ジチタイワークス

山口県

企業への技術支援や補助事業との連携体制で、宇宙技術を取り入れた防災事業に取り組む。

衛星データの活用で防災と業務効率化を目指す。

平成30年に宇宙ビジネス創出推進自治体に選定され、宇宙産業を産業イノベーション戦略における重点成長分野の1つに位置づけている山口県。「やまぐち産業イノベーション促進補助金事業(以下、補助事業)」では、宇宙利用産業分野に取り組む企業の研究開発を、令和元年度から支援している。この事業において令和2年度に採択された、衛星データ活用による「ため池防災システム」の取り組みを紹介する。

※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]山口県

災害の起因になるかもしれないため池の現状把握への課題。

瀬戸内海に面する地域は、大きな河川をあまり持たず、雨が少ない気候。「江戸時代以前から営農のためにつくられたため池が多く存在します」と、農村整備課の佃さん。かつて同県には1万カ所を超えるため池があったが、離農などにより数は減り、令和3年時点で約8,000カ所に。過去に集中豪雨で決壊したため池もあり、毎年梅雨前には、関係する市町の職員やため池管理者とともに点検を行っているという。「アナログですが、現地に赴いて様子を確認し、状態の悪いところがあれば指導するという業務を、平成元年から継続してきました」。

平成30年7月に発生した豪雨では、全国的に小規模なため池が決壊し甚大な被害が起きたことから、“ため池の緊急点検実施”の大号令が国から出された。このとき同県で行ったのは、効率的な点検の実施に向け、ため池点検の優先度を決定すること。このため、災害発生前後の衛星画像を比較し、危険度をチェックすることだった。「元々ため池の位置は座標値で把握していましたが、形状については正確な情報がありませんでした。しかし、衛星画像で形状を正確に把握し、災害発生前後で比較できれば、危険度などの優先づけができると考えました。何より“正確な形状把握”が重要課題だったのです」。

県独自のシステムとの連携で点検業務の軽減を実現へ。

前述の豪雨をきっかけに、同県では、独自でため池のデータ蓄積や、点検業務のシステム化を進めることに。そんな折、令和2年度補助事業の宇宙利用産業分野において「衛星リモートセンシング※を活用した“ため池防災システム”の構築」事業が採択された。衛星画像データなどを用いて、ため池の位置、形状、面積を抽出しシステムを構築するもの。これにより“ため池の形状把握”が正確にでき、危険度判定が可能に。また、点検の優先順位が分かれば、担当者の作業が効率化できる。

さらに、タブレット端末などを用いて点検がデジタル化されれば、業務軽減を見込めるという利点もあった。「事前に危険度判定ができれば、二次災害の防止や軽減、県民の安全を確保することが可能になります。現在も県のシステムと連携しながら進めているところですが、有事の際に、しっかり機能する仕組みにしていきたいですね」と佃さん。

※物を触らずに調べる技術。人工衛星や航空機などに専用の測定器を載せ、地上より離れたところから観測すること

「衛星リモートセンシングを活用した“ため池防災システム”の構築」

実証事業の連携体制

地元企業の宇宙産業への参入が、県の経済成長に結びつく。

平成28年度にJAXAの研究拠点が設置されたことを契機に、衛星データの応用研究や利用促進に取り組んでいる同県。山口県産業技術センターでは、全国に先駆けて「衛星データ解析技術研究会」を設立し、地元企業に対する講演会や技術セミナーを開催してきた。「研究会のテーマの中に、このため池防災システムがありました。そこで開発企業に対しては、県の補助事業への申請書作成からサポートを行いました。採択された後は、県とも連携しながら事業の伴走支援を行っています」と、同センターの藤本さん。

また、補助事業で宇宙利用産業分野を担当する新産業振興課の橋本さんは、「技術面だけでなく、不慣れな申請書作成などを支援してもらえるのは、企業にとって、とても心強いことだと思います」とサポート体制のメリットを語る。「県による補助金やセンターの支援を得て実証した事業が実際に運用されれば、新事業だけでなく雇用の創出にもつながります。地域経済の持続的な成長を目指し、今後もセンター等と連携しながら宇宙産業に関心を持つ県内企業の支援に取り組みます」。山口県の宇宙ビジネスの創出は、まだまだこれからが本番だ。

 

「今後の成長が期待される宇宙利用産業分野において、県内での事業化を促進することで産業の育成・集積を図りたいです。」

山口県
左:商工労働部 新産業振興課 主任 橋本 淳(はしもと あつし)さん
中央:農林水産部 農村整備課 主幹 佃 照久(つくだ てるひさ)さん
右:地方独立行政法人山口県産業技術センター 企業支援部 電子応用グループ
グループリーダー 藤本 正克(ふじもと まさかつ)さん

 

課題解決のヒント&アイデア

1.測位衛星データ活用で、異動に伴う引き継ぎもスムーズに

古いため池の場合、平面地図では現地までたどり着けないケースもあるそう。経路を測位衛星によりデータ化することで、担当者が変わっても、的確に現地へ向かうことができる。

2.技術的支援を手厚く行う産業技術センター

県事業により、衛星データの活用・解析などに関する技術アドバイザーや、事業化の相談に対応するコーディネーターを、産業技術センター内に配置。手厚い企業支援が可能に。

3.宇宙利用産業に対する企業の関心を集める企画

産業技術センターでは、実際のプログラムを使って衛星データ解析をするなど、実務に役立つセミナーを過去に47回開催。研究会設立時は21社だった参加企業が、今では47社に。

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 企業への技術支援や補助事業との連携体制で、宇宙技術を取り入れた防災事業に取り組む。