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【公務員のメンタルヘルス最前線―データと現場から考える #02】公務員は何にストレスを感じているのか

キャリア・働き方
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【公務員のメンタルヘルス最前線―データと現場から考える #02】公務員は何にストレスを感じているのか

近年、増加傾向にある公務員のメンタルヘルス不調。いまや地方自治体の持続可能性にも関わる重要なテーマです。この連載では、現役の地方公務員で自身も不調を経験し、現在は情報発信や支援活動に当たっている「県庁メンタル応援課」さんにお話を聞き、公務員のメンタルヘルスの現状についてデータと現場感覚の両面から分析。職場環境や働き方を見つめ直し、無理なく働き続けるためのヒントを探ります。第2回は公務員が何にストレスを感じているのか、データから分析します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療行為や診断を目的としたものではありません。体調や心身の不調については、医療機関等の専門家へご相談ください。記事の掲載情報は公開日時点のものです。

公務員がストレスを感じる要因は何か?

- 連載初回は公務員のメンタルヘルスの現状と民間との違いについて伺いました。

前回は、公務員のメンタルヘルス不調が増え続けていること、そして民間と比べて高い水準にあることをデータにもとづいて解説しつつ、自治体運営の持続性という観点から、改めて危機感をもって捉え直す必要があるのではないかと問題提起を行いました。

今回は、公務員は何にストレスを感じているのかについて、調査結果をもとに分析していきます。

民間企業に勤める知人に「公務員のメンタル不調は民間に比べても多い」と伝えると、「公務員は雇用も安定しており、民間に比べてプレッシャーが少ないのではないか」と驚かれることも少なくありません。こうした認識は一般的にも存在すると考えられます。

一般に、メンタルヘルス不調は、個人の資質のみで生じるものではなく、様々なストレス要因が蓄積した結果として現れると考えられています。

半数以上が「職場の対人関係」と回答。

- 公務員はどのような要因によってストレスを感じているのでしょうか  

地方公務員災害補償基金、一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会、総務省による「地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会」の令和6年度報告書では、若年層職員のメンタルヘルス不調理由として考えられるものについて、2県内46団体の担当者に調査を行っています。20-30代の若年層職員のメンタルヘルス不調の割合が高いことは、前回述べたとおりです。

その結果、「職場の対人関係」(54.3%)が最も多く挙げられ、続いて「元々の精神疾患の悪化」(36.9%)、「困難業務」(30.4%)、「異動・昇任」(28.2%)などが挙げられています(複数回答)。また、「異動・昇任」と回答した団体のうち6割近くの団体の担当者が、異動・昇任後3カ月以内に不調に陥る傾向があると考えているとの回答があったとされています。


【若年層職員のメンタルヘルス不調理由】
※回答者の判断・所感で主な理由上位3つを選択。

※出典:地方公務員災害補償基金、一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会、総務省「令和6 年度地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会報告書」

また、総務省自治厚生局公務員部安全厚生推進室が令和2年に実施した「地方公務員のメンタルヘルス対策に関するアンケート調査」においても、休務に至った理由として最も多かったのは「職場の対人関係(60.7%)」であり、次いで「業務内容(困難事案)」(42.8%)、「本人の性格」(30.9%)となっています。この調査は、47都道府県、20指定都市、1,721市区町村に対して行われています。

※出典:総務省「地方公務員のメンタルヘルス不調による休務者及び対策の状況」

「本人の性格」といった回答も一定数見られますが、これも個人の資質の問題としてのみ片付けるのではなく、職場環境や支援体制との相互作用の中で捉える必要があります。

このように、公務員のメンタルヘルス不調の背景として「人間関係」に関するストレスが主要因の一つであることが読み取れます。現場感覚としても、「業務そのもの」よりも「誰と働くか」によって、メンタルの状態が大きく左右されると感じています。また、異動・昇任によって人間関係が変化した直後にストレスの負荷が強くかかり、メンタルヘルス不調に陥りやすくなるのだと考えられます。

民間企業では「仕事の量」が大きな要因。

- ストレス要因にも公務員と民間で違いがあるのでしょうか。 

一方で、民間企業におけるストレス要因については、厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」として、全国の約14,000事業所に対し調査を行っています。無作為抽出した約18,000人の常用労働者を対象に、仕事や職業生活に関するストレスの状況を聞いている設問があります。

現在の仕事や職業生活に関することで強いストレスとなっていると感じる事柄の内容をみると、「仕事の量」が43.2%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が36.2%、「仕事の質」が26.4%となっています。反面、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」は26.1%となっています。

※出典:厚生労働省『令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」

この設問はメンタル不調者に休職に至った理由を直接聞く設問ではないことから単純比較はできないものの、公務員は対人関係に関連するストレスが、民間企業では業務そのものに関するストレスが相対的に多い傾向にあることが読み取れます。

ただし、ここでいう人間関係の問題は、単なる個人間の相性やコミュニケーション能力の問題にとどまらず、公務員という職務の特性や人事制度、組織文化などと密接に関連している可能性があります。

「対人関係の質」を組織的に支える必要。

- 公務員と民間では、ストレスの質に違いはあるのでしょうか。

地方公共団体では、2~3年に1度の定期人事異動が一般的であり、その都度、新たな業務内容や職場環境への適応が求められます。さらに、土木から福祉といったように、専門性や業務内容が大きく異なる部署間の異動も少なくなく、こうした異動は民間企業における転職のようなものと表現されることがあります。その結果、職員には新たな人間関係の構築を繰り返し求められることになります。

対人関係に起因するストレスが主要因として挙げられている中で、さながら転職のような人事異動により人間関係の変化が生じやすい職務環境にあることも、公務員特有の特徴といえます。とりわけ20〜30代の若年層において不調割合が高いことを踏まえると、キャリア初期における人間関係や異動環境の影響は無視できません。

個人のストレス対処能力の向上も重要ですが、こうした状況を踏まえると、時間外労働の削減や業務の平準化といった業務面へのアプローチに加え、職員同士が安心してコミュニケーションや相談を行うことができる職場環境の整備など「対人関係の質」を組織的に支える取り組みの重要性が高まっていると考えられます。

つまり、職員個人の対人努力に依存するのではなく、職場全体として心理的な安心感を確保できるような組織環境の整備が、メンタルヘルス不調の予防という観点から求められているのです。

次回は、このようなストレス要因を抱える公務員に対して、国や自治体がどのようなメンタルヘルス対策を講じてきたのかを整理するとともに、休務に至っていないもののメンタル不調を抱えながら勤務している、いわゆる「プレゼンティーズム」の問題についても解説します。