子どもたちの学びを守る、ICT教育革命。
令和2年2月、コロナの影響で全国の学校に一斉休校が要請された。翌3月には休校に入ったが、長引く休校で、再開の見通しが立たない中、熊本市では4月15日からオンライン授業をスタートした。各家庭の通信環境の違いや教員のICTスキル不足など、立ちはだかるハードルをいかにクリアしたのか。熊本市教育センター副所長の本田さんは「目指す先に“授業改善”という明確なビジョンがあったからだ」と語る。
※下記はジチタイワークスVol.13(2021年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]熊本市
「子どもたちの学びを止めるな!」で敢行したオンライン授業。
全国規模での休校要請は教育現場に大きなショックを与え、戸惑いが広がった。しかし熊本市では、「子どもたちの学びを止めてはいけない」とオンラインでの双方向型授業を市内全ての小・中学校(小学校92、中学校42)で展開。
オンライン授業は、ネット環境はもちろん、教員側のICTスキルや授業ノウハウの不足など、いくつもの障壁が存在する。全国の自治体や学校がこのような問題に苦しむ中、一斉休校決定からわずか45日という短期間で、同市がオンライン授業を敢行し、軌道に乗せたという事実に多くの教育関係者が注目した。
熊本地震をきっかけに、“ICT後進自治体”を返上へ。
熊本市では、以前からICT教育改革に着手しており、環境の整備がある程度進められていたため、スムーズにオンライン授業に踏み切れたという。「今でこそ『熊本市モデル』と称され評価を受けていますが、その3年前までは、コンピュータ1人当たりの児童生徒数が政令指定都市中ワースト2位と、大きく遅れをとっていました。それから約3年、ICT化に励んできたところのコロナ禍だったわけです」と本田さん。
ICT本格化のきっかけは、平成28年に発生した熊本地震で、子どもたちの学びが止まってしまったことだった。こうして「熊本の復興を担う子どもたちの未来へ投資すべきだ」とした大西市長の旗振りにより、学校教育の改善プロジェクトが始まった。「令和2年度からの新学習指導要領でも『主体的・対話的で深い学び』に向け、授業改善や情報機器の活用が求められており、その理念を実現するため早急なICT環境の整備が必要でした。市長自ら教育長を外部から招へいしたり、予算を確保したりと、そのリーダーシップに依るところが大きかったです」。
平成30年から順次、小・中学校にICT機器を配備。令和2年3月末には全ての学校に、“教員1人1台と3クラスに1クラス分”のタブレット端末が配備された。また、端末には、Wi-Fi環境に左右されずに接続できる「セルラーモデル」を採用。使用制限も最低限とし、積極的なタブレット利用で学習意欲の向上を目指した。これらの機器整備と並行して、人的な体制づくりも強化。教育センターの指導主事とICT支援員らで、教員が操作に困らぬようきめ細かくサポートし、準備を重ねたという。
ICT教育のゴールは“授業の改善”、1人1台の実現を目指して。
こうした準備のおかげで休校中も学びが途切れることなく、先生やクラスメートとの交流も図りながら、全員が同時にオンライン授業を受けることができた。「熊本市モデルをここまで推進させたのは、各所が“ICT整備の目的は授業改善”という明確なビジョンのもと、課題解決に向けて様々なことに挑戦する姿勢があったからです。端末や環境をただ完備しただけでは十分とはいえません。首長、自治体、教育委員会、学校、教員、子どもや保護者らが全員で、強力に連携した体制づくりこそが大切です」と本田さん。
同市では、今年の1月末までにタブレット端末を1人1台支給。誰もが端末を“学習道具の1つとして当たり前に”使える環境を目指していくという。
課題解決のヒント&アイデア
1.「セルラーモデル」の選択が好結果に
タブレット端末はWi-Fiなど無線LANがなくとも通信ができる「セルラーモデル」を選択。使用が教室内に制限されず、ストレスなく授業を受けられるようにした。
2.端末の使用制限を極力取り払う
“せっかく導入したのに使われないこと”を避けるため、機能はできる限りフル活用できるようにし、タブレットの活用促進を図った。
3.教員への手厚い支援とノウハウの浸透
ICT支援員が、全校を巡回し、教員との信頼関係を構築。また、指導主事とともに教員向けにタブレット活用方法をYouTubeにアップするなど、タブレットの活用を含んだオンライン授業等のノウハウを浸透させた。
熊本市教育センター
副所長 本田 裕紀(ほんだ ゆうき)さん