DX推進の波の中で、RPA導入の動きも活発化しています。しかし自治体にはセキュリティや財源など様々な制約があり、民間のようにスムーズにはいかないことも。
こうしたハードルをどのように越えていけばいいのか、官民問わず多くのRPA導入実績を持つ専門家が「自治体におけるRPA導入ガイドブック」を解説しつつ成功への道を示します。
概要
□タイトル:「自治体におけるRPA導入ガイドブック」要点解説セミナー
□実施日:2021年4月21日(水)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□登録者数:119人
本セミナーでは、「自治体におけるRPA導入ガイドブック(以下、ガイドブック)」をもとに、「RPA活用の成功ポイント」「活用事例から分かる導入と展開のポイント」という2つの視点で、より分かりやく解説していきます。お手元にガイドブックを置いて、参照しながら読み進めると、より分かりやすくなると思います。
<講師>
神田 秀則 さん
Blue Prism株式会社
パートナーSC部兼コーポレートSC部 部長
プロフィール
国内に業務プロセス自動化が浸透し始めた頃から、金融機関や官公庁を中心にRPAの導入・運用のコンサルティングに従事。運用体制の構築や、内部統制・監査に準拠した基幹系システム業務の自動化など、数々のプロジェクトに携わる。現在は、官公庁・自治体向けの導入支援を一手に担う。
RPA活用の成功ポイント
成功ポイントについては、ガイドブックのP12に7つの項目が記載されており、その中から特に注目すべき5つに絞って説明します。
1.RPA導入の効果目標を設定すること
これからRPAを導入する場合は、まず「□□を改善する」という目的を明確化することが大切です。例えば、以下のようなものが挙げられます
・住民サービスの維持・向上
・職員負担の削減・コスト削減
・人為的ミスの削減
他にも、業務プロセスの可視化や、業務改革の意識醸成などもあるでしょう。いずれの方向を目指すにしても、効果目標を下図の通り“定量的・定性的”に設定し、具体化することが大切です。
この目標設定と同時に、ロードマップを作成していきましょう。ロードマップの見本はガイドラインにも示されています。流れとしては「事前検討→企画・予算化→調達→構築→運用」と進めていくパターンが多いと思われます。これは初年度の進め方で、翌年度からは他業務の導入検討をしながら予算化し、具体化してシナリオを作って運用に入る。さらに翌年も他業務での導入検討、予算化…と繰り返しながら横展開していくことが重要です。
このプロセスの中でも重視したいポイントは、「予算化」。RPA導入を単年度の計画で進めるのではなく、中長期的な目標を掲げて、その目標に向けてどう予算化して進めていくのがいいのか、というところを計画立てて進めていかなければ、「とりあえず導入はした」という表面上のDXに終わってしまいがちです。
初期フェーズではどこの業務から展開をしていくのか、その後のフェーズでどういうふうに業務を展開していくのか、ロボット数をフェーズごとにどう増やしていくのか、体制についてはどのタイミングでどういうルールを設定してどう展開するか…と、最終ゴールに向けて、取り組むべきことを視覚化した展開の計画を作り、毎年の予算をどのように立てていくべきかを事前に考えるように整備しておくことが、RPA導入成功への第一歩につながります。
2.RPAのスペシャリストと業務に詳しい人でタッグを組むこと
ガイドブックでは、①外部事業者に委託 ②情報政策担当課の職員による内製化 ③業務担当課の職員による内製化、の3パターンが提示されています。どれを選び、どういう体制をつくるのか導入目的や計画によって異なりますが、ガイドブックでは、体制についても以下3つのパターンが記載されています。
①推進組織主体型:情報政策や行政改革といった部署からITスキルの高い職員を選出して、RPA推進チームを立ち上げ、リードしながら進めていく体制。
②業務担当課主体型:現場の業務担当者からITスキルの高い職員を選出して、そのメンバーが推進する体制。
③推進組織・業務担当課協働型:1と2のハイブリッドで推進チームを組む体制。
この3体制には、それぞれの良さがあります。従って、どれかを固定的に選ぶのではなく、フェーズごとに体制を少しずつ変えていく方法がオススメです。
初期フェーズにおいては、①の推進組織主体型でRPA導入を推進していくのが良いでしょう。ただし、ITスキルが高い職員であっても、RPA導入のノウハウまではキャッチアップできていないこともありますので、外部事業者も活用しながら、推進組織の基礎を固めて進めるのがオススメです。
初期フェーズで基礎を固めたら、ほかの業務に展開する場面で現場の方々を巻き込みながら、③の推進組織・業務担当課協働型で進めていきましょう。ここでは、業務担当の教育・啓発を並行して実施しながら、庁内スキルの底上げをしていくのがポイントです。
ちなみに、②の業務担当課主体型は、特定業務を中心に推進する場合において効果的な体制です。
ところで、「外部事業者の活用がオススメ」と述べましたが、全てを委託すると当然コストに響きます。いかにポイントを押さえながら外部事業者をうまく使うかが重要です。例えば以下のような方法が挙げられます。
・シナリオの一部を作ってもらう
・ひな形となるサンプルシナリオを作ってもらう
・ハンズオン、教育、トレーニングで外部を活用する
・共通する部分を作成してもらう
・運用、開発ルールを含むガバナンスの構築、など
最近はクラウドから共同利用できるRPAサービスを提供している事業者もありますし、シナリオのテンプレートや、RPAの部品を提供しているようなサービスを利用して、より効率的にロボットを活用することも視野に入れておくといいでしょう。
3.RPAの特性に合った業務を対象に選ぶこと
RPAと親和性が高く、効果が出やすい業務をどのようにリストアップするかという点で、私たちがオススメしているのは「業務選定説明会」の開催です。
説明会では関係する部局をできるだけ多く集めて、RPAはどんなものなのか、業務にどういう効果があって、庁内にどういった変化が起きるのか、といった点をしっかり説明し、理解を促すことが重要です。これによって導入後のイメージを共有認識として持ちやすくなり、おのずとその後の選定も行いやすくなります。
職員の間にRPA導入推進への意識が定着したら対象業務のリストアップに入りますが、その際には、どのような優先順位をつけてどのように業務を選ぶのか、という判定ルールを作りましょう。そのルールをもとに、リストアップされた業務についてヒアリングを進めます。業務分析に必要な情報はヒアリングシートに落とし込みます。主要なヒアリング項目としては例えば以下のようなものです。
・作業手順
・対象のシステム
・作業実施のタイミング
・作業にかかっている時間
・作業件数(ボリューム感)
・ピーク性の有無
・マニュアル作業の有無
業務のヒアリングが完了したら、その結果をもとに、KPI・RPA化判定、優先順位判定を基に関係者で検討を行いながら、RPAに最適な対象業務を確定させる、という流れに入っていきます。
4.利用の促進によりRPA導入業務の幅を広げること
RPAの活用が一部門だけに留まってしまうことは非常にもったいない話です。庁内での横展開は導入効果を高めるために必要ですが、そのためには職員の啓発が必須だといえます。
まずはRPAの導入部局で徹底活用をしましょう。費用対効果という意味でも“使い倒す”ことは重要ですが、その結果として導入効果を実感した人が、次に自動化に向けた庁内の意識を醸成していくことにつながります。
横展開の準備段階では、シナリオのテンプレートや、RPA部品の有効活用を進めていきます。こうした準備が整ったら、次は職員の意識改革です。ここでも説明会を行って、啓発活動を進めましょう。
前述の“業務選定説明会”は、RPA導入に対する基礎的理解を深めてもらうことが目的でしたが、この後にも実証実験やテストが完了した際に評価報告会を行い、RPA導入の具体的効果を広めていきます。さらに、運用中も随時RPA説明会を開催し、自動化の効果が着実に表れていることを知ってもらい、理解を深めていくことが大切です。
また、意識改革だけでなく、教育も重要です。推進チームから講師を選出し、外部事業者の後方支援も得ながら教育チームを作り、RPAを活用した職員を次の“講師メンバー”として、トレーニングを実施します。講師メンバーへの教育が修了したら、次はそのメンバーが教える側に移り、各職員に対してトレーニングを行う…といった広げ方で、庁内への浸透を促していくことができます。
5.RPAのガバナンス体制を構築すること
最後の「ガバナンス体制構築」という点において抑えておきたいのは、全庁展開を見据えた、重要業務にも適用できる統合型RPAツールの選定です。そのポイントとしては以下の3つが挙げられます。
1.複雑な業務にも適用できる
導入が容易なツールは作りやすく簡単、と思えるかもしれませんが、RPAにおいて重要なことは、難しい業務や複雑なプロセスを安定して自動化することです。簡単な反面「横展開していこうとした時にうまくいかない」「外部事業者に任せないと開発ができない」といった例も多々見られます。
2.部品の再利用性が高く、リソースの有効活用ができる
庁内での展開を広げていくと、共通する処理が見えてくるはずですが、そうした場面で部品化・共通化といった面が活きてきます。展開が広がると、おのずとライセンスも増えていきますが、このライセンスがうまく活用されていないケースも散見されます。これらを有効活用しないと、展開するほど無駄な作業とコストが発生してしまうことになります。
3.自治体ネットワークの3層分離に対応できる
3層それぞれにロボットを動かすと、次第に何がどう動いているのか分からなくなってきます。3層をまたいで統合管理できるRPAツールを選定することが大切です。
これまでのRPAは、定型業務を中心に展開されていました。しかし、全体的に見ると定型業務は一部であり、RPAが対応できる業務も限定されてしまいます。これからは、非定型業務や重要業務など、複雑な部分にもRPAを適用させていかなければなりません。
とはいえ、重要業務に広がらないのには理由がある、ということも私たちは理解しています。理由として、特に上げられるのが以下の4点です。
・セキュリティ上の懸念
・内部統制・監査への未対応
・現状のRPAが不安定
・基幹系システムの自動化のノウハウが少ない
たとえば、当社のサービス「Blue Prism」はこうした課題を全てクリアするものであり、自治体や大手企業、金融機関などコンプライアンスの厳しいところでも活用いただいています。RPAの選択においては、これらの条件を満たすサービスを選択することが重要になるでしょう。
活用事例から分かる導入と展開のポイント
ガイドブックには、各自治体のRPA活用事例が詳しく紹介されています。そこから傾向をつかむために、「従来どんな課題があったのか」、「どんな実施体制をとったのか」、「今後の展開の着目点は」などにポイントを絞って紹介します。
●課題の傾向
事例の中で目立つのは、以下のようなものです。
・残業時間の増加
・長時間労働の問題
・単純作業の負担
・業務量の増大
つまり、「作業時間の負荷を解決したい」というのが共通したテーマです。この背景には、住民ニーズの複雑化・多様化などがありますが、それに応えるための事務作業に忙殺される現状を打開して、より付加価値の高い業務へシフトしたいという意向があることがうかがえます。
●実施体制
各自治体の体制としては、情報政策課が中心に推進している、あるいは情報管理課や企画政策課が全体管理している、といったものが多く見られます。外部事業者の委託も同様です。
庁内での啓発という面では、「RPAの事例を紹介しながらニーズを喚起する」「AI-OCRをさらに展開するためにうまく活用する」といったものがあります。中には、「RPAの端末利用に空きがある」「有効活用を目指したい」といった意見も目に入ります。
その他、「リモートデスクトップ接続でRPAを有効に活用できるツールを導入した」、「RPAに関するルールを策定した」といったものも見られました。
これらのことから、活用事例のポイントは以下のようにまとめることができます。
この中で「一元管理体制」というキーワードが挙げられていますが、RPAツールは分散型管理になっているところも多くみられ、体制とツールがマッチしていない例もあります。一元管理体制の構築には、“RPAの統合管理”が必須です。
これらの事例をふまえると、中長期的な目標を見据えたRPA製品の選定が、導入成功のカギになります。
このコロナ禍で官民問わずテレワークの活用が進んでおり、RPAの導入も活発化しています。民間における現在のトレンドとしては、職場の業務をRPAに任せ、従業員は指示や保守にまわるというシフトです。自治体においても、間もなくこのような考え方が浸透し始めてくると思われます。
今回は概要レベルでの話でしたが、詳しい情報提供もいたします。RPAに関することなら何でもお問い合わせいただければと思います。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works