「ジチタイワークス無料名刺」をご利用いただいた方の声を聞く新企画の第2回。
今回は、プロ雀士「ルーラー山口」としても活動されている徳島県美馬市の山口 明大(やまぐち あきひろ)さんにインタビューした前編。仕事観が変化した経験や仕事への熱意について、じっくりお話を伺いました。
入庁後2カ月で白血病と診断された
ー 美馬市役所に入庁される前は、民間企業で働かれていたそうですね。
山口さん:大学卒業後、介護事業所の事務職、塾講師、麻雀店店長を経験した後、2001年、当時の脇町役場(現、美馬市役所)に入庁しました。最初に配属された課が介護保険課だったのは、前職が介護事業所ということが少なからず影響していたとは思うのですが、当時始まったばかりの介護保険制度について無知だった私は相当苦労しました(笑)。
ー 入庁後すぐに病気が見つかったと伺いました。
山口さん:入庁して2カ月後に白血病を発病したので、その年はほとんど病院暮らしでした。最近は白血病にも色々な薬がありますが、当時は骨髄移植を受けないと治らないとされていました。今のようにドナーが大勢いる時代ではなかったのですが、奇跡的にドナーがすぐに見つかり、病気が発見されて1年後に移植を受け、その半年後に復職できました。
▲闘病中の様子
ー 復職後はどんな仕事をされていましたか?
山口さん:上司の計らいもあり、復職後の異動先は比較的業務量の少ない図書館でした。
学生時代からイベントを主宰したり、民間で働いていた時も遊ぶより仕事の方が好きだったので、「神様が与えてくれた時間だからこの期間を使って行政に関する色々な勉強をしよう」という意欲がありました。
でも、闘病前のような体力が戻ってくることもなく、免疫力も弱かったのですぐに体調を崩してしまい、「仕事より自分の体が一番、仕事は適度でいいや」と思うようになりました。
滞納整理機構への出向で仕事観が変わった
ー 何がきっかけで仕事への意欲を取り戻したのですか?
山口さん:2006年、徳島県市町村総合事務組合徳島滞納整理機構に第1期生として出向したことですね。茨城県、三重県に次いで、当時日本で3番目に設立された、市町村単独で処理することが困難な大口滞納事案を専門に処理する組織です。
滞納整理機構には、私を含めて市町村から4人、県から2人の計6人が出向していました。ほかの自治体はエース級の職員を送り込んでいましたが、私一人、徴収経験が全くないままの出向だったので、最初の1カ月は職場のトイレで泣く日々を過ごしました。でも、そのときに出会った上司や滞納者に影響を受けて、仕事への意欲を取り戻したんです。
ー 滞納者からどんな影響を受けたのですか?
山口さん:生活が苦しい中でも文句も言わず黙って納期内納付をしている納税者がいる中、お金があるのに税金を支払わない滞納者もいました。そして、2年間の出向期間で「悪質な滞納者に立ち向かう仕事はやりがいがあるのではないか」と気づいたんです。
ー 出向期間を経て、仕事観はどう変わったのでしょうか?
山口さん:私が出向から美馬市に戻った2008年当時は、県内の自治体単独で差し押さえをしている市町村は稀で、その上、延滞金は取らない、滞納者に呼び出されたら自宅まで取りに行ってあげるという、税金をきちんと納めている住民が知ったら暴動が起こるような状態でした(笑)。そんな中で私が美馬市に戻り、訪問集金の廃止、延滞金の完全徴収、資力があるにもかかわらず滞納している人への差し押さえをすることで、徴収率は向上しました。
そして、美馬市役所では年末に表彰があるのですが、結果を出したということで税務課として表彰していただきました。どんどん結果が出るのでやりがいが増していき、徴収の楽しさを極めてみたいと思うようになりました。滞納整理機構に出向して15年ほど経ち、税務課に所属したのは6年間だけなのですが、他の業務をしながらずっと徴収業務に携わっていますね。
自主財源を確保できる徴収業務に誇りを持っている
ー 具体的には徴収業務にどう関わってこられたのでしょうか?
山口さん:まず、2015年に総務省自治大学校へ行かせてもらったんです。専門的な知識が必要とされる徴収業務を、職員の数が減り、技術、スキルの伝承が難しい小規模自治体で効果的かつ効率的に運用できるシステムを作りたかったので、グループワークでの研究は「徴収業務の一元化」をテーマにしました。
出来上がった政策を美馬市に持ち帰って提言した結果、2018年に債権収納対策推進プロジェクトチーム(以下、PT)が立ち上がったんです。理解ある上司のおかげでここまで辿り着きました。本当に感謝しています。
▲総務省自治大学校での研究の様子
ー 「徴収業務の一元化」とは具体的にどんな内容でしょうか?
山口さん:通常、市役所では納める税金や保険料、保育料によって担当課が違います。でも、滞納者の多くは、色んな課で滞納しています。
例えば、PTができて以降、美馬市では、介護保険の窓口に滞納者が来た場合、税の滞納であるとか、年齢によっては後期高齢者医療保険料の滞納をチェックし、滞納がある場合はまとめて相談を聞きます。滞納処分する際も、他の滞納も併せて処分します。
ー 画期的な取り組みなのでしょうか?
山口さん:徳島県内では初めてですが、県外の自治体では債権管理課や滞納整理課などの名称で存在しています。
美馬市の場合、PTの職員として兼務辞令が出ていますが、各課の担当者は、徴収以外にも大切な業務を担当しており、徴収業務を専門的に担当しているわけではないので、私がサポートし、ノウハウを教えることで育てています。
ー 美馬市の租税回収率は改善しているのでしょうか?
山口さん:後期高齢者医療保険料と保育料は回収率100%です。美馬市では、2005年の合併前から保育料を滞納して放置されていた事案がありましたが、PTが設立された年、保育料の滞納を数か月でゼロにしたんです。
介護保険料は、約10%だった滞納繰り越し分が、PTが設立された年には70%になりました。おかげで、PTとしても2019年に表彰していただきましたね。
ー 徴収は注目されにくい業務だと思いますが、どんな点に魅力を感じていますか?
山口さん:自治体にとって唯一の自主財源を確保する仕事をしていることに、私は誇りを持っています。徴収業務は天職です。
また、税金や介護保険料、保育料など色々な滞納事案の徴収をする中で、徴収業務は、市役所の中で最も住民の「生の声」を聞ける業務だと分かりました。それと同時に、「住民と関わる仕事が一番合っている」と思うようになりましたね。
おわりに
今回は、徳島県美馬市の山口明大さんにお話を伺った前編をお届けしました。
後編では、名刺に対する考え方や今後の展望についてお話いただいていますので、どうぞお楽しみに!
▶インタビュー後編はコチラ! 「徴収業務でスキルアップしたい」プロ雀士公務員・山口 明大さんの仕事観【後編】
プロフィール
徳島県美馬市
美馬市 債権収納対策推進プロジェクトチーム
保険福祉部 福祉事務所 生活福祉課
山口 明大(やまぐち あきひろ)さん
2001年、当時の徳島県脇町、現在の美馬市に入庁。同年、慢性骨髄性白血病を発症。2002年5月、骨髄バンクを通してドナーから骨髄の提供を受けて職場復帰を果たす。介護保険課、税務課、保険健康課、にぎわい交流課などを経て、現在は生活福祉課でケースワーカー業務を担当。2007年、出向先の徳島滞納整理機構の職員として総務省自治税務局長特別表彰を受賞。2019年7月、認定特定非営利活動法人全国骨髄バンク推進連絡協議会理事に就任。2019年11月、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2019」を受賞。また、1999年よりプロ雀士として活動している。
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