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目指すは338万人の知見の集合体! 公務員だけが参加できる「オンライン市役所」【座談会レポート後編】

※この記事は前後編の後編です。

前編では、「オンライン市役所」が生まれたきっかけや、活動内容などをそれぞれの視点で語っていただいた。ここからは、総務省の脇さんをメンバーに加え、組織全体のこと、今後のビジョンなどを、さらに掘り下げて聞いていく。

【オンライン市役所とは?】 

令和2年4月に誕生した、現役の公務員であれば誰でも参加可能なオンラインプラットフォーム。地域や職場を超えて、他のメンバーと課題や悩みを共有・相談したり、蓄積したノウハウを共有したりすることができる。

[参加者]
脇 雅昭(わき まさあき)さん
神奈川県 政策局参事監(総務省より出向)

長井 伸晃(ながい のぶあき)さん
兵庫県神戸市 企画調整局 つなぐラボ特命係長

雜賀 泰行(さいか やすゆき)さん
和歌山県岩出市 生活福祉部 保険年金課 主事

菊川 小百合(きくかわ さゆり)さん
石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課 新図書館整備推進室 主任主事

司会進行:種子田 宗希(たねだ ひろき)
株式会社ホープ メディア事業部 部長

理想は信頼のもとに心を通わせる一つの“まち”を作ること

ーーオンライン市役所には「音楽サークル」といった趣味の集いもありますね。このように、完全に仕事モードにしないというのはこだわりの部分でしょうか?

長井:公務員の悩みって、仕事には限りませんよね。なので、活動を仕事だけに固めるのではなく、お子さんも一緒に参加できる子育てサロンや、音楽好きが集まる音楽サークル、心がしんどくなった人やケアしてあげたい人が集まる保健室など、公務員の方にとって学びやモチベーションに繋がるようなことであればOKにしているんです。

:理想は、オンライン市役所の中に“まち”ができるような未来ですね。
人と人とは、信頼関係ができて初めていろんな相談ができるようになると思うんですが、信頼を築く元は仕事だけでなく、趣味とか悩みが同じという場合もある。そうした、何か共通するもので心が通い合えばいい。
この発想は、オンライン市役所の中に「子育てサロンを作りたい」と言ってくれた人がいて、そこから生まれたんです。同じ悩みや楽しみを共有し、繋がっていければ、仕事を超えた関係性ができて、もっといろんな相談ができる仲間になるんじゃないかと。その方が確かに自然だと、腑に落ちました。そういう意味での“まち”です。だから、常に意識しているのは、運営側だけで描ける世界は作らない、ということです。

 神奈川県 政策局参事監 脇 雅昭さん

菊川:まちを作るなら、銀行とかがあってもいいかもしれませんね。

:銀行! 面白い! できる・できないは置いておいて、こういった発想がヒントになって何かが動き始めるんだと思います。そして、その根底にあるのが“信頼”。心を許しあえるというのは大前提だから、公務員限定というルールで、最低限の部分を守っているんです。
全国には公務員が338万人います。1人で考えるのではなく、その人達が集まって「これが価値なのでは」「これがやりたい」という集合体の方が絶対いい、というのが基本思想です。

ーーちなみに、会員は市町村職員がメインでしょうか? また、年代などの偏りなどはありますか?

長井:多いのは市町村職員ですね。年齢は30~40代が中心ですが、顕著な偏りはありません。地方公務員も、国家公務員もいます。

 兵庫県神戸市 長井 伸晃さん

メンバーの声から生まれたユニークな「庁内放送」

ーーここで、運営面の話もお聞かせください。オンライン市役所の会員数は1,622人(令和3年1月12日時点)。こんなに多くの人を惹きつける要因は何でしょう?

長井:ニーズを捉えながら活動しているというのが大きいと思いますが、コロナで増えたというのもあるでしょう。4~5月の時期、コロナ対策本部をオンライン市役所内に作ろうと呼びかけたら、賛同者が100人ほど集まりました。どの自治体でも混乱が深まる中、情報を欲している方がかなり多かったんです。

菊川:緊急事態宣言が出て、「職員にもリモートワークの導入を」といった声が出始めた頃でしたね。私はリモートワークの経験があまりなかったので、オンライン市役所のメンバー同士ならやりやすいかも、と思って練習してみたりもしました。

:最近はtwitterなどで紹介されている例も多いですよね。

長井:皆さん、オンライン市役所に参加するメリットを感じているから、周りにも勧めてくださっているようです。

ーー今後はもっとメンバーを増やしていく方向でしょうか。

長井:数はもちろん大事ですが、中身も重要です。各課がどれだけ活性化しているか、交流と情報交換ができているかというアクティブ度合を大切にしていきたいです。

:沢山の人が集まることに意義を求めるのではなく、参加している人が「いいね」と言ってくれることに重きをおきたいですよね。そう感じていただければ、おのずと仲間は増えていくでしょうし。

菊川:いずれそういった“アクティブ度合”なども定量化できればいいですよね。

:それいいですね! 定量化・可視化はぜひやりたい。

 石川県 菊川 小百合さん

ーー会員勧誘や課の紹介のコーナーがあったり、新規の方との交流会が開催されたりもしていますが、そういった活動は運営側の主導ですか?

長井:課長会を毎月開催していて、そこでフィードバックをいただいていますし、アンケートもとっているので、そういったソースを元に企画を考えています。

:「庁内放送」(※)もその一つ。この企画は、アンケートの回答で「時間をとるのが難しい」という意見が多かったので、それに応えるかたちで始めたんです。
例えば子育て中の人がオンライン会議に入るのって、意外とハードルが高い。そうした人たちが、耳だけでも参加できるものとして、FBライブで一方的に流れるっていうのもアリだな、と。自分がやりたいときだけコメントしてくれればOKですから。それが庁内放送の開始に繋がったわけです。メンバーの皆さんからもらった“気付き”です。
※庁内放送…FBの動画配信機能「Facebook Live」を使った、オンライン市役所の動画放送。過去分はアーカイブとして保存され、リアルタイムでなくても視聴できる。

長井:庁内放送でやっている各課の紹介も、課長会でこういうコンテンツを設けると発表したら「課は40以上あるので、毎週やっても年に1回しか回ってこない」などいろんな意見が出て、「複数の課を掛け合わせた方が面白いのでは」と提案をいただきました。結局、親和性の高い課での組み合わせで、3人くらいに出演してもらうことになった。
この例が示すように、“運営と参加者”という位置づけではなく、みんなで一緒に作っているという感覚なんです。

ーーなるほど。一緒に作るという面では、“長”は誰かといった発想もなく、フラットに運営されている印象を受けます。

長井:庁内放送でも、出演された方が話しているうちに、運営側の発想になったりするんです。どうしたらオンライン市役所が活発化するか、といった考え方をしてくれる人も出てくる。庁内放送はとにかく面白いですよ。

顔の見えるコミュニティを通して多様性のあるオンライン市役所へ!

ーーそれでは最後に、それぞれの視点で、今後の展望についてお聞かせください。

雜賀:債権回収対策課は仕事直結型の課なので、「困っています」「うちはこうしてます」の事例が積み重なっていっています。これを、質疑応答集みたいなものに仕上げていけたら…と。責任を持って外部に出せるまでには仕上がっていなくても、「あったら便利」と思えるものになればと考えています。

 和歌山県岩出市 雜賀 泰行さん

:それいいですね! 素晴らしいアイデア!

菊川:法規課に関していうと、自主勉強会みたいなものは既にあるので、専門的な部分はそういったところに任せて、逆に「法規の担当じゃないけど興味がある」とか、「条例を担当することはないけど知っておきたい」といった人が関心を持って入っていただければと考えています。法規とか条例とかは、自分がやりたいことを実現するためのツールなので、仕事の上で知っておくことは良い方に働きますから。
もう一つ、「やめよう課」というものがあるんです。この課は、意味のないことをやめるとか、新規事業を始める時にどのタイミングでやめるのかというところまで考えておこう、といった意識を持った人たちが集まっています。こうした点は具体化するのが難しく、ゴールも見えづらいんですが、同じ想いを持った人たちで、何かアウトプットができないか考えているところです。

長井:そういえば、庁内放送でも「財政課とやめよう課は親和性が高そうだ」という議論がありましたよ。もしかしたら、今後の庁内放送で一緒に菊川さんにも出て頂く可能性があります。

菊川:やめよう課でも似た話が出ています。今は、予算をどれだけ取ってくるかとか、新しい事業に予算をつけるといった点が評価される風潮があって、事業をやめる人の評価は見落とされがちなので、そこを変えたいんです。財政課の方にもそういうマインドがあればいいなと思います。

ーー「やめよう課」も面白いですが、「パクる課」といった、本当の役所では考えられない部署もオンライン市役所の中にはありますね。でも問題意識としてこういった発想は必要で、さらにそういった課同士のコラボみたいなものもどんどん生まれていくんですね。

菊川異なる課の連携で、新しい価値を生むことができるようになります。そこでオンライン市役所のいいところが生きてくるんです。それは「とりあえずやってみることができる」という点。もしうまく行かなくても誰も傷つかないし、気軽に「やってみましょう」と動くことができます。
「やめよう課」を立ち上げる時も、賛同してくれる人がいるのかどうか分からなかったのですが、結構入ってくださる方がいて、同じ想いの人が多いんだということが分かって嬉しかったです。オンライン市役所では、共通の関心をもった方々と率直に話ができます。

ーー運営側の展望はどのようなものでしょうか?

長井:顔の見える関係を意識して、信頼を構築していこうと考えています。今後オンライン市役所の入庁者が増えていっても、その基本は守り続けていくつもりです。

:そういう面では、コロナが明けるのが楽しみですね。オンラインは出会いのプロローグだと思っているので、実際に会ってみたい。
今は移動や接触が制限されているけれど、コロナが収束したらいろんな動きが出てきて、実際に会うことで信頼関係はもっと強くなるでしょうし。それに加えて、自分たちが価値のあることをやっているという自負もあるので、もっと世の中に広く知ってもらえたら嬉しいです。

雜賀:役所の幹部クラスの人たちにも知っていただいて、たとえば部下がオンライン市役所に入っていたら「勉強熱心だね」というような目で見てほしい。

:それはありますね! 組織の“上”だけでもできないし、“下”だけでもできない、その両方を繋げていくというのは庁舎を飛び出した場所だからこそできる、という面もあると思います。

長井:横でつなぐ時にも、人の顔が見えて、どういう人か、何が好きでどういうことを感じ考えているのか、ということが分かれば、親近感の湧き方は全然違ってきます。それぞれ反応するところも違うと思いますが、いろんな入口を用意していろんな人に関わってもらって、多様性のある市役所を作っていきたいですね。


[参加者プロフィール]
脇 雅昭(わき まさあき)さん
神奈川県 政策局参事監(総務省より出向)
47都道府県の地方自治体職員と国家公務員が集まる「よんなな会」を主宰。「オンライン市役所」の立ち上げ、運営を行う。

長井 伸晃(ながい のぶあき)さん
兵庫県神戸市 企画調整局 つなぐラボ特命係長
神戸大学非常勤講師/NPO法人Unknown Kobe理事長/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/「オンライン市役所」の立ち上げ、運営を行う。

雜賀 泰行(さいか やすゆき)さん
和歌山県岩出市 生活福祉部 保険年金課 主事
これまで、広報4年→税徴収2年→和歌山県市町村課出向1年→保育所担当3年→児童手当1年というキャリアを経て、現在は国民健康保険3年目。

菊川 小百合(きくかわ さゆり)さん
石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課 新図書館整備推進室 主任主事
金沢100人カイギ発起人、昨年8月より毎月開催中。

司会進行:種子田 宗希
株式会社ホープ メディア事業部 部長
宮崎県小林市役所に10年勤務後、自治体を外から変えたいと思い、中途で株式会社ホープに入社。

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オンライン市役所へ加入希望の公務員の方はこちら
https://online-shiyakusho.jp/

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