※下記はジチタイワークス災害対策特別号 March2022(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
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なかざわ こうすけ/新建新聞社取締役専務。2007年に危機管理とBCPの専門誌「リスク対策.com」を創刊。地区防災計画学会理幹事、国際危機管理学会理事を兼務。内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザーなどを務める。著書に「被災しても成長できる 危機管理攻めの5アプローチ」(新建新聞社)ほか。
平時の備えがカギ!防災× ICTの推進で頼れる自治体になろう
大規模な災害が相次いで起きている。自然災害の発生は防ぎようがないが、日頃からの備えによって被災時の“想定外”を減らすことは可能だ。自治体は事前の備えとして、何を行うべきなのだろうか。危機管理の専門家が、災害対策の現状分析をもとに、地域の防災力強化に向けたヒントを語る。
ICT推進と“縁助”の発想が地域の防災力を高める。
ー 災害対策において、自治体が抱えている課題は何でしょうか。
東日本大震災が転機となって、国民の防災意識が高まり、それに伴い自治体の意識も変化してきました。しかし、全国的には深刻な人手不足や職員の異動という共通の課題があります。危機管理においては、意識、知識、技術が揃っているのが理想ですが、定期的な人事異動の中でそれらの継承がうまくいっていないケースが散見されます。
また、残念ながら、災害に対する当事者意識がまだまだ薄いと思うような点も見受けられます。例えば、ハザードマップをつくってはいても形骸化していて、実際に起こり得ることが十分に想定されていないとか、庁舎が使えなくなったときに電気や通信の環境が整う代替場所が確保できていない、などです。災害対策は自治体によって差が生じているのが実情です。
ー それらの課題に対し、具体的にはどのような解決策がありますか。
近年は、職員向けの教育制度も拡充されています。具体的には内閣府の「防災スペシャリスト養成研修」など、研修を受講された方はやはり防災意識が高いと感じます。また、全国の自治体から被災地へ応援職員を派遣する、総務省の「応急対策職員派遣制度」も優れた制度です。応援として派遣されリアルに災害対応を経験すると知見が広がり、格段に力をつけていると思いますね。
人手不足に関しては、ボランティアの活用が必須です。「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」などの外部組織と連携しつつ、受援体制の整備が必要だと思います。例えば土砂災害の際には、重機を扱える人を集めるなど、状況に合わせて色々なボランティアを受け入れられる体制をつくり、自治体の新しい武器にしていかなければなりません。
これらに加え、私は“縁助”を提唱しています。自助・共助・公助の中で、共助にあたる地域コミュニティは崩壊しかけています。そこで、職場、友人、顧客、取引先、趣味など、あらゆる“縁”で助け合い、防災力を高めるという考え方です。今ならネットワーク上の“縁”があれば、遠方でも支援できるかもしれません。これらを災害時だけでなく、平時から防災に活かせるように考えていくことが重要です。そして、これら全てを支えるものとして、ICT推進は欠かせないものだと思います。
ー そのICT推進について、自治体にはどんな発想が求められますか。
防災におけるICT推進は、すでに待ったなしの状況です。今後も地震は起き続けるでしょうし、気候変動に伴う災害は増え、日本の人口は減り続ける。ベテラン職員は辞め、設備は老朽化する。つまり我々は下りのエスカレーターに乗っているわけです。その流れに逆らうには、従来のアナログな手法だけではもう無理なのです。
また、このICT推進において重要なのが、業務とシステムの標準化。この視点を欠いてしまうと、災害時の情報収集や避難所での受付方法、通信手段などが自治体によってまちまちになり、混乱がさらに増します。いざというときに自治体同士で力を貸し合うためにも、教育や能力も含めて標準化することは、避けて通れない道だといえるでしょう。
ー 現場では、ICTに対する苦手意識が強い方々もいると思います。
システムの使い方のような“How to”から考えるのではなく、そもそも自分たちは何をしなければならないのか、なぜやるのかという“What・Why”の視点から入るといいでしょう。例えば、災害時にまずやることが被害状況の確認です。それが分からなければ対応のしようがありません。
次に、把握した情報をどうするかといえば、対応する人たちに分かりやすく共有しなければいけません。対応済なのか、未対応なのかも整理しなければいけません。では、それらをどうやるのか、と流れで考えていけば、自ずとシステムが便利ということが理解できるでしょう。どう使うかの“Howto”から入ると、本質的な議論がないまま危機感だけが先行してしまいます。
システムは負担を増やすのではなく、負担を減らす道具なのだと認識できれば、ICT化は進んでいくと思います。また、1つの道具ですから、平時から誰もが使えるようにしていくのも、防災担当者の新しい役割ではないでしょうか。
災害検証報告書を活用して先読み型のリアルな対策を!
ー 危機管理においては、BCPの充実も重要です。何をするべきでしょうか。
“災害時にどう対処するのか”が災害対応マニュアルだとすると、“その結果、使えなくなるリソースに対してどう対処するのか”がBCPの本質的な部分です。例えば庁舎が使えない、人が集まれない、電気が使えなくなったときに、どう事業を継続するのか。使えなくなるリソースを洗い出し、発災から初動、中間期、復興などのフェーズごとに対応策を考えておく必要があります。
BCPが機能するかどうかを試してみることはできませんから、被災自治体の検証報告書をぜひしっかり読んでいただきたいですね。近年では熊本地震や西日本豪雨に関する優れたレポートが出ています。中でも、被災自治体の首長たちがまとめた「災害時にトップがなすべきこと」というレポートは簡潔で分かりやすい構成です。
事実、「他自治体の検証報告書がとても役に立った」という声も多数聞きます。今まで経験したことのない状況でも、それがあれば予測して先手を打つことができる、“未来を見通せる本”が検証報告書なのです。
ー 全国の自治体の防災・危機管理担当の皆さんへメッセージをお願いします。
いざ災害が起きると、平時にどれだけ準備をしていたか、その差が如実にあらわれます。私の提唱している“縁助”についても、繰り返しになりますが、“平時にどのくらいつながり合えるか”というのが本質です。住民が「この場所が危険だ」「この家族はどう避難するのか」などと日常的に話せる土壌をつくり、そのネットワークに自治体も入って、いざというときに動いてもらえる関係を築いてください。
自治体の防災・危機管理はとても地道な仕事です。そんな中、1つ1つの意味を考えながら職務に打ち込む皆さんの行動が、市民の安全を支え、首長の意思決定も支えています。ぜひモチベーション高く、活躍していただきたいと思っています。