少子高齢化時代においても、日本一若いまちとして人口増加を続ける長久手市。子育て世代の人口増加が顕著だという同市で取り組まれているのが、子育て支援アプリの開発と運用だ。今回は、「中部電力」とともにこのアプリ運用に携わる、同市の大久保さんを取材した。
※下記はジチタイワークスVol.11(2020年9月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]中部電力株式会社
市民が主体的に参加できるまちづくりを目指して。
名古屋市に隣接する人口約6万人の長久手市。住宅や商業施設が多い一方で、東部には自然豊かな田園風景が広がる。交通の便にも恵まれていることから、“子育てしやすいまち”として子育て世代の転入が進んでおり、全国的に少子高齢化や人口減少が加速する時代においても、毎年人口が増え続けているという自治体だ。
平成27年の国勢調査では、市民の平均年齢が38.6歳と、全国市町村の中で最も若い、いわゆる“日本一若いまち”でもある。しかし、「今のところ人口は年々増加していますが、長久手市にも今後、少子高齢化・人口減少の波は必ず訪れます」と大久保さん。実際に同市では、将来に備え、市民が主体的に行動し、互いにつながり、支え合いながらまちづくりを行うことを目指した「長久手市みんなでつくるまち条例」を平成30年に策定、市民参加型のまちづくり推進にさらに力を入れていくこととなった。
その中でカギとなる存在だと考えたのが、転入人口の多い“子育て世代”だった。子育て世代がまちづくりに参加するためには、まず環境整備が必要との考えから、条例策定以降、様々な取り組みを模索。その最中で出会ったのが、中部電力だったという。
子育て世代の課題解決に向け行政と民間企業でタッグを。
中部電力では当時、社会課題の解決をテーマとした調査を実施していた。その過程で実施した長久手市長へのインタビューを縁に、連携がスタート。同社では、子育て世代に向けて地域情報を届けるサービス「きずなネット学校連絡網」を長年運営しており、子育てにおける課題解決に注力してきた背景があった。これにより長久手市が抱いていた子育て世代への関心や課題への向き合い方を共有することができ、それが両者を強く結びつけたという。
その後、協力体制により子育てをテーマにした市民へのインタビューやワークショップを開催。これを通じて見えた課題で顕著だったのは、情報伝達に関する行政と市民間のギャップだったという。「我々からの情報が思った以上に市民に届いていないことを痛感しました。また、多くの方がスマートフォンで情報を得ていることを目の当たりにし、広報紙やホームページへの掲載だけでは発信が不十分だと分かったのです」と大久保さん。また、市が行ったアンケート調査で、市民の3割以上が転入して10年以内ということもあり、市民同士や地域とのつながりが薄く、うまく情報を入手できず困っているという課題も併せて浮き彫りになった。
▶子育てをテーマにした市民へのインタビューやワークショップの様子
市民に対して実施したインタビューからは、子育て世代と地域のつながりの薄さが見えてきた。
課題解決に向けたワークショップ、ニーズを探るハッカソンの開催を経て、子育て支援アプリ開発へ。
協定締結と課をまたぐ運用の体制づくりがカギ。
これらの課題解決を目的に生まれたアイデアが、子育て世代へ情報配信するアプリの開発だった。
ユーザー視点を取り入れながら、官民連携で開発されたアプリの実証実験は、令和2年1月に開始。日々忙しい子育て世代が、できるだけ手軽に必要な情報を入手できるよう工夫が施されたという。「市からの情報発信に加え、ボランティア団体や民間の施設など、多くの子育て関連情報を集約して配信しています。また、コロナ禍においては、急なイベントの中止や緊急性の高い情報についても迅速に配信することができました」。さらに、防災や防犯といった子育て世代の関心が高い情報も網羅しており、7月末時点で1,600人以上のユーザーを獲得している。
この取り組みが円滑に進んだ理由のひとつには、アプリ開発に先立ち、長久手市と中部電力が「市民のための市民参加型まちづくりに関する協定」を締結したこともある。「協定のおかげもあり、導入時の庁内合意はスムーズに進みました。デジタルに苦手意識のある職員もいましたが、丁寧に活用のメリットや使い方を説明して理解してもらうように努めました」。実際にアプリで配信した情報に市民から反応を得られるようになると、職員の関心度はさらにアップ。様々な課がこのアプリを使ってスピーディな情報配信を行っているという。
子育て世代が支え合えるコミュニティの醸成を。
運用を進めながらユーザーの要望にも対応。「情報量を増やしたり、操作性を高めたり、中部電力さんに相談をしながら改善を行いました。地域に根ざした企業との連携があればこそ実現した取り組みです。行政だけでは思いつかないアイデアを得ることができ、物事がスピード感をもって進んでいることを実感しています」。
同市では、より役立つサービスに成長させるべく、アプリの情報提供エリアを市民の生活圏に応じて拡大予定。「もっとアプリを浸透させたい。市民同士がイベントなどを介してつながることができ、互いに支え合えるコミュニティが醸成されることが、市民参加型まちづくりにつながると期待しています」。
子育て支援アプリの仕組み
Interview
長久手市 市長公室情報課 大久保 功一(おおくぼ こういち)さん
長久手市による取り組みのポイント
1.市民参加型まちづくりの実現に向け条例を策定
少子高齢化・人口減少に備えて取り組む“市民による主体的なまちづくり”を、条例で後押し。その実現に向けて、子育て世代に対する取り組みを模索した。
2.子育て世代の課題を調べニーズを掘り起こし
子育て世代が抱える課題を、市民に対するインタビューやワークショップで調査。その結果をもとに、ニーズに応える取り組み(アプリ開発)を決定した。
3.協定を結んだ官民連携の動きで庁内合意を円滑に
“アプリでの情報発信”という新しい動きに対する庁内合意も、行政と企業が協定を結ぶことで円滑に。職員に対する説明会も、企業と連携し丁寧に実施。
VOICE アプリユーザーの声
子どもが興味を持つ情報満載!手軽で使いやすいのもうれしいです。
このアプリを知ったのは、知り合いから「子どもがいる人に良さそうなサービスがあるよ」と薦められことがきっかけでした。
実は、以前にもアプリについてのチラシが学校で配られていたようなのですが、そのときはよく見ていませんでした。広報紙などもそうですが、紙の情報だと一度は確認するものの、興味がないと再度見ることはほとんどありません。だけどアプリであれば、スマートフォンからいつでも確認できるし、本当に手軽で使いやすいと感じています。
それまではよく知らなかった、市の公共施設「平成こども塾」の情報も、アプリを通じて詳しく内容を知り、興味が湧きました。その施設のイベントでは、小学1年生の息子が好きな外遊びがたくさん体験できるようで、ぜひ参加してみたいと計画を立てています。また、子どもの習い事の予定を管理するなど、アプリのカレンダー機能も活用しています。
今後は、学区ごとの情報配信や見守りボランティアへの参加機能などに期待したいですね。アプリを通じて、自分が暮らしている市の職員の方々と、子育て環境についての意見交換ができるようになるとうれしいなと思います。
大脇 未来(おおわき さき)さん
小学1年生、3年生、5年生の3人を子育て中!
アプリを使い始めて約1カ月(令和2年8月時点)。
仲間と情報を共有するなどして、活用の幅を広げつつあるのだそう。
その他の子育てユーザーの声
「子どもと一緒に遊んでいるときにも、アプリだとパッと見ることができるので便利です。」
「チラシや貼り紙などから様々な情報を集めていたのですが、アプリなら一括で見ることができるからラク!」
「行きたいイベント情報を見つけたら、忘れないようスケジュール登録ができるので助かっています!」
MESSAGE 企業担当者の声
これまでの知見を活かし、子育てしやすい地域社会の実現に貢献!
「なぜ電力の会社が子育て支援アプリの開発を?」とよく質問をいただきます。実は、当社では「きずなネット学校連絡網※1」という学校からの連絡を保護者にいち早く届けるサービスを15年前から展開してきました。また、GPS端末による子ども見守りサービス「どこニャン」を4年前に開始するなど、子育てに関するサービスを提供しつづけている企業でもあるのです。
今回の子育て支援アプリ開発の出発点は、これまでの知見とノウハウを活かし、中部地方における子育ての課題を解決したいという思いから始まりました。とても良い縁に恵まれて長久手市の皆さんと一緒にアプリ運用の実証実験を行っていますが、今後は展開範囲を拡げていきたいと考えています。
私たちが目指しているのは、“子育てしやすい地域社会を実現する”“子どもの成長や可能性を広げる機会を提供する”こと。自社が運営するWebメディア「COE LOG※2」とアプリを連携させるなど、子育て世代への情報伝達を多角的にサポートしてまいります。
中部電力株式会社 事業創造本部
左:久保 壮一郎(くぼ そういちろう)さん
右:奥村 香保里(おくむら かおり)さん
※1.きずなネット学校連絡網 インターネットシステムお客さまサポート
https://kizuna.chuden.jp/
※2.ママ・パパの声に寄り添う子育てメディアCOE LOG
https://coelog.chuden.jp/
子育て支援アプリの強み
地域の多彩な子育て情報をアプリで手軽に確認できる。
忙しい毎日を送る子育て世代が、子育てに関する情報をスマートフォンで手軽にチェックできるように開発された子育て支援アプリ。自治体主催のイベントや、生活圏で開催されるイベント情報の配信をはじめ、プッシュ通知によるお知らせ機能やカレンダー機能が無料で利用できるのもポイント。アプリをダウンロードし、プロフィールを登録して利用することで、登録されたプロフィールに応じて、その人にマッチしたイベント情報やお知らせが配信される仕組みだ。
サービスの特徴と導入メリット
1.様々な団体の子育て情報を集約
自治体だけでなく、NPOやボランティア団体、民間企業などが情報配信元として参加。ユーザーは、チラシなどを保存しておく手間が省け、子育てに関連する多彩な情報をアプリから入手可能。入手した情報を管理できるカレンダー機能も便利。
2.Webメディアとの連携で情報を拡散
子育てをテーマにしたWebメディア「COE LOG」で、アプリに掲載したイベントなどを取材記事として追いかけレポート。これにより、地域の取り組みが紹介できるうえ、その魅力を幅広くアピールできる。このWEBメディアでは、子育てに役立つ情報を月間8本のペースで配信している。
3.最新情報の入手を目的に設計
子育てに関する“最新情報”にこだわった設計。共働きなどで忙しかったり、引越してきたばかりだったり、地域とのつながりが薄いファミリーでも、地域密着の新しい情報を手軽に入手できる。画像や口コミを事前に確認しておくことで、安心してイベントに参加できるよう配慮されている。
4.防災・防犯情報もしっかり届く
子育て世代に関心の高い地域の防災・防犯情報もアプリを通して配信可能。緊急時にはプッシュでお知らせする機能も使用できる。防災・防犯情報は開封率が高いため、これをきっかけに、アプリ上のその他の情報へアクセスする機会が増えるのもポイント。
興味をお持ちいただけたら気軽に問い合わせを!
子育て支援に関する情報や自治体から住民への情報伝達について、アプリ導入による課題解決をサポートいたします!中部地方の自治体で、子育て支援アプリに興味・関心のあるご担当者さまは、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ
サービス提供元企業:中部電力株式会社
TEL:0120-342-089
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