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【セミナーレポート】業務改善から始める未来の人材戦略 「選ばれるまち」の入口になる 奨学・修学支援金制度へ

支援金業務を一元管理|業務効率改善から、教育格差を解消しUIターンを促進する
文部科学省・こども家庭庁が2024年夏~秋に発表した教育費負担軽減策により、奨学金を含む就学支援金業務が大きく変わる可能性が出ています。そんな未来を見据えて、すでに奨学・就学支援金業務のDXに取り組む自治体も。
なぜなら、奨学金や子どもの学習を支える修学資金は、単なる福祉ではなく、若者から「選ばれるまち」になるための強力な武器だからです。そこで、本セミナーでは、自治体の事例とともに奨学・修学資金支援制度についてあらためて考えてみます。
概要
■テーマ:業務改善から始める未来の人材戦略「選ばれるまち」の入り口入口 奨学・修学支援金制度へ
■実施日:令和7年12月19日(金)
■参加対象:無料
■申込者数:53人
奨学・修学資金制度を“負担”から“投資”へ。自治体の運用最適化と人材育成を実現する最新手法
第1部に登壇したのは、奨学金の様々な課題を解決するプラットフォームを運営する株式会社ガクシーの高橋修平氏。奨学金制度の基礎をわかりやすく解説するとともに、実際に業務改善や学生支援に取り組む自治体の事例を紹介してもらった。

【講師】
高橋 修平 氏
株式会社ガクシー
クライアントソリューション部・マーケティングチーム
【プロフィール】
株式会社ガクシーで奨学金DXを推進するBtoBマーケ責任者。自治体向けSaaSの導入戦略と伴走支援を担当し、企画立案やデータ活用にも精通している。
ガクシーが取り組む社会課題
「諦めなくていい社会の実現」をビジョンに掲げ、若者の可能性を広げる新しいお金の流れをつくる事業に取り組む株式会社ガクシーは、日本最大級の奨学金プラットフォームを運営し、学生・保護者、奨学金を運営する団体、そして資金提供者の三者をつなぐ役割を担っています。
現在、日本では学生の約2人に1人が何らかの奨学金を利用しています。そのうち約8割が、卒業後に返済が必要な「貸与型」です。返済不要の「給付型」は全体の3割程度にとどまっています。奨学金は大きく「貸与型」「給付型」に分けられますが、近年は返還を支援する「返還支援型」や、働くことで返済義務が軽減される「労働型」など、多様な形が存在します。


また、提供主体も、日本学生支援機構(JASSO)だけでなく、学校独自の奨学金、財団や一般企業、自治体による奨学金など多岐にわたっています。給付型奨学金は、国の制度だけを見ると規模が小さく見えますが、実際には民間を中心に数多く存在しています。ただ、その情報が十分に学生に届いていないという課題があります。

学校・財団・企業・自治体による奨学金
JASSOとは別に、大学独自の基準で運営されている奨学金もあります。その一例が、早稲田大学です。

また、財団による奨学金は、かつては特定分野向けが中心でしたが、近年は分野を限定せず、意欲ある学生に広く門戸を開く給付型が増えています。一般企業による奨学金も多様化しており、現金給付だけでなく、商品やサービスの提供、割引といった形で学生を支援するケースも見られます。

自治体の奨学金は、「地域の学生や家族の支援」「地域人材の育成」「定住促進」を目的としている点が特徴です。地域出身者や在住者、地域に貢献する意思を持つ学生を対象とし、返還免除や返還支援といった制度設計が行われています。

自治体の奨学金制度には主に3つのタイプがあります。高校生・大学生向けの奨学金、医療・看護など特定分野向けの修学資金、そして代理返還支援制度です。

一方で、自治体の皆さんからは共通した課題も多く聞かれます。制度そのものが十分に認知されていないこと、制度設計や運用に地域差があること、継続的な財源確保が難しいこと、申請手続きが煩雑であること、条件が合わず学生が利用できないケースがあることーーこうした点が、制度の効果を十分に発揮できない要因になっています。

先進的な奨学金運営に取り組む自治体
そこで、先進的な奨学金運営に取り組む自治体の事例をご紹介します。
長野県の「奨学金返還支援制度(信州未来共創事業)」は、県と企業が連携し、日本学生支援機構の返還額を支援する仕組みです。企業にとっては人材確保への投資となり、自治体にとっては若者の定着促進につながる、官民連携型のモデルです。自治体単独ではなく、企業を巻き込んだ運営になっている点が、非常に先進的だと思います。

青森県むつ市の「おかえり奨学金」は、自治体、地元企業、金融機関が連携し、教育ローンの返済を支援する仕組みです。地域経済全体で若者を支える構造が特徴で、単なる補助にとどまらず、雇用創出と定着促進を同時に実現しています。

福井県は事例がかなりあるので一部の紹介となりますが「企業版ふるさと納税」を活用して基金を設立し、理工系人材の奨学金返還を支援しています。財源確保、対象分野の明確化、人材定着を三位一体で進めている点が特徴です。

弊社が取り組みを支援している鳥取県では、奨学金運営をシステム化し、申請から管理までをデジタル化しました。学生はスマートフォンから申請でき、職員とのやりとりラインで完結します。業務負担の軽減と、利用しやすさの向上を同時に実現しています。

ガクシーができること
ちなみに、学生アンケートからは、進学先を選ぶ際に「学びの内容」「将来の職業とのつながり」「費用」が重視されていることがわかっています。医療・福祉など専門職分野を検討する学生は多く、奨学金や補助金の有無が進路選択に大きく影響しています。「学費を抑えられると知っていれば検討した」という声も一定数ありました。

こうした状況を踏まえ、ガクシーでは、学生・保護者が利用できる奨学金の情報探索サイトを無料で提供しています。検索できるほか、奨学金について学べるコンテンツもあるので、ぜひお時間がある方はのぞいてみてください。
https://gaxi.jp/

さらに、このサイトと連携し、学生データの取り込みやWEB応募機能なども展開できる、学校・財団・自治体向けの奨学金運営DXプラットフォーム「ガクシーAgent」も提供しています。

ウェルネス事業にも力を入れています。


「学びたいけど経済的な理由で学ぶことを諦めてしまう若者がたくさんいる」という実情があるというものを、私たちは知っています。このウェビナーをきっかけに、弊社のサービスを使う・使わないという枠組みだけにとどまらず、色々な奨学金、学生支援の枠組みについて知っていただけると幸いです。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:金銭貸与のほか、免除インセンティブや追加補助などについて、海外も含めて事例があれば教えてください。
A:最近ですと、企業がお米を5kg届けるといった「食」の分野での支援を展開する事例もあります。海外だと、ビジネス的な観点になりますが、スポーツ奨学金を得てプロになり、そこから一部を基金に戻して次の世代の支援に充てるといったものもあります。
教育格差の実態と支援の在り方
第2部に登壇したのは、『教育格差(ちくま新書)』の著者・松岡亮二氏。「生まれ」がどのように大学進学の格差に変換されるのか、その実態とメカニズムを解説してもらうとともに、奨学金の重要性や自治体が取るべき支援の方法を探った。

【講師】
松岡 亮二氏
龍谷大学
社会学部 准教授
【プロフィール】
ハワイ州立大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。博士(教育学)。東北大学大学院COEフェロー(研究員)や早稲田大学准教授などを経て2022年度より現職。早稲田大学ティーチングアワード(2015年度春学期、2018年度秋学期)、東京大学社会科学研究所附属社会調査データアーカイブ研究センター・優秀論文賞(2018年度)、早稲田大学リサーチアワード「国際研究発信力」(2020年度)などを受賞。著書『教育格差(ちくま新書)』(2019)は、1年間に刊行された1500以上の新書から「新書大賞2020」で3位に選出された。2026年1月時点で17刷、電子版と合わせて7.2万部。
「教育格差」とは何か
「教育格差」とは、子ども本人が変更できない初期条件、つまり「生まれ」によって教育の結果に差がある傾向を意味します。日本社会の教育格差を説明する主要な「生まれ」は、出身家庭の社会経済的地位(Socioeconomic status、以下SES)、出身地域、性別です。SESは親の学歴や職業、世帯収入、文化的行動などを含む複合的な指標です。近年では国籍や母語が日本語かどうかも、「生まれ」として扱う必要性が高まっています。
学歴によって得られる便益の差を意味する「学歴格差」とは別の概念であることを、まずは知っていただきたいと思います。

教育格差は近年だけの現象ではありません。戦後日本社会に育ったすべての年齢層において、親の学歴によって子どもの最終学歴に差がある傾向は続いています。大学進学率が上がっても、近年の若年世代であっても、構造は概ね変わっていません

地域格差も同様で、三大都市圏とそれ以外で最終学歴に差があり、若い世代でも傾向は続いています。

地域格差の背景には、そもそも大学進学を期待する高SES層が都市圏に住む傾向に加え、都道府県による高校制度の違いなどがあります。例えば、2023年度の高校3年生で普通科在籍率が最も高いのは東京都(88.6%)で、最も低いのは宮崎県(45.4%)です。これらの普通科在籍率は4大進学率と関連していて、どの都道府県で育つかによって現実的な進学機会に差があると言えます。

教育格差のメカニズム
では、SESはどのように子どもの最終学歴に変換されるのでしょうか。ここでは2つのメカニズムを紹介します。一つは「学力」格差です。SESが高い家庭の子は学力が高く、結果として大学に進学する傾向があります。
もう一つは「選択」格差。学力の高低を統計的に調整しても、社会経済的に恵まれた家庭の子は大学進学を望み、恵まれない家庭の子どもは大学進学を望まない傾向があります。この「選択」格差は他の社会でも観察されています。日本でも高校1年生の段階で大学進学を見込む割合はSESで差があり、フィンランドやアメリカなどでも同様の傾向が確認されています。

同一の児童生徒を追跡するパネル調査で、学年間で比較可能な学力指標を用いた分析によると、家庭の蔵書数(SESの代理指標)が少ない層は、小学校4年生の時点ですでに学力が低い傾向があります。また、学年が上がればどのSES層も学力自体は伸びるものの、層間の差は縮小しません。小6から中3まで追跡しても同じ傾向が続きます

さらに、「選択」格差は子ども本人だけの問題ではなく、親の期待にも同じ傾向が見られます。小学校4年生の時点で、両親大卒家庭では子に大学進学を期待する割合が高く、両親非大卒家庭では低い。これは中学校段階でも観察できます。早い段階で「大学進学を当然視する/しない」が分かれていることになります。
さらに、公立小学校に限定しても学校間にSES格差があるという前提を踏まえる必要があります。給与の高い職業の割合や不動産価格はすべての地域で同じではありませんので、両親大卒家庭の割合が高い学校もあれば、そうでない学校もあります。必ずしも「(公立だから)多様な(階層の)子がいる」わけではありません。

コロナ禍と教育格差
コロナ禍では、もともと世帯所得が低い両親非大卒層ほど「生活が苦しくなった」割合が高かったことが私たちの調査データで明らかになっています。両親大卒層では「(まったく・あまり)苦しくなっていない」割合が高い一方、「(やや・とても)苦しくなった」家庭は両親非大卒層に多く見られます。

コロナ禍前から存在している学力格差は、2019年から2021年にかけて小中学校ともに差がやや拡大しました。

そして、より奨学金と関わるのが「選択」格差の拡大です。「生活が苦しくなった」層では、子ども・親ともに大学進学期待が2時点間で低下する傾向が見られました。中学生では通塾しなくなる傾向や、高校選択で「できるだけお金がかからないこと」を重視する傾向もありました。結果として、親子が教育競争から自ら撤退していくような動向と言えます。


奨学金制度の限界
ここで、奨学金制度の限界をあえて強調します。奨学金の対象は基本的に「進学したい」と思っている子どもに限られます。しかし、出身家庭のSESによって小学校入学時点ですでに基礎的な学習技能に差があり、小4時点で学力格差と進学期待格差が存在し、それらの差は学年が上がっても縮小しません。基礎学力が不十分で大学進学を現実的に想像できない子どもの学習行動や進路希望は、奨学金“だけ”では変わりそうもない、という前提を関係者全員が共有する必要があります。
もちろん、経済的支援は重要です。ただ、「自由に選んでください」と形式的に選択肢を並べるだけでは、「生まれ」の役割を拡大し、結果を自己責任化することになります。より多面的・複合的な実態の理解に基づかなければ奨学金制度は機能しそうにありません。
また、どれだけ制度が充実していても、利用者が少なければ意味はありません。ポスターやチラシだけで「応募は本人次第」になっていないか、問い直す必要があります。「申請が難しそう」「手続きが面倒」「どこに相談すればいいかわからない」と感じて自発的に手を挙げないのは、おそらく社会経済的に恵まれていない層です。親自身が非大卒だと、大学進学を具体的に想像しにくく、必要以上に難しいものだと誤解している可能性を示唆するデータもあります。

だからこそ、高校生になってから制度を告知するだけでは遅くないでしょうか。小・中学校段階から「金銭的理由で進学を諦める必要はない」というメッセージを継続的に届け、自治体と学校が情報を共有し、早期に進学を選択肢として示すことが重要です。同じ自治体でも公立小学校間にもSES格差がある前提で、情報提供の工夫が求められます。「同じ情報を同じ形式で渡しました、あとは自己責任です」になっていないか、という視点が欠かせません。

ここまでは、研究者としてデータを分析した内容をお話してきましたが、最後に、私の意見を述べさせて頂きます。大学進学は短期的には若年層流出につながるかもしれません。ただ、「地元愛」や「絆」を押し付けるよりも、自然と「地元に貢献したい」という感覚が育つ状態を目指すべきではないかと考えています。そのためには、大人が財政面などの制約がありながらも、“できうるあらゆること”をすべて実行する姿を見せる必要があるはずです。結果として、「完璧な“地元”ではないけれど貢献したい」と思う子たちの増加につながるのではないでしょうか。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:奨学金の採用者数が少数で推移しているため、抜本的な制度改革を検討しています。格差を埋めるための施策は何が考えられるでしょうか。
A:未だに、視界に入るケースだけで「日本には教育格差は(たいして)ない」であるとか「奨学金があるのだから、本人の志(こころざし)次第だ」といった声を聞くことがあります。データに基づいた教育格差の実態を知る人が少しでも増えれば、議論の風向きも変わり得ます。一人でも多くの住民が印象ではなくデータに基づいた課題認識を持てば、抜本的な制度改革も可能になるはずです。
Q:高校生の奨学金を実施しています。お金の話を子どもたちにすることに対し、難色を示す教員や保護者がいます。どのような働きかけをすれば意識を変えられるでしょうか。
A:繰り返しになりますが、まずは教育格差の実態を知ることが第一歩になります。出身家庭のSES、出身地域、性別といった「生まれ」による格差は、自身の可能性を最大限に追求できていない子が少なくないことを意味します。お金の話をしないことは、「あり得た未来」という可能性を削る行為です。教員の皆様には勤務時間内の研修で教育格差の実態をデータに基づいて理解して頂きたいと思います。社会経済的に恵まれず生活が苦しい子が自ら進学を諦めている場合、それを「本人の意思」としてただ受け入れることは理想的な進路指導ではないはずです。保護者や教員を含めた身近な「大人」が“できうるあらゆること”をすべて実行する姿を子どもたちに見せることが重要ではないでしょうか。
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