ジチタイワークス

福井県

全国初、自治体主導の人工衛星画像で“宙からの防災”をより身近に実現する。

“ものづくり”県だからこそ踏み出せた、人工衛星製造。

令和3年3月22日、カザフスタン共和国・バイコヌール宇宙基地より、1機の人工衛星が打ち上がり、軌道投入に成功した。これこそが、全国初の自治体主導による人工衛星、福井県の県民衛星「すいせん」だ。衛星写真を撮れる人工衛星を持つことで、防災面をはじめ様々な業務への活用が期待されている。同県が宇宙産業へと舵を切るきっかけにもなった県民衛星が、いかにして実現したかを紹介する。

※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]福井県

県が誇るものづくりの技術を宇宙産業へと活かす。

繊維・眼鏡産業が盛んな“ものづくり県”としての印象が強い同県。平成27年に県の経済新戦略を改訂するに当たり、新たな産業の掘り起こしが課題となった。その際に持ち上がったのが、以前から農業分野での活用を検討していた“衛星データ”。「しかし、当時衛星画像を使うには、1枚につき数百万円かかっていました」と同県の山下さんは振り返る。

そんなとき、経済新戦略推進委員から「県で人工衛星を上げては?」との提案があったという。宇宙ベンチャー企業の超小型衛星なら数億円で製造が可能。同県が自ら衛星を持つことで衛星画像のコストを抑えられ、何より衛星製造に県内企業のものづくり技術を活用できる。さらに今後、宇宙産業は成長の見込みがある分野だ。こうして、人工衛星を打ち上げて宇宙産業に参入する「県民衛星プロジェクト」が始まった。

衛星のつくり方を学ぶことから始まった、県民衛星への道。

始動したものの、県内企業には人工衛星製造のノウハウがなかった。そこで、宇宙産業に参入したい企業を募って「宇宙産業創出研究会」を設立し、超小型人工衛星の第一人者である東京大学教授・中須賀 真一(なかすか しんいち)さんによる人工衛星設計基礎論の研修を受けてもらったという。「研修には14機関が手を挙げました。とにかく“県内企業に人工衛星のつくり方を覚えてもらう”ことが先決。東大での製造実地研修を経て共同研究が始まり、令和元年度には約10×10×30cmの3U※型衛星の製造・打ち上げに成功。今では県独自で製造・試験できる体制です」。

これと並行して進んだのが、県民衛星「すいせん」のプロジェクトだ。前述の研究会とは別に、同県と県内外の企業で組織される「福井県民衛星技術研究組合」を設立。平成28年度から、宇宙ベンチャー企業のアクセルスペース社とともに、望遠カメラを搭載した約60×60×80cmの人工衛星製造をスタートする。同時に衛星画像利用システムの開発も進め、無事打ち上げに至った。「県民衛星の名前を一般公募した際、1,300超の応募があり、県民の関心の高さを感じました。メディア各社などからも注目していただき、よい船出になりました」。

県民衛星「すいせん」

宙からの“目”を持つ強みが防災事業に役立つ可能性は大。

令和3年5月27日、県民衛星すいせんは、地上に写真を送るための姿勢制御や各種調整を行う初期運用を終え、定常運用を開始。今後は、約2週間に1度のペースで宇宙からの写真が届く。「衛星画像活用の可能性は無限大といえるでしょう。防災面では、防災部局が所管する防災システムで、衛星画像を表示できるようにしています。例えば、事前に山の中の裸地の場所を把握し、土砂崩れの兆候の検知に活用できる可能性があります。また、衛星画像に県のオープンデータを重ね、ハザードマップをより立体的・詳細に表示するなど、様々な活用を検討中です」。その他、林地開発現場のモニタリングや港湾管理、環境保全などへの活用も見込んでいるという。

「すいせん」名称決定イベントの様子

すいせんは同県だけではなく、世界中の撮影が可能。将来的には、組合企業が開発した“衛星画像を利活用するソフトウエア”を用いた、新たなビジネスモデルの創出も目指しているという。また、“人工衛星をつくることができる”県として、宇宙産業を県内の主要産業にしていくねらいだ。

福井県が“日本のヒューストン”と呼ばれる日が、いつか来るかもしれない。
※CubeSatと呼ばれる超小型人工衛星の中でも、約10×10×30cmの直方体の衛星のこと。“U(ユニット)”は大きさを示す単位

「すいせん」打ち上げの様子

衛星画像の防災面への活用例

●地表の変化を検知

2週間ごとに更新される画像の比較で地表の変化を検出。
これにより、河口部の土砂の堆積状況をモニタリングし、災害の未然防止につなげる。

●オープンデータの立体表示

衛星画像に県のオープンデータを重ねることで、地すべり
区域などをよりリアルに表示。これまでより臨場感を持って状況を把握できるようになる。
写真提供:福井県民衛星技術研究組合

福井県
産業技術課 新技術支援室
山下 裕章(やました ひろあき)さん

「県内の大学とも連携し、学生や企業の人材育成を行うことで、将来福井から宇宙産業に携わる人材を輩出することを目指しています。このような多角的な取り組みによって、福井県が宇宙産業の国内拠点になれたらと考えています。」

課題解決のヒント&アイデア

1.一度動き出したら思い切って先行投資し、進み続ける!

宇宙産業への参入を決めてからは、必要な予算を確保。庁内の機運も醸成していたことから、職員も高い意識でプロジェクトに取り組めた。

2.企業がそれぞれの得意分野で参加する

人工衛星の製造、データ利活用それぞれにおいて、企業は各社の強みを活かした分野で参入。各社が連携した活動を実施できるような道筋をつくった。

3.ベンチャー企業の意志決定のスピード感を認識して、行動する

宇宙事業においてベンチャー企業の協力は必須。行政と違い意志決定や変更がスピーディーなので、それを把握し、あらかじめ予測して動くことを心がけている。

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