令和6年度に週休3日制の試験的運用を始めた久慈市。職員のワークライフバランス向上を目指したこのチャレンジは、庁内にどのような変化を起こしているのか。取り組みをけん引する職員に“現場のリアル”を聞いた。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。
Interviewee
久慈市 総務部総務課 人事係
係長 中村 武志(なかむら たけし)さん
自治体が抱える課題の解消に向けて「週休3日制」を選択。
令和5年8月、人事院は国家公務員の働き方において、勤務時間の総量を維持した上で週に1日“ゼロ割り振り日”の設定を可能とするよう国会・内閣に勧告した。いわゆる“選択的週休3日制”で、これに久慈市はいち早く反応した。
中村さんは「多様な働き方を実現する一助になると考えました」と振り返る。「職員数の減少と、業務量の増加が進む中、新しい制度が働きやすい環境をつくってくれるかもしれません。同時に、こうした挑戦は明るい話題になるとも考えました」。
早速同市では導入手法を検討した。週休3日制に合わせ、フレックスタイム制の採用も議論されたが、これはいったん見送りとなった。「フレックスタイムを制度に取り入れると、職員の勤務時間が複雑化してしまい、今の体制ではカバーできないと考えて見送りました」。
最終的にたどり着いたのは、月~金曜日までのうち、一定のルール下で勤務時間を延長し、同じ週に1日分の休暇を取得できるというもの。もちろん延長分の合計は1日の就業時間である7時間45分が条件となる。この案を実行するために、まずは庁内での合意形成に向けて動きはじめた。
議会や職員組合、庁内管理職などへの説明を実施すると、おおむね承認の姿勢だったが、各方面から“健康面の問題はないのか”“集中力は持続するのか”といった質問が出たという。「こうした不安の声に対しては、まず労働基準法をきちんとクリアしているという点を伝え、制度を利用する職員の反応も見て、もし体に負担があるとか、集中力が続かないといった声があれば改善をしていく、という説明で理解を求めました」。
また、“休みが集中するのでは”という指摘もあったが、「お盆休みと同じ考え方です」と伝えていったそうだ。「夏の特別休暇も、毎年職員間で調整しながら取得しています。週休3日も同様です。市民サービスに影響が出ないことを第一に考え、休みの偏りが出ないよう各所属課で調整してください、とお願いしました」。
こうした説明に加え、“あくまでも選択肢の1つである”という点も強調していった。週休3日は強制ではない。勤務時間は変わらないが満足度は高まる、そんな働き方を選択できる職場環境を整えるためのものである、とメッセージしていき、庁内の理解が得られた。その上で、まずは試行から開始することを決めた。
期間限定の試行では、手間を削減する工夫も。
週休3日制試行の第1期は、令和6年5月13日から、同年8月31日までの期間としてスタートした。対象は、総務課、地域づくり振興課、市民課など10課を選定。「庁内で温度差はあったものの、『うちの課でもやりたかった』『制度を拡大してほしい』という声もあり、関心度は高いと感じました」。
この制度を利用する職員は、勤怠管理システムで事前に勤務延長の予定を入力し、所属長と調整した上で休暇を取得する。現状のシステムで対応できる範囲だったため、特にシステム改修などの大がかりな変更はなかったという。「例規についても、試行段階ということもあって、解釈の仕方で適用できる範囲内で進めています」。
試行開始後、5月には38名、6月には47名の職員が制度を利用。一定の利用者が出そろった時点でアンケートを実施した。アンケートは利用者、未利用者双方に対して行い、様々な意見が寄せられた。
「思っていたよりも積極的に利用してもらえた、という印象でした。総務課としても、まずは一度体感してもらって、その上での意見がほしいと思っていたので、忙しい中で取り組んでくれた職員には感謝しています」。
また、中村さん自身も週休3日を取り入れてみて、利用者目線での分析を行っていった。体験してみるにあたって、「実は私の中にも懐疑的な部分が残っていました」と明かす。
「仕事量は変わらないのに1日休むというのはどうなのかな……と。でも実際にやってみると、思ったよりも集中力が持続し、充実感もあります。いつもの残業より“ここまで頑張ろう”という意識が働く感じです。そして平日に休むという特別感も味わえました」。
こうした手応えと、職員アンケートで集まった意見をもとに、同市の取り組みは次のステップへと進んでいった。
職員の声を集め、取り組みをブラッシュアップしていく。
試行第2期の実施に向けて、同市では制度の改善を進めた。例えば、アンケートで寄せられた「朝早い時間から勤務できるようにしてほしい」「勤務の割り振りは2~4週間の方がいい」といった柔軟化を求める声に応え、“早出”の時間にも適用範囲を広め、勤務割り振りは2週間に拡大することとした。
また、“勤務時間が増えるので集中力が続かない”という職員もいたため、割り振り2週間への拡大と合わせて勤務延長時間を15分単位で選べるように変更。「そのほか、“職員が揃わず、課内での相談やミーティングに支障がある”という意見もありました。これに対しては、各課で職員の週休日を調整しミーティング時間を確保していただくよう依頼しました」。
こうした改善を加えた上で、令和6年9月から第2期がスタート。今回は、特別職と短時間勤務の会計年度任用職員を除く全職員を対象とし、令和7年3月末まで続けられる。「第2期開始後に利用者へヒアリングしたところ、第1期よりも職員の満足度が高まっているのを感じています。『平日に休んで妻とゆっくり買い物ができた』といった声を聞くとうれしいですね」。
ほかにも、「1日1時間プラスする程度であれば負担感はないので、1週間で調整するのに比べて取り組みやすい」「これまで始業前に出勤して準備していたが、オンタイムで就業できるようになり、実質の仕事時間は減っていると思う」といった感想が寄せられており、中には、“勤務時間が長くなるので、単純作業はいいが考える業務には向かない”といった考察的な意見もあったそうだ。中村さんは「こうした意見も、非常に参考になります」と話す。
試行錯誤を繰り返し、働き方の選択肢を増やしていく。
現在、週休3日制の利用者を増やしながら、本格導入の判断に向けてデータを回収・分析している同市。手応えは十分に得られているが、同時にこの制度は全てがメリットという訳ではないと中村さんは念を押す。
「例えば、職員数が多い部署の方が利用しやすい、といった面は否めません。だから取りやめるのではなく、ならばどうすればいいのかという視点で、今後工夫を重ねていきたいと考えています」。
実際にアンケートでは“窓口の開設時間を見直してはどうか”という意見も上がっているのだという。「今は、勤務時間と窓口開設時間が同じです。そのため、職員はシステムの立ち上げと作業の締めを行うために、早く出勤して、退庁時間も延長しなくてはなりません。他自治体では窓口時間を見直す動きも出ていると聞きます。同時に第2期の試行では、“窓口時間の前後に仕事ができるので、時間を意識した働き方をしつつ窓口対応がスムーズにできる”といった評価もされており、こうしたことを総合的に考えて、市民サービスの質を損なわずに働き方を改善する方策を練っていく必要があります」。
週休3日制という働き方で職員のモチベーションを高め、ウェルビーイングにつなげようとする同市の試み。他自治体からも注目されており、問い合わせなども受けているという。
また、市民や地域の事業者からも「週休3日を始めたそうですね」と声をかけられることもあるそうだ。こうしたことも“いい変化”だと中村さんは受け止めている。
「この取り組みは、多様な働き方をサポートする環境をつくり、職員のやりがいを生むことが目的です。それを通して市民が魅力的な取り組みだと感じていただければ、市役所のイメージアップに貢献してくれるかもしれません。これからも試行錯誤は続きますが、久慈市にとってこの取り組みがプラスに作用するよう、挑戦を続けていきたいと思います」。