理念に沿った環境改善→業務改善(モノからコトへ)を促し、全体の業務効率アップを行う。
研修講師としては、オフィス向け(環境改善、接遇、ビジネスメール)から、家庭向け(ホームファイリング®・子育て・シニア片づけ講座)まで様々なテーマで登壇。大手企業、大学、弁護士会、自治体まで多数。述べ受講生は5,000名以上。プライベートでは、小学1年生から高校生までの3児の母。
保有資格
一般社団法人日本経営協会 情報資産管理指導者
一般社団法人ハウスキーピング協会認定 整理収納アドバイザー1・2・3級講師(全国24名) 他
著書
『この1冊で安心!!新人公務員のメールの書き方』(学陽書房)