JAXAの技術を自治体で活かすパイオニアに。
災害発生時のドローン活用やコロナ療養ホテルへのロボット導入など、テクノロジーを活用した事業を展開する佐賀県。令和3年には、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」と全国初となる“宇宙×地方創生”の連携協定を締結したことでも話題に。平成28年より同県で“宇宙技術で地域課題を解決しよう”という取り組みを続け、この4月からJAXAに在籍する円城寺さんに、防災分野での宇宙技術活用について聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]佐賀県
豪雨災害の経験をきっかけに“宇宙×地方創生”協定を締結。
平成30年11月、同県知事とともにJAXAを訪ねた円城寺さん。知事の山口 祥義(やまぐち よしのり)さんは、総務省時代に災害現場の最前線を経験し、災害対策への思いも強い。今後、宇宙技術を活用する上で佐賀県として具体的に何をすべきか、JAXA理事長に直接意見を聞きに赴いたのだという。「JAXAが持つ人工衛星データは、災害はもちろん農林水産業など様々な分野で有効活用できること、宇宙食の技術を使った防災食づくりなど、様々なアドバイスをいただきました」と円城寺さん。
その翌年8月に佐賀豪雨が発生。あまりの豪雨に防災ヘリも飛ばず、被害情報が全く入ってこない時間があったのだという。このとき、「人工衛星を用いれば、このような課題も改善できるのではないか」と考えたのが、宇宙技術の利活用を本格的に推進するきっかけに。その後、JAXAとの連携を深めながら、令和3年3月、宇宙技術を地方創生につなげる連携協定が同県とJAXAとの間で締結された。
連携協定を締結した佐賀県知事の山口 祥義さん(左)と
JAXA理事長 山川 宏(やまかわ ひろし)さん(右)。
より効果的で実用性の高い衛星データの活用方法を探る。
令和2年度には、同県で初めて宇宙政策の予算が取れ、まずは県独自で人工衛星データを使った佐賀豪雨の分析を行った。衛星データには様々な種類があるが、デジカメで撮影したような“光学画像”と、レーダーから電波を送受信して地上の状態を把握する“SAR※画像”がよく使われている。「SAR画像ならば、昼夜や天候の影響を受けずに地表の様子を観測できると考えました」。分析にはJAXAの持つ人工衛星「ALOS-2」のSAR画像が用いられたが、そこで分かったのは、“衛星を使えば魔法のように課題が解決されるわけではない”こと。
例えば、一般的な地球観測衛星は、地球を約100分で1周しながら少しずつ場所を変え、同じ場所に戻ってくるには約2週間~1.5カ月かかる。そのため、現時点ではできることが限られ、取得した画像から何をどう読み取るのかという課題もあった。そこでJAXAと連携し、災害時に現場で使える活用方法を探っているという。
そのほか、宇宙食の技術を用いた防災食の開発を模索中。江戸時代から菓子の伝統文化が息づく同県だけに、「国際宇宙ステーションや避難所でほっとしてもらえるような“お菓子”の宇宙防災食づくりに、地元菓子店と協働で取り組みたい」という。
※SAR=Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)
人工衛星データによる活用事例
種類の多い人工衛星データの中でも、“光学画像”と“SAR画像”について、メリット・デメリットや活用事例について紹介。
デジカメで撮影したような画像
佐賀豪雨発生前撮影(JAXA・ALOS)
©JAXA ©さくらインターネット
メリット:一般写真と同様の解釈が可能。これまでの画像蓄積量も豊富。
デメリット:昼夜、天候に影響される。
活用分野:農業・森林・植物の種類や活性度合いまで分かる。
レーダー波で雲を透過して撮影
令和元年8月28日 佐賀豪雨時撮影(JAXA・ALOS-2)
©JAXA
メリット:昼夜、天候に関わらず撮影できるため変化の比較がしやすい。
デメリット:画像を解釈するには専門知識が必要
活用分野:防災・地盤の状況や、浸水被害、土砂移動の推移が解析可能。
県職員がJAXA職員となり、自治体と宇宙の橋渡し役に。
令和3年4月から円城寺さんのデスクはJAXAにあり、これまで同県で推し進めてきた“宇宙×地方創生”をJAXA側から進めていくという。また、JAXAの持つ技術を地域課題の解決に活かすため、自治体と宇宙技術をつなぐミッションも託されている。「もし47都道府県が1機ずつ衛星を運用したら、数10分に1回、定期的にデータが取れるかもしれない。これにより様々な地域課題の解決につながるでしょう。宇宙に対して、そういう可能性を少しでも感じてもらえたら……」と力を込める。
円城寺さんがJAXAにいる現状は、これから宇宙政策に取り組む自治体にとって、心強い後ろ盾になるといえるだろう。
佐賀県 政策部 ディレクター
※4月からJAXA新事業促進部へ出向
円城寺 雄介(えんじょうじ ゆうすけ)さん
「佐賀県は、そもそも“宇宙事業と縁のある地域”ではありません。そんな佐賀が取り組んだ事例だからこそ、成果が出れば、どんな自治体でも応用が利くと思います。また、人類が宇宙や月面で生活するための技術は、地上の地域課題解決に役立てられます。自治体こそ宇宙技術の活用を!」
課題解決のヒント&アイデア
1.無謀に思えることでもバックキャストで推進
1つずつ実績を積み上げることも大事だが、なかなか進まない場合もある。ゴールを先に決めておき、そこからの逆算で“できること”からトライ&エラーで進める方法も有効だと考える。
2.未来を見据えた先人たちの歴史に学んで実践
幕末期、西洋の科学技術を取り入れ、日本の近代化をリードしていた佐賀藩。時代によって、最先端の技術で課題に取り組む志向や考え方が、現代にも活かされている。
3.宇宙事業を身近に感じ、知ってもらうことから取り組む
令和元年12月には、JAXAと連携した「佐賀から宇宙を、宇宙から佐賀を考える」と題したシンポジウムを開催。宇宙飛行士による講演会や、小学生~高校生を対象に宇宙教育プログラム「JAXAGA SCHOOL(ジャクサガ スクール)」を開校するなど、宇宙を身近に感じてもらう事業や仕掛けづくりを行っている。