「ジチタイワークス無料名刺」を手掛かりに公務員の仕事観を深堀りしていくインタビュー企画「私と名刺のはなし」。今回は、「地方公務員マーケター」としても活躍されている、北海道猿払村・新家拓朗(しんや たくろう)さんにインタビュー。特徴的な経歴、地方公務員マーケターとしての活動、名刺へのこだわり、今後の展望など、気になるお話をたっぷり伺いました!
企画系15年という特徴的な経歴
ー まず、ご自身の経歴を教えてください。
新家さん:1年目は税務係に配属されました。一般的には税務部や税務課があり、そこから色々な係に分かれると思うんですが、猿払村では3〜4人の税務係が全ての税を担当しています。18歳のとき1年間いただけなので、業務のことは正直あまり覚えていませんが...(笑)。
2年目〜8年目の7年間は、広報やまちづくりといった今の仕事につながる仕事を担当し、アイデアが形になる経験をすることができました。「アイデアを提案する」ことの意味や大切さを学んで、今の自分につながっていると思います。
▲当時の写真
ー 具体的にはどんな経験をされたのでしょうか?
新家さん:例えば、広報紙の毎月発行と経費削減を同時に実現した経験があります。猿払村ではかつて、広報紙の発行が2カ月に1回でした。当初は何とも思っていませんでしたが、北海道の広報紙担当者が集まる会議に参加したとき、同様の自治体はほとんどないと知り、住民に早く情報を伝えるためにも毎月発行した方がいいと考えました。ただ、発行回数を倍にしたら経費も倍かかってしまいます。そこで、経費を安くするため、デザインなどを自主制作して印刷だけ業者に依頼することを提案したところ、採用されたんです。
ー 9年目以降はどんなお仕事をされていたんですか?
新家さん:総務課に異動し、情報システム系の仕事を8年間担当しました。
猿払村では当時ノートパソコンを使っていたのですが、持ち運んで使うことはほとんどありませんでした。それだったら画面が大きくてキーボードが打ちやすいデスクトップの方がいいと思い、デスクトップに替えたところ、作業がしやすくなったと好評でした。企画系でやっていた仕事はどこでも活かせるのではないかと思いながら仕事をしていましたね。
ー そして企画政策課に異動されたんですね。
新家さん:係長に昇進し、新たな村長が就任したタイミングで発足した企画政策課に異動することになりました。現在は、村全体の総合計画やまちづくり、移住や関係人口、ふるさと納税など幅広い仕事を担当しています。経験を活かしてアイデアを実現する仕事に携われるのはとても幸せです。
色々な分野の仕事が役場にはありますが、私は総務系9年と企画系15年という非常に偏った経歴です。65歳まで働くことを考えると残り23年、この後キャリアがどうなっていくのかという期待も不安も抱えている24年目ですね。
地方公務員マーケターとして情報発信
ー 新家さんはTwitterで「地方公務員マーケター」として情報発信されていますよね。
新家さん:地方公務員の枠組みの中でもマーケターの感覚を持って仕事をしたいという意味での「地方公務員マーケター」です。公務員であっても、あらゆるところでマーケティングのスキルは必要なので、学びながら実践しています。
ー Twitterで情報発信されながら「これはマーケティングだな」と感じた瞬間があったのでしょうか?
新家さん:そもそも猿払村を知ってもらうためにTwitterを運用しているので、名前にキャッチーさが必要だと感じました。ただ「新家拓朗」と書いているだけでは、知らない人にとってはただの四字熟語でしかありません。最初は「地方公務員」「企画政策課」としか書いていなかったんですが、自分を端的にあらわすために何が必要かと考えたとき、「マーケティングをしているんじゃないか」と思ったのです。
ー Twitterでの情報発信を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
新家さん:実は、Twitterでの情報収集は2006年くらいから始めたのですが、投稿したことはありませんでした。
でも、2020年4月、新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、保育所が休所になったことがきっかけになりました。「子どもたちのために何かしてあげたい」と保育士さんたちが相談に来てくださり、歌や踊りを届けられないかという話になったんです。だったらYouTubeに動画を投稿すればいいと思い、保育士さんと動画制作ができる地域おこし協力隊の方に参加してもらって動画を撮影。そして、お便りなどでの周知によって地域の子どもたちには見てもらえたのですが、日本中の子どもたちにも見てほしいということでTwitterに投稿してみたのが始まりでした。
▲Twitterに投稿された動画
試行錯誤の積み重ねでフォロワー数1万人を突破
ー 新家さんのアカウントは、現在フォロワーが公務員アカウントでは異例の1万人を超えていますよね。
新家さん:そのようですね。きっかけとなったのは、コロナ禍の影響で猿払村のホタテを海外に輸出できず、流通が停滞したことでした。ホタテの消費を少しでも拡大しようと、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を活用して、村内の全世帯に干し貝柱200gと冷凍ホタテ貝柱4kgを配ったんです。私も頂いたので自分で食べようと思っていたんですが、自分で食べてしまうだけではもったいないと思いました。
そのときにTwitterを見ていたところ、企業がプレゼントキャンペーンをやっていて、ものすごいリツイート数で盛り上がっていたのです。それで、何人かでも投稿をリツイートしてくれたら猿払村のホタテが広がるのではないかと淡い期待を抱きました。うまくいくかは分からないけど、やってみる価値はあるんじゃないかと思ったのです。
ー 結果はどうでしたか?
新家さん:初回は干し貝柱のプレゼントキャンペーンを実施したら、150リツイートという信じられない反響で、一気にフォロワーさんも増えてびっくりしました。冷凍ホタテ2㎏分もプレゼント企画に使ったところ盛り上がって、約1年であっという間にフォロワー数1万人、猿払村の人口の3倍以上になりました。現在、プレゼントキャンペーンは第56弾まで実施しています。最も大きな反響があった回は、リツイート3,000超え、インプレッションも10万を超えるなど、少しずつ積み重ねることの効果を実感しています。
▲新鮮な活ホタテもプレゼントに!
ー そういった実績は仕事にも活きているのでしょうか?
新家さん:猿払村では、ふるさと納税の公式Twitterアカウントも開設しています。私の取り組みを通じてある程度の手ごたえを感じたので、村のアカウントの方でも何度かプレゼント企画を実施しました。私はキャンペーンを50回以上実施してフォロワー1万人でしたが、村のアカウントの方は5〜6回であっという間に1万人を達成。自治体は信頼度が高いので、SNSとの相性は非常に良いと思います。
その後には個人でnoteを開設し、猿払村でもnoteを始めました。自分でトライして、良さそうだと思ったら仕事に活かすことを繰り返しているのですが、自分で実績をつくっていると説得力のある説明ができるので、提案書も通りやすいと思います。
ー そういった活動の中で心掛けていることはありますか?
新家さん:やらないで考えていてもどうしようもないので、まずはチャレンジすることが大事と考えています。ただ、特に自治体の場合、何かやるからには目的などの設定がとても大事です。見切り発車で「良さそうだからやろう」と始めてしまうと、進めるうちに「何を載せたらいいのか」「どれくらいの頻度で発信したらいいのか」と行き詰まってしまいます。
また、管理職である私がやると言えばやることになってしまいますが、若いスタッフがどう思うのかも大事です。村として情報発信していかなければならないという考え方がある中で、少ないスタッフで何ができるか、どのくらいの頻度でするか、何を伝えていきたいかを具体的にしっかり考えてもらい、それが固まってからスタートする様にしています。
▲魅力的な特産品がたくさん!
二次元コードがこだわりポイント
ー 「地方公務員の名刺事情と私の歴代名刺たち」という記事をnoteで上げられていますよね。名刺に結構こだわりがあるのかなと感じました。
新家さん:名刺にはこだわっていると思いますね。(歴代の名刺が入ったファイルを見せながら)2年目以降の名刺は全部残しています。2年目に使っていた名刺は、職場の先輩が使っていたデザインを名前だけ変えてそのまま使いました。2年目以降の名刺は、自分でデザインしています。「おっ」と言ってもらいたくて色々なデザインを試してきました。
また、総務課に異動したときはデザインがシンプルになりましたね。それまでは印刷会社に印刷してもらっていたのですが、この年からは自宅のインクジェットプリンターで印刷するようになりました。
▲歴代名刺たち
ー 現在の部署に異動されてからは、どんな名刺を使われてきたのでしょうか?
新家さん:今の部署に異動して係長になったときは、シンプルでスタイリッシュな名刺をつくりました。その後は、村のことを感じてもらいたいと考え、自分で撮った特産品やおいしいものやきれいな景色の写真、村のFacebookと自分のInstagramの二次元コードを載せた名刺をつくりました。
ー 今お使いの名刺はどんなものですか?
新家さん:こちらの名刺です。今はスマホで二次元コードを読み取れるので、プロフィールページをしっかりつくって二次元コードからアクセスしてもらおうと考え、デザインをシンプルにしました。スキャンするのに邪魔なものは入れない方がいいと思い、オモテ面には必要最低限のことだけ書いて、とにかくシンプルにしています。
二次元コードを読み込んで飛んだ先のプロフィールページには、カレンダー販売サイトやSNS、加入しているコミュニティ、インタビュー記事、観光協会や村のふるさと納税のサイトや動画、私の連絡先やプロフィールを載せています。このページを更新していくことで、いつ名刺を渡しても最新情報を見られるようになっているんです。
▲現在の名刺
ー Twitterで名刺デザインに関するアンケートを実施されているのを拝見しました。
新家さん:自分がいいと思うものと、受け取る人がいいと思うものが違うのが嫌だったので、認識のすり合わせをしたかったんです。
ちなみに、『広報さるふつ』の表紙の写真も私が担当しているのですが、案が複数あるときは若手スタッフにも意見を聞きます。「私はこっちがいいかな?」という心の声はあるんですが、管理職がそう言ってしまうと若いスタッフの本心が聞けなくなってしまうので、私の意見を言わずに尋ねて「同じ意見だった」「今回は違った」と思っています(笑)。そしてもちろん若手スタッフの意見を採用します(笑)。
▲『広報さるふつ』表紙の候補写真
継続が次のモチベーションに
ー 新家さんは、常にアクティブに行動されているイメージがあります。へこむこともあると思うのですが、どうやってモチベーションをキープされているのでしょうか?
新家さん:実は、去年とても大きな出来事があり、「へこむ」では表現しきれないほど落ち込んだときがあったんです。さすがにそのときには、Twitterもnoteも一時的にやめようと思いました。でも、家族は私がどういう想いで毎日やっているかを知ってくれているので、「やめた方がいいよね」と相談したときに、「そこは分けて考えて、続けた方がいいんじゃないか」と言ってくれました。冷静になるとその通りでしたが、当時は引きずってしまっていて、家族の力を借りることで道を見失わずに継続できたんです。
私は継続が得意なわけではありません。でも、一度止まってしまうと次のスタートまで時間がかかってしまうので、継続が次のモチベーションになるんです。落ち込むことがあったとしても、やる価値の方が高いと思っているので、Twitterもnoteも毎日更新しています。しんどいときもありますが、リアクションがあるから続けられますね。嫌々やっているわけではなく、目標に必ず結びつくものだと信じているからできているのかなと思います。
ー その原体験は何だったのでしょうか?
新家さん:企画政策課に異動してきたときにFacebookページを立ち上げ、3年3カ月、休日関係なく1日も休まずに投稿したことですね。休日は休むべきなので、公務員の仕事としては褒められたものではないと思いますし、それを後輩にそのまま引き継ぐつもりもありませんでしたが、ページを盛り上げるためには毎日投稿していく方が面白いと考えました。
そこで、毎朝必ず写真を撮って投稿していましたが、私が出張に行ったりして投稿できないときもありました。そんなときは、家族に写真を撮ってもらい、出張先から投稿していたんです。3年3カ月やってきたけど、家族の協力があったからこそ実現できました。そうやって1日も休まず投稿する中で、猿払村の人口を超えるフォロワーさんに見てもらえるようになりました。このような成功体験があるので、地道に継続すれば結果がついてくるんじゃないかと信じて、今も仕事に取り組んでいます。
ー 3年3カ月続けた投稿はその後どうなったのですか?
新家さん:課長補佐に昇進することになり、Facebookに直接関わらなくなるタイミングで「これが最後の投稿になります」と投稿しました。すると、その記事が村のFacebook史上最多の600いいねくらいを頂けたので、泣きそうになりましたね。
その後は、休日の投稿はやめるように提案して、「可能なら月曜日~金曜日の週5日の更新で」と引き継いだんですが、後輩たちも継続の重要性を理解してくれていて、月曜日~金曜日は1日も休まず更新してくれています。
▲職場の皆さんとの集合写真
村を知ってもらうことがマーケターとしての使命
ー 最後に、今後の展望を教えてください。
新家さん:私の取り組みは、私的なものも公的なものも、猿払村を1人でも多くの人に知ってもらいたいからやっているのですが、根底にあるのは猿払村の知名度の低さです。
実は、Twitterで「猿払村を知っていますか」と質問したところ、24%の方しか知りませんでした。基本的に私のフォロワーがアンケートに参加しているので、高めに数値が出るはずです。それを踏まえると、20%くらいの方しか猿払村を知らない。それが100%になったら私の活動は必要なくなるのかもしれません(笑)。
ー どのレベルまで知名度を高めたいと思われているのでしょうか?
新家さん:東京は誰でも知っていますよね。東京と同じレベルに猿払村を押し上げることが最終目標ではありますが、それはとても難しいことですので、私の取り組みは終わりません。
地方公務員マーケターとしての活動は、仕事とかプライベートとか関係なく、もはやライフワークとなっています。おいしいものがあったり、いい景色があったり、素敵な人がいたりする素晴らしい猿払村を知ってもらうことが、マーケターとしての私の使命です。
おわりに
今回は、北海道猿払村・新家拓朗さんにお話を伺いました。村の知名度向上のために情報発信を続ける、地方公務員マーケターとしての熱き想いが印象的でした!
今回の記事を作るにあたり送っていただいた写真がどれも素敵だったので、最後にご紹介したいと思います!
猿払村、行ってみたいです!
プロフィール
北海道猿払村
企画政策課 課長補佐
新家 拓朗(しんや たくろう)
https://lit.link/takuroshinya
1980年猿払村生まれ。地元の高校を卒業後、1998年4月猿払村役場入庁。現在の担当業務は村全体の計画づくり、地方創生、関係人口創出、ふるさと納税、広報、地域プロモーション、IoT推進ラボ(施設園芸を活用した農業)、地場産品開発・ブランディングなど。公務員生活24年間のうち広報部門に通算15年携わる。日々の業務や暮らしの中、猿払の知名度の低さを痛感し、地域の情報を発信することに関心を持つ。2014年頃からSNSを活用した猿払のプロモーションを村と個人で開始。村内外に猿払の持つ魅力を届けるプロジェクトSARUFUTSU-LABOを2020年に立ち上げ、自ら撮影した猿払の写真でカレンダーの販売を開始するなど、公私ともに地域プロモーションのカタチを模索している。
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