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縦割り社会を飛び出して悩みやアイデアを共有する「オンライン市役所」とは【座談会レポート前編】

※この記事は前後編の前編です。後編はこちら

行政の縦割り脱却を望む声は年々強まっている。令和2年に政府の行政改革推進本部が設けた、いわゆる「縦割り110番」も記憶に新しいが、そんな中、“公務員”以外の枠を全て取り払って、悩みやアイデアを共有しようとするのが「オンライン市役所」だ。

その理念や具体的な活動内容、今後の展望などを、参加メンバー、運営側の双方から座談会形式で伝えてもらった。
(座談会実施日:令和3年1月12日)

【オンライン市役所とは?】 

令和2年4月に誕生した、現役の公務員であれば誰でも参加可能なオンラインプラットフォーム。地域や職場を超えて、他のメンバーと課題や悩みを共有・相談したり、蓄積したノウハウを共有したりすることができる。

[参加者]

長井 伸晃(ながい のぶあき)さん
兵庫県神戸市 企画調整局 つなぐラボ特命係長

雜賀 泰行(さいか やすゆき)さん
和歌山県岩出市 生活福祉部 保険年金課 主事

菊川 小百合(きくかわ さゆり)さん
石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課 新図書館整備推進室 主任主事

司会進行:種子田 宗希(たねだ ひろき)
株式会社ホープ メディア事業部 部長

1,700の見えない絆をオンライン市役所がつなぐ

ーー今回は、「オンライン市役所」のありのままの姿を読者の皆さんにお伝えしたいので、フランクに進めていきましょう。のちほど総務省の脇さんも入られますが(※後編より登場)、まずは運営担当の長井さんから立ち上げの経緯をお聞かせください。

長井:オンライン市役所の構想自体はコロナ以前から練っていました。発想のもとの一つが、公務員共通の悩みである“人事異動”。蓄積してきたノウハウが異動により全く畑違いのところに行ったりして、また一から積み上げなくてはならなくなります。もちろん各職場にはメンター役もいますが、忙しいため聞きにくい雰囲気もあったりします。
そこで、“知見を共有すること”が前提のコミュニティがあれば聞きやすいはず、ならばつくろう! と思ったんです。
全国には約1,700の自治体があり、同じ仕事をしている人が1,700人いる。このみんなが繋がりあって、先行事例を共有すれば、例えば法改正があってもそれぞれの考えを知ることができるし、コロナ対策でも先進自治体のノウハウを共有することができます。

ーー今までもノウハウの共有はしていたと思いますが、それをもっと大々的にオンラインでやろうという発想でしょうか。

長井:確かに、職員同士による電話での情報交換や視察などで情報共有はしていますが、こうした従来の手法では“照会と回答”というプロセスが大変だし、全く面識がないところに電話をかけるのも心理的なハードルがあります。そこで、顔の見える関係を作っておけばやりやすくなるのでは、と考えたわけです。
この心理的な安心感と共に、業務に直結するような情報を交わすには、エビデンスのある話をするという点を担保しておく必要がある。これらの理由をひっくるめて、公務員限定、実名で参加というルールにしています。

兵庫県神戸市 長井 伸晃さん

ーー立ち上げ時には、どのような告知方法をとりましたか?

長井:まずは既存のプラットフォームを活用しようと、Facebook(以下、FB)のグループを作り、「よんなな会」のグループに呼びかけたりしました。
よんなな会は、地方公務員と官僚とが交流して、互いのモチベーションを高めるという要素がありますが、オンライン市役所は交流がメインではなく、仕事の内容に重きを置いているという点が異なります。そのため、よんなな会に参加していなくても、オンライン市役所には参加しているといった人もいます。

「困った」を抱える職員が気軽に一歩踏み出せる場として

ーーオンライン市役所の参加メンバーの方にも話を聞きたいと思います。雜賀さん、菊川さんは、それぞれどういったきっかけで入られたのですか?

雜賀:私はもともとよんなな会のFBグループに入っていて、そこでオンライン市役所ができたことを知り、メンバーになりました。立ち上げ初期の頃です。ここに入ったのは、オンライン市役所の理念「公務員みんなの『ナレッジ』や『経験』をシェアしよう」を見て、困った時に聞ける公務員の仲間が増えたらいいな…という気持ちからです。あと、物珍しさもありましたね。「ちょっと覗いてみようかな」と(笑)。

和歌山県岩出市 雜賀 泰行さん

長井:その、一歩踏み出してみようかな、という動きが大切。オンライン市役所には、いろんなライフスタイルやモチベーションに合わせたものがあるので、何か自分に合ったものが見つかるはずですから。ちなみにオンライン市役所の課は、分類的に①仕事直結型②能力向上型③趣味サークル型の3つに分けられます。

雜賀:庁舎外で相談できる人が増えるというメリットも大きいですね。庁舎内で聞ける話は、もともと知っている話が多いですが、オンライン市役所では、よその自治体ではどうしているんだろう、という話が聞けますから。

ーー菊川さんは県職員という立場ですが、どういった点を期待してメンバーになりましたか?

菊川:私は5年くらい前に石川県庁に入ったんですが、途中からの入庁ということもあり、自分の課以外に気軽に質問できる人があまりいなくて、そういう人ができればいいなと思ってオンライン市役所に入りました。
魅力は「横のつながり」です。地域によって違いはあると思いますが、県から市町村に対して、フラットな立場で話をしたり、聞いたりするのは難しいこともあります。オンライン市役所では、市町村の方々がどういった考えを持ち、どんな風に業務にあたっているのか率直に聞けるのがありがたいです。気軽に相談できる仲間ができたのも良かったですし。

石川県 菊川 小百合さん

ーー「気軽に情報交換しよう」という空気は、皆さんが承知した上で入会したからこそだと思うので、そうした環境が最初からできているというのも魅力ですね。

菊川:よんなな会は“交流”がメインなので、楽しんで参加できる反面、いきなり仕事のことは聞きにくい部分もあります。オンライン市役所では「今こういうことに困っているんですが」と、ダイレクトに聞くことができるんです。

多様な活動内容とツールの選択で交流の場が作られていく

ーーお二人は、オンライン市役所で具体的にどのような活動をされていますか?

菊川:私は「法規課」を立ち上げて、法規や条例に関する知見を共有する活動をしています。グループには、職場で法規担当をずっとやっている人もいれば、今は担当ではないけれど法規が気になるという人、土木職だけれど法令は大切だから勉強したいという人もいます。興味がある人が集まる、とてもいい環境になっています。
そもそも法規について知りたいという人は比較的少数派ですが、空き家対策とか、SDGsなどへの関心が高い傾向にあるんです。

雜賀:私は「債権回収対策課」を立ち上げ、課長を務めています。以前、税の徴収を2年経験して、その後に保育所関係の仕事をしていたこともあるのですが、保育料の徴収で分からないことが多くて困ったんです。税金の徴収は大抵の自治体が力を入れていますが、税以外はさほど力を入れていないのが現状で、特に小さい市町村はその傾向が顕著です。ノウハウを聞くとしたら政令指定都市なので、大阪市に「恥ずかしながら教えていただければ」と電話をかけるところから始めました。
そうした“困った時”に聞ける人がいたら…というのが立ち上げのきっかけです。立ち上げ時には、滞納整理の取り組みで有名な寝屋川市の岡元譲史さんにも声をかけてメンバーに入っていただきました。

ーー課を立ち上げるにはどのようなプロセスが必要ですか?

長井:オンライン市役所では、発起人が設立趣旨などを投稿して、コメント欄に「私も興味あります」「参加させてください」といった賛同者が5人以上集まったら正式な課として設立されます。原則として発起人が課長になり、設立後は課だけのFBグループを運営側が用意し、そこで単独の活動をしていく、という流れです。

ーーでは、自分で課を立ち上げたい人と、興味のある課に所属して交流したい人の2つに大別されるということでしょうか?

長井:基本的にはそうですが、「こんな課があったらいいな」と待っていたけどいつまで経ってもできないので自分が作った、という方もいます。「課を作る」「所属する」の2パターンではなく、「みんなで作っていく」という考え方です。なので、運営側が課を用意するといったこともしていません。
情報共有の方法も多様で、FBのスレッドでテーマについて意見交換する課もあれば、メッセンジャーで進めている課、オンラインミーティングで議論しているところもあります。

ーーそれぞれが、自分たちに合った手段を選んでいるのが面白いですね。

長井:いい意味での“想定外”もありました。運営側としては、FB上での投稿が活発でないと課としてアクティブではないと思っていたのですが、実はチャットで熱心にやりとりしていた、といった例です。それぞれが考えて、課の特性、仕事の内容、メンバーの特徴などを見ながら情報交換の方法を考えてくださっているんです。運営側としても嬉しいですね

 

[参加者プロフィール]

長井 伸晃(ながい のぶあき)さん
兵庫県神戸市 企画調整局 つなぐラボ特命係長
神戸大学非常勤講師/NPO法人Unknown Kobe理事長/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/「オンライン市役所」の立ち上げ、運営を行う。

雜賀 泰行(さいか やすゆき)さん
和歌山県岩出市 生活福祉部 保険年金課 主事
これまで、広報4年→税徴収2年→和歌山県市町村課出向1年→保育所担当3年→児童手当1年というキャリアを経て、現在は国民健康保険3年目。

菊川 小百合(きくかわ さゆり)さん
石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課 新図書館整備推進室 主任主事
金沢100人カイギ発起人、昨年8月より毎月開催中。

司会進行:種子田 宗希
株式会社ホープ メディア事業部 部長
宮崎県小林市役所に10年勤務後、自治体を外から変えたいと思い、中途で株式会社ホープに入社。

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オンライン市役所へ加入希望の公務員の方はこちら
https://online-shiyakusho.jp/

(※後編に続く)
 

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