ジチタイワークス

長野県

産学官連携のスマート林業で森をデータ化し、林業DXへの一歩を踏み出す。

全国4位の森林保有県である長野県。豊富な森林資源を活かせず、近年高まる木材の需要に応える供給体制整備の遅れが課題になっている。そこで平成30年から3年間、産学官連携事業「スマート林業タスクフォースNAGANO」を展開。スマート林業の構築と普及を図り、その先にある林業DXへの希望を見出した。その試みと現在の取り組みについて話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.19(2022年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

林業関係者がスマート林業に関心を寄せるきっかけになる。

「『スマート林業タスクフォースNAGANO』では、手作業だった仕事をスマート林業の技術で電子データ化することに取り組みました。こうした作業を積み重ねた先に、産業の構造を変える林業DXは実現すると考えています」と話すのは林務部信州の木活用課の戸田さん。以前は県内の林業現場でICT技術の活用状況に大きな格差があったという。県北部では北信州森林組合が先駆けて信州大学やアジア航測と連携し、航空機によるレーザ測量やドローンによる資源量調査など、先進的な技術開発に積極的に取り組んでいた。一方で他の地域ではICT活用の遅れが問題になっていた。

そこでICT技術を全県域に普及させ森林管理と林業経営の効率化を図るために、産学官の連携により55者からなる協議会「スマート林業タスクフォースNAGANO」を発足。平成30年から3年間、林野庁の補助事業を活用し、様々な取り組みを実証した。「協議会の事業を通じて、多くの林業事業体でICT技術に対する関心が高まり、積極的な導入に踏み出すきっかけになりました」。

サプライチェーンの生産性向上は各工程での情報の“見える化”から。

同県では協議会発足前に全県の森林で航空レーザ計測を行い、0.5mメッシュの高精度な計測データを用いた森林情報を得ていた。さらに協議会は信州大学の協力により、樹冠のデータが正確に計測できるドローン写真解析データと、航空レーザ計測による地表面のデータを組み合わせて、森林資源量を把握した。その結果、森林管理や調査にかかる労務の低減や経営計画の精度の向上につながった。

「ほかにも手作業で計測していた木材検収にスマホのアプリを使うなど、生産現場のIT化も進めました。アプリで木材のサイズを瞬時に読み取りデータ化します。計測作業が軽減しただけでなく、紙で保管していたデータのデジタル化ができたのです。そのデータを元にした需給マッチングシステムでは、現場ごとの在庫状況が把握できるため、スムーズな配車が可能になり運送コストも低減しました」。

同事業を実施した3年間で、森林計画から、伐採、搬出、流通と林業の各工程で役立つICT技術の効果が実証された。「協議会の取り組みは、林業に関わる人が漠然と悩んでいることをデータで見える化し、最適な解決方法に導くことにも役立ちました。林業の現場は経験や慣習、それぞれの利害関係などアナログな判断や作業に頼っているのが現状です。ICT技術を活用し各工程でデジタル化を進め、より現場作業の効率化を図っていきたい」と戸田さんはスマート林業への思いを語る。

ICT技術でデータを蓄積、林業DXの実現を目指す。

「令和3年度からは県単独事業として、スマート林業構築普及事業に取り組んでいます。ICT導入のための補助金を用意し、デジタル化を一気に広げるのが今のフェーズです」と戸田さん。県内各地で説明会を重ね、スマート林業の普及に尽力している。協議会の成果もあり反響は上々で、多くの事業体が補助金の利用を申し出たという。

今後の展望として「スマート林業技術の普及は、将来的には林業DXの実現を目指すものです。デジタルデータを蓄積し共有することでより高度な解析を実現し、林業の産業構造を変革させる林業DXにつなげたいと考えています」と戸田さんは語る。

「近い将来には再び産学官の集結が求められることもあるでしょう。例えば集めた情報を管理して共有するネットワークの構築なども必要になるかもしれません。自治体だけでは難しいことも、企業の力や大学の技術があれば成し遂げられます。それぞれの得意分野を活かし、林業を魅力ある産業に育てていきたいと思います」。

スマート林業タスクフォースNAGANO
産学官の役割

 

長野県 林務部 信州の木活用課 林業経営支援係
担当係長 戸田 堅一郎(とだ けんいちろう)さん

森林には木材生産だけでなく防災やレクリエーションなど様々な役割があります。自治体はスマート林業で得たデータを積み重ね検証し、大きな視野をもって課題解決をする旗振り役でありたいと思います。

課題解決のヒントとアイデア

1.利害関係がない立場だからこそ林業全体の盛り上げ役に徹する

一般企業では踏み込みづらく聞き出せないニーズでも、自治体なら拾い上げることが可能。ニーズを課題解決に必要な知識や技術へとつなぎ、林業のICT化を促進し林業全体を盛り上げる。

2.林業DXは県全域での取り組みが必要と絶えず説明を続け、導入を支援する

事業終了後も県全域で取り組みを進めるためにも、常に新しい情報の発信を続ける。また森林組合など各地の事業体へ出向き個別に説明を続けるなど、理解を求めていく。

3.事業終了後も情報共有は欠かさず新たな課題に向け緩やかにつながる

林業DXに向けた取り組みを進めるうちに、次にまた産学官の力が必要になるフェーズが来る。そのためにも自治体は折に触れ情報交換をするなど、大学や林業関係者をつなぐハブでありたい。

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 産学官連携のスマート林業で森をデータ化し、林業DXへの一歩を踏み出す。