【セミナーレポート】人事・労務のDXはなぜ進まない? 落とし穴を避けて業務効率化を実現するために知っておきたいこと
数多くある自治体業務では、デジタル導入の進捗に差が出てしまうものですが、官民問わずDX化が遅れがちなのが人事・労務に関する分野です。
このセミナーでは、自治体DXの陣頭指揮をとった元日南市長と、人事・労務に特化したベンダーの担当者が解決に向けたヒントを提供。その内容をダイジェストでお伝えします。
概要
□タイトル:人事・労務の無駄よ、さようなら。~自治体業務効率化オンラインセミナー~
□実施日:2022年1月21日(金)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:84人
□プログラム:
第1部:官民連携で実現する、役所内業務の効率化とは?
第2部:DXを阻む障害はたったの2つ!
入社手続きと給与明細と年末調整をペーパレス化したら生産性が6.5倍になったカラクリ全公開
第3部:トークセッション
官民連携で実現する、役所内業務の効率化とは?
DXをどれだけ進めても、目的意識が伴わなければ思うような成果を出すことはできない。日南市のDXを推進した﨑田氏が、職員にはどのような心構えが必要でどう進めるべきなのか、市長時代の貴重な体験談を交えて語ってくれた。
<講師>
﨑田 恭平 氏
元宮崎県日南市長
プロフィール
1979年生まれ、宮崎県日南市出身。九州大学工学部卒業後、宮崎県庁、厚生労働省を経て、33歳の若さで宮崎県日南市長に就任。2期8年を務め、3期目は出馬せず、2021年4月に退任。現在は、株式会社飫肥社中の代表取締役を務める。
自治体DXを理解するための“3つのフェーズ”とは?
近年のトレンドである自治体DX。最近は猫も杓子もDX…というイメージがあるかもしれませんが、私からは、そもそもDXとは何なのかというところからお話しします。これは私なりの考え方ですが、自治体DXには大きく3段階あります。
この中で、ほとんどの自治体が(1)の段階です。これは、窓口の手続きをスマホや自宅でできるようにするなど、様々な面を便利にしていくというフェーズです。ただし、自治体DXには次のステップ(2)にあたる自治体の各政策分野をデジタルで効率化していくという面があるべきで、それが実現すれば市民もより便利になると同時に、役所側もさらに業務を効率化できます。後で紹介する、災害避難所の運営事例がこれにあたります。
もう1つ、(3)では行政の仕事がDXで便利になるだけでなく、もっと社会においてDX化が進んでいくという理想的なフェーズです。例えば一人暮らしの高齢者が要介護状態にあるとして、その方の血圧や体調などが自動的に計測され、かつそれが色々な機関とも共有される…といったことが実現できれば、それは高齢者のウェルビーイングになり、最終的には医療介護費の軽減にも繋がります。こうした部分で行政が音頭をとり、自然発生を待つのではなく民間に任せていくことができれば、本当の意味での高度なDX化になるはずです。
民間とのタッグで現場負担を軽減し、住民サービスも向上した2つの事例
ここで事例を紹介します。1つ目は、先ほど触れた災害避難所のDXで、NHKのニュースにも取り上げられた事例です。
この取り組みでは、避難所が満員で受入中止になるのを防ぐために、民間事業者と協力してリアルタイムで状況把握ができるようにしました。職員が各避難所について、やや混雑、混雑、定員に達している、という状況を入力し、情報はすぐにマップに反映され、メールやLINEで受け取った市民がそれを確認するというものです。日南市がこれを導入した後、全国200以上の自治体に広がりました。
この仕組みは、飲食店の混雑状況を知らせる民間サービスがベースになっており、それを災害避難所に応用したのです。現在はこのシステムをさらに高度化しようと進められています。これがまさに災害避難時におけるDXです。
続いて、2つ目の事例。こちらはコールセンターなどのバックオフィス業務を外部の専門会社に委託する取り組みです。具体的には、複数の近隣市町村で連携して1つのコールセンターを作るというもので、これまでの常識では大きな自治体しかできなかったことを実現しています。民間のコールセンターなので、行政の仕事がない時には民間の仕事を受ける、という安定したモデルが作られています。
これは窓口系のDXに該当しますが、以下のようなメリットを生み出します。
今、自治体ではコロナワクチン接種の受付や、給付金の手続きなど、突発的に発生した業務を抱えています。これに対応するために、従来は会計年度任用職員を雇ってしのいでいました。しかし、こういった方法が官製ワーキングプアを生むなどと批判されているのも事実です。
そこで方法を変え、民間に出すことで職員の負担軽減を実現するとともに、地元の雇用も創出できます。加えてDX推進も同時に進められるというメリットがあるのです。
香川県にも類似の事例があり、大型ショッピングセンターに自治体の出張カウンターを作っています。そこにタブレットが置いてあり、タップするとオペレーターが出てきてTV電話のように対応してくれるというものです。高齢者などにも使いやすく、役所側には土日や時間外でも業務を進める窓口ができるというメリットがあります。
このように、DXには色々な形があります。ITを使いながら業務がどんどん便利になるということは、職員が楽になるのはもちろんですが、市民の利便性も上がり、様々な課題解決に結びつけることができます。DXを推進する仕組みは他にも多くあります。この後、エフアンドエムの話に続いて、もう少し深めたディスカッションを行いたいと思います。
DXを阻む障害はたったの2つ!
入社手続きと給与明細と年末調整をペーパレス化したら生産性が6.5倍になったカラクリ全公開
人事・労務領域のDX推進はなぜ遅々として進まないのか。その打開策はあるのか。民間2万社の人事・労務サポートを行っているエフアンドエムの池邉さんが、同分野における課題とその解決法を惜しみなく公開する。
<講師>
池邉 俊貴 氏
株式会社エフアンドエム
オフィスステーション事業本部 企業ソリューション 部長
プロフィール
エフアンドエムでルートセールス、マネジメント、新規販路開拓の責任者などを歴任し、新たな収益モデルの創出などを経験。これまで現場で出会った3,000を超える経営者、社労士、企業担当者から得た「改善例」を基にしたセミナーを年間100回以上開催。大企業から少数精鋭の企業まで数百社のバックオフィスの効率化支援を「オフィスステーション」を通じて拡大しつつ、人事総務業界ならではの「今」を日々発信している。
税金分野と人事・労務分野で、DXの差が出た大きな理由とは?
私からは、生産性がDX化で飛躍的に向上したという事例と、民間企業で多くの導入事例を持つ当社の製品について紹介したいと思います。
まず、簡単に自己紹介です。当社は創業から33期目、主に中小企業向けのバックオフィスに関するコンサルティングをしています。そこで得た企業スキルを活かし、システム参入したのが2016年。人事・労務領域に特化したオフィスステーションという製品では、労務、年末調整、給与明細、有給管理、マイナンバーに対応したシリーズがあります。その人事・労務を取り巻く環境についてお話しします。
社会保険・労働保険の電子申請で、大きな転機があったのが電子申請の義務化です。ご存知の方も多いと思いますが、資本金1億円という縛りがあるものの、社会保険・労働保険の申請は紙ではなく電子で、という法令ができました。そうした変化を経た今、電子申請の普及率はグラフの通りです。
e-Taxと呼ばれる税金分野の電子申請は広く普及しました。しかし、社会保険・労働保険分野の電子申請は大きく水をあけられています。なぜこういうことになったのかというと、e-Govという電子申請システムの操作が難しいということが、大きな要因だと指摘されています。
これから各自治体でもDX化を加速させるところだと思いますが、そこで重要なのが、システムというのは“使いこなさなければ意味がない”という点です。いくら機能が優れていても、多くのユーザーに受け入れられるとは限りません。ここが難しいところであり、e-GOVの普及率に如実に現れています。
また一方で、テレワークの導入が進む中、日本CHO協会が実施したアンケートでは、以下のような結果が出ています。
民間ではコロナ禍を機に約90%もの企業がテレワークを導入・拡大しています。ただし、職種別に見ると、事務職におけるテレワークの実施率は26.1%にとどまる、という結果です。実際に、営業・コンサル・IT系などの職種はPCがあれば出社しなくても何とかなるのですが、事務職では押印文化などが邪魔して在宅勤務も難しいのです。
その証拠に、同じアンケートで上がったテレワークに関する課題として、「ペーパレスの決済・手続き」が70%を占めているのです。この問題をDXで解決していかなければなりません。
ただし、大きな落とし穴があります。解決するためのクラウドソフトの選択です。現在、人事・労務の領域だけで、どのくらいのシステムがあるのでしょうか? 答えは下記の通りです。
実に、約300ものソフトが市場に出回っています。この中から選ぶのも至難の業で、実際にどういう問題が起きているかというと、未使用の機能が約4割もあるというのが“業界あるある”になっているのです。つまり、使うソフトの見極めが重要だ、ということです。
システムの特性を見極め、業務効率化・ペーパレスを実現!
ここで、当社のオフィスステーションはどういったソリューションを提供しているのかという点を紹介します。
まずは労務について。オフィスステーションには「マイページ」というものがあり、職員側は自身のスマホ、PCやタブレットなどの端末で、入庁手続や身上申告、雇用契約といったデジタル化された情報、給与明細などを閲覧でき、ペーパレスかつリアルタイムに自治体側とのコミュニケーションができます。e-Govとも接続しているので、社会保険や労働保険の電子申請も可能です。
また、自治体からの問い合わせが最も多い「年末調整」ですが、オフィスステーションでは職員が端末上でアンケートに答えれば終わる仕組みになっています。紙は使わずに、「下記の情報に変更はありますか」という質問に回答していき、答えた情報を所轄部署に届けるのです。源泉徴収票も給与ソフトから取り込めば、職員はマイページで取り出すことが可能です。
また、年末調整と同じく問い合わせが多い「給与明細」については、給与ソフトからデータを取り込む方法になっています。それをマイページに配信することで、紙を使わずに職員は給与明細を確認することができます。もちろん印字やダウンロードも可能で、紛失のリスクもありません。
以下は、実際に利用されている方から届いた声の抜粋です。それぞれに業務効率化・ペーパレスに貢献し、コスト削減に繋がっていることが分かるかと思います。
業務効率化の実現は、今まで着手できなかったより重要度の高い仕事に向き合う時間をつくることに繋がる。それが大きな価値だと思います。
なお、こうしたソフトには「アラカルト型」サービスと「パッケージ型」サービスとがあり、両者は特徴が違うので、導入環境に合わせて選ぶ必要があります。
我々がDX支援をしていく中で感じるのは、“緩やかな浸透と習熟”でデジタル化していくパターンが上手くいく、ということです。一度にシステムを入れると、慣れていくのに時間がかかるし、職場でも浸透しづらい、という問題が発生しがちです。
最小限の人数や最低限の機能でスタートし、慣れた頃に機能を足していくという緩やかな進め方で、最終的に効率化を実現するというのが今の時代の考え方だと思います。そうした点も含めて、皆さんと一緒に業務効率化を実現していければ幸いです。
トークセッション
ここからは進行役を交え、舞台をよりフランクな雰囲気に。セミナー視聴者の質問も絡めつつ、﨑田氏、池邉氏の意見を自由に交わしていただいた。
―IT化、デジタル化、DXなど色々な言葉がありますが、DXとはそもそもどのようなニュアンスなのでしょうか?
﨑田:IT化というのは、例えば紙で見ていたものをPCとかスマホで見られるようにするものですが、DXは仕組みとしてそれに関わる人たちが一気に便利になる、というところまで昇華されたものです。抽象的かもしれませんが、個別の具体事例で示していくものだと、私は捉えています。
―お話の中で印象的だったのが、「自然発生を待たずに行政から仕掛けていく」という点。職員は、自治体の困りごとをどう解決するか日頃から考えておくことが大切なのだと思いました。
﨑田:全くその通りです。自治体職員は、例えば一人暮らしの高齢者をどう見守るかという地域課題があった時に、それを日頃から意識しておかなければならない。意識しておけば、いろんな企業と出会った時にマッチングできます。さらに、そうした悩みを普段から発信しておくといいでしょう。すると企業側も「こういうことを提案してみよう」と持ってきてくれるかもしれません。自分の担当業務の課題を整理して頭に入れておくことがDXの第一歩だともいえます。
―次に池邉さんへ。業務効率化は大切ですが、民間ではどのくらい労務に関してシステム化は進んでいますか?
池邉:我々の調査では、約4割弱の企業が人事労務領域のクラウド化を進めています。導入を検討している段階の企業も多いのですが、お金をかけるなら売上が伸びる方に、という発想があり、「バックオフィスにお金をかけるのは難儀だ」という声も聞かれます。特に担当者からすると、業務が楽になれば早く帰れる。しかしそれを上司に提案すると「君が楽になるだけだよね」という答えが返ってくる。今までの文化というものもあるでしょうし、そのあたりのせめぎ合いがあるという印象です。
―ここからは参加者からの質問に答えるQ&Aタイムです。「庁内のシステムにアクセスできる端末を持たない職員や、会計年度任用職員の場合はどうすればいいか」という質問が来ています。
池邉:オフィスステーションの導入企業の事例でいうと、マイページはインターネット環境があれば使えるので、自身のスマホ、PC、タブレット、あるいは家族のスマホで年末調整をする方もいますし、事務所にPCを用意し、従業員が使いまわして進めるところもあります。ID・パスワードはユニークなものなので、問題なく処理ができます。
―次の質問です。「DXの大きな壁として、セキュリティとプライバシー対応がある。どちらも100%完璧な対応がない中で、DXを進めるための落としどころは?」
﨑田:これは自治体から結構出る話ですが、見えない敵と戦っている部分があって、実際のシステムではデータが暗号化されて飛んでいたりします。災害避難所のシステムでも、インターネットの回線上では暗号化されているので、仮に傍受されても解読はできません。ほとんど可能性がないような見えない敵を恐れているケースが多いと、私は考えています。
―「ペーパレス化を進める上で、既存の業務体系に慣れている職員の意識改革も必要だと思います。その点についてアドバイスを」という質問もきています。
﨑田:これは難しいのですが…昨今のオンライン化が進んだのはコロナ禍の影響があった訳で、それ以外の部分はトップのリーダーシップが大きいと思います。そのトップの意識を変えるには、便利だと感じるように、具体的に示すことかと思います。あとは地道な職員研修をやることでしょうね。
―そうした意味でも、スモールステップを積み上げることが大切かと思います。池邉さんのところのシステムは、リスクを最小限に抑えながらやっていけると。
池邉:そうですね。一番理想的なのはリーダーの意思も含めて「こっちに行くぞ」と舵切りをすることです。ただし、一方で組織の文化もあるので、スモールスタートで一部から始めて成功事例を作り、安心という名の承認を得て、そこからドン!と広げていくというのがクラウド導入の方法なのかと思います。
―そのためには、誰と組むかというのが大切ですね。安心感のあるパートナーと進められれば、自治体の業務効率化もうまくいくのではないかと思います。ありがとうございました。
﨑田・池邉:ありがとうございました。
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