ジチタイワークス

岐阜県可児市

岐阜県可児市「みんなかにっ子」。多文化共生に必要なアプローチとは?

“子どものことは学校で”を超えた連携で不就学ゼロへ。

平成2年の入管法の改正以降、日本で暮らす外国人は増加している。平成29年末の在留外国人数は、日本の人口の約2%を占める約256万人に達し、今後も増加する傾向にある。外国人が増えたことによる課題の1つに、外国籍を持つ児童生徒の教育環境が挙げられる。単純に日本語が話せないというだけでなく、文化や宗教、生活習慣の違いなど、問題は多様にある。この課題に学校と関係機関が連携し、多文化共生に取り組む可児市の事例を紹介する。

※下記はジチタイワークスVol.13(2021年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]岐阜県可児市

学校への不適応から問題行動へ、言葉の壁は想像以上に大きい。

同市の外国籍人口は令和2年11月現在、約8,000人。そのうち外国籍の児童生徒数は約750人だ。児童生徒数は、日本で暮らす外国人数の増加に比例している。その背景には何があるのだろうか。同市教育委員会の小川さんは「可児市には県下最大規模の工業団地や、大手自動車・家電関連の製造企業があります。また、外国籍市民のコミュニティや教会なども、在留外国人の動向に影響を与えているのではないでしょうか」と話す。

「外国籍児童生徒が抱える最大の課題は、日本語の習熟が不十分であることです。日本語による学習だけでなく、学校生活そのものにも大きな困難を伴います。日常会話ができても、学年相当の学習言語能力が不足するため、学習に遅れが生じている子どもは少なくありません。過去には、これら日常生活のストレスが要因で問題行動を起こし、学校への不適応によって不就学や退学を余儀なくされるケースもありました」。

各所の連携で不就学ゼロを目指す。国籍に関わらず“みんなかにっ子”。

外国籍児童生徒の抱える課題は、日本語指導を手厚くすればいいという考え方が一般的だが、それだけでは問題解決につながらない。日本の小・中学校には母語、母文化、宗教、生活習慣など、多様な背景を持つ子どもに対する用意が乏しく、特別なケアが必要だ。しかし、市内には外国籍市民の集住地域と散在地域があり、それぞれ異なった問題がある。すべての課題を把握し共有するのは想像以上に難しい。

課題の解決には、予算の確保と体制づくりが欠かせない。そこで同市は平成15年から現状を把握するための実態調査を行った。対応に当たる職員確保に必要な予算を組み、全ての外国籍市民の家庭を訪問して就学期にある子どもの有無や家庭の状況を確認、就学を促した。平成17年には「外国人児童生徒学習保障事業要綱」を策定し、同市に暮らす子どもは国籍を問わず就学できるよう、児童生徒の教育を市の重点施策とした。住民登録を行う市民課、学校教育課、学校、初期適応指導教室などが連携し、“子どものことは学校で”とならない体制を整えたのだという。

不就学ゼロに向けた施策の1つが、日本での就学経験のない児童を対象にした「ばら教室KANI」だ。「ここでは、言語化されることが少ない日本の学校独自のルールや基礎的な日本語について学ぶことができます。また、一時帰国で日本語を忘れてしまったり、不登校気味になってしまったりした児童生徒は学籍を置いたまま学習できる市多文化共生センター『ゆめ教室』で受け入れ、児童生徒一人ひとりの状況に応じて対応しています」。教育委員会の担当者が子どもの特性や家庭環境、今後の支援のあり方について各所と情報交換を行い、実効性のある連携を行っている。

多文化共生が子どもの安心へ、学校に子どもを通わせる家庭が増加。

平成23年には多文化共生推進計画を策定。外国籍児童生徒に日本語を習得させるだけでなく、地域社会の生活に必要な情報を多言語で提供することで多文化共生を目指す。子どもを同市の学校に通わせる外国籍家庭は増えている。取り組みとの因果関係を一概に結びつけることはできないが、同市の学校に通う外国籍の子どもは、平成26年の75.8%から平成30年の89.1%に上昇。日本の高等学校や大学に進学させたいと希望する家庭も、平成23年の56.8%から平成30年の71.2%へと大幅に上昇している。日本の学校に適応している子どもたちが増えている様子がうかがえるといえるだろう。順調に成果を上げているように見える一方で、令和2年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、保護者の失職や収入減によって帰国を理由に退学を申し出るケースも出てきた。「不就学ゼロの実現には関係機関との連携と、必要な予算確保が欠かせません。今後も子どもたちが目標を持ち前向きに生きる意欲を持てる“笑顔の学校”を目指して、様々な機関が連携して子どもたちの学習環境を整備していきたいと考えています」。

Interview

可児市教育委員会 学校教育課
小川 隆行(おがわ たかゆき)さん

「各自治体において“地域で子どもを育てる”体制づくりや取り組みが一層必要になってくると思います。これが、“地域で活躍する人材育成”にもつながります。今の“子どもたちの笑顔”づくりが、未来の“地域活性化”の素地となり、持続可能な地域社会の形成を支えるはずです。」

課題解決のヒント&アイデア

1.学校を超えた実効性のある連携で学習をサポート

従来、“子どものことは学校で”対応するものと思われていたが、可児市では教育委員会担当者が児童生徒の日常生活に関わる関係機関の担当者をつなぐ。児童生徒の特性や家庭環境に関する情報を常時交換し、相談できる仕組みを構築し、実効性のある連携を可能にしている。

2.「子どもたちのために」動ける体制づくり

児童生徒の教育を市の重点施策とすることで、関係機関が連携できる体制を整えた。住民登録時の就学案内に加えて、各種行政サービスについても市役所全体で情報提供・共有する体制が構築されている。子どもたちが目標や前向きに生きる意欲を持つには、行政機関の各部署が“子どもたちのために”動ける体制をつくり、安心して学べる環境を整備することが不可欠である。

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