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【公務員のメンタルヘルス最前線―データと現場から考える #04】個人と組織で支える公務員のメンタルヘルス―セルフケアと健康経営の視点

近年、増加傾向にある公務員のメンタルヘルス不調。いまや地方自治体の持続可能性にも関わる重要なテーマです。この連載では、現役の地方公務員で自身も不調を経験し、現在は情報発信や支援活動に当たっている「県庁メンタル応援課」さんにお話を聞き、公務員のメンタルヘルスの現状についてデータと現場感覚の両面から分析。職場環境や働き方を見つめ直し、無理なく働きつづけるためのヒントを探ります。最終回となる今回は、公務員のメンタルヘルスを支える上で個人と組織に何が求められるかを考えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療行為や診断を目的としたものではありません。体調や心身の不調については、医療機関等の専門家へご相談ください。記事の掲載情報は公開日時点のものです。
個人と組織、それぞれができることは?

- これまでは公務員のメンタルヘルス不調の現状について伺ってきました。
第1回から第3回では、増加を続ける公務員のメンタルヘルス不調の現状をデータから確認し、その背景には「人間関係」に起因するストレスが大きい傾向があることを整理しました。さらに、国や自治体において様々な対策が進められている一方で、休職には至らないものの、メンタル不調で思うように働けず生産性を落としている職員への視点が重要であることも紹介しました。
最終回となる今回は、これらの状況を踏まえ、
・職員個人ができること
・組織として取り組むべきこと
という二つの点から、公務員のメンタルヘルスを考えていきます。
個人が取り組む「心のセルフマネジメント」。
- まず個人が取り組むべきことは何でしょうか。
程よく安定したメンタルで働きつづけるためには、日々のセルフケアが土台となります。
(1)生活習慣を整える
食事・睡眠・運動は、心身の安定を支える基本です。栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠時間の確保、日常的な運動。こうした生活習慣は、ストレス耐性を高める土台になります。
また、スマートフォンやSNSなど、刺激の強い情報から意識的に離れる時間をつくることも、心を整える上で有効とされるセルフケアの一つです。
(2)思考の癖に気づく
公務員に多く見られる傾向として、「べき思考」「ねばならない思考」などがあります。
例えば、「自分はこうあるべきだ」「同僚はこうするべきだ」といった考え方です。こうした思考は真面目さや責任感の裏返しでもありますが、強すぎると自責や怒りを生みやすくなるとされています。
そこで有効なのが、日記やジャーナリングなどを通じて自分の思考を客観視することです。自分の考え方を書き出してみることで、思考の癖に気づきやすくなります。
大切なのは、生じた思考や感情を否定せず、ありのまま受け止めることです。「ポジティブ思考」よりも「ネガティブ受容」が心の安定につながるとされています。
(3)一人で抱え込まない
信頼できる同僚や上司、職場の相談窓口など、早めに相談することもセルフマネジメントの一部です。
評価が下がることを恐れ、メンタル不調を「バレないように」隠そうとするのはおすすめできません。誰かに話すことで気持ちを整理できたり、解決の糸口が見えてくることもあります。
また、公務員の特徴として、人事異動によって定期的に人間関係や業務環境が変わることが挙げられます。新しい環境では最初は気を張って働くことが多いですが、異動後2~3カ月ほど経った頃に疲労が表面化するケースも少なくありません。特にこのタイミングで自身の状態を振り返り、意識的にセルフケアを行うことが重要と考えられます。
組織における「健康経営」とワーク・エンゲイジメント。
- 近年重視されている「健康経営」についてご説明ください。
第3回でご紹介したように、国や自治体ではメンタルヘルス対策の計画策定など、全庁的な取り組みが進められています。
こうした対策は「不調者を減らす」という視点が中心でした。しかし近年は、単に不調を防ぐだけではなく、職員が前向きに働ける状態をつくるという視点が重視されるようになっています。
その背景には、休職に至らないまでも生産性が低下する「プレゼンティーズム」への関心の高まりがあります。
本章では、総務省研究会資料などで紹介された「健康経営」を参考に、公務員のメンタルヘルスを整理していきます。
(1)健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康保持・増進への取り組みを、組織の持続的な成長につながる投資として捉える考え方です。
職場でのコミュニケーションをはじめとした職場の機能そのものが職員のメンタルヘルスに与える影響にも注目し、職員が生き生きと働ける環境を整えることによって、組織のパフォーマンスを高めていくという視点です。

出典:総務省「令和6年度地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会報告書(現地開催等の概要)」
(2)ワーク・エンゲイジメント
健康経営を考える上で重要な概念が、ワーク・エンゲイジメントです。ワーク・エンゲイジメントは、活力、熱意、没頭の三つの要素から構成され、仕事に対するエネルギーや意味づけが感じられて「職員が生き生きと働いている状態」のことです。

出典:総務省「令和6年度地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会報告書(現地開催等の概要)」
「職員が生き生きと働いている状態」を実現するためには、職員に心理的資本が必要とされます。心理的資本とは、働く人が仕事に対して自信や希望をもち、前向きに困難を乗り越えようとする力のことで、希望、自己効力感、回復力、楽観性の4つから構成されます。
そしてこの心理的資本は職員個人の性格ではなく、職場によって育まれる側面があります。
例えば、「新しい業務への挑戦を後押しする」「チームとして困難に対応していく視点を培う」といった取り組みによって、職員の心理的資本を向上させられるでしょう。

出典:総務省「令和6年度地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会報告書(現地開催等の概要)」
(3)心理的安全性
こうしたワーク・エンゲイジメントの取り組みを支える土台となるのが心理的安全性です。心理的安全性とは、「ミスをしても必要以上に責められない」「 困ったときに支援を求められる」「安心して意見を言える」と職員が実際にそう感じられる状態のことです。
心理的安全性が確保されない職場では、職員の不安が高まりやすく、結果としてメンタル不調のリスクを高める可能性があります。第2回でも触れたように、公務員組織では人間関係が大きなストレス要因となりやすいことが示されています。
だからこそ、「困ったときに相談できる」「失敗しても不利益を受けない」「職場の一員として尊重されている」と職員が実際に感じられるような職場マネジメントが、管理職に求められているのです。

出典:総務省「令和6年度地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会報告書(現地開催等の概要)」
個人と組織の両輪でメンタルヘルスを支える。
- 公務員のメンタルヘルスを支える上で、個人と組織が担うべき役割は。
公務員のメンタルヘルス不調は、もはや個人だけの問題にとどまりません。組織構造や職場文化、組織マネジメントとも密接に関係しています。
だからこそ、「個人はセルフマネジメントを行う」「組織は健康経営の視点で環境を整える」、この両輪が必要になります。
公務員を取り巻く環境は、人口減少や行政課題の複雑化、職員数の減少などにより、今後さらに厳しさを増していくでしょう。
その中で、一人ひとりの職員が安定したメンタルで働き続けられるかどうかは、住民サービスの質にも直結すると考えられます。
公務員の仕事は、制度や法令を踏まえながら地域の行政課題の解決に向き合う仕事です。難しさもありますが、その成果が行政サービスとして社会に還元されていくという大きな意義があります。そのために職員が力を十分に発揮するためには、心身の安定が重要です。
職員個人のセルフマネジメントと、組織による健康経営の推進。この両輪がかみ合ったとき、よりよい行政サービスと、程よく安定したメンタルでの公務員人生が実現するのではないでしょうか。
本連載が、公務員のメンタルヘルスを考える一つの視点となり、職員一人ひとりが安定したメンタルで働き続けられる職場づくりの一助となれば幸いです。











