ジチタイワークス

長野県

台風時にSNSで住民を励まし迅速かつ無事に約50件救助へ。

災害に備えるためのツイッター活用法とは

令和元年10月、台風19号により千曲川の堤防が決壊し氾濫。浸水した家に取り残される住民も出た。長野県危機管理部が運営するツイッターアカウント「長野県防災」は、迫り来る危険におびえる住民へ励ましの言葉を発信。届いた救助要請を救助部隊へと知らせ、約50件の救助を後押しすることにつながった。なぜこのような取り組みができたのか。同県の米山さんに聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.10(2020年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

「何度でも言います、必ず助ける」!不安な住民のもとに届け続けた励ましの声。

東日本大震災以降、災害時のSNS活用に注目が集まっている。ただしデマが紛れる可能性も否定できず、活用に踏み切る自治体は少ない。そんな中、日頃から積極的な運用を行っていた同アカウントでは「救助が必要な方は、写真や位置が分かる情報を『#台風19号長野県被害』ハッシュタグをつけてツイートしてください」と発信。リプライ(返信)機能も使って直接やりとりしながら情報を収集。警察と消防、自衛隊から成る救助部隊に情報共有システムを使って情報を知らせた。

災害時にツイッターが活用できた理由として、米山さんは“普段からの運用”を挙げる。「平成31年から、災害情報防災の豆知識等を毎日投稿しています。普段から積極的に活用しているからこそ伝わりやすい言葉で発信でき、情報をどう掘り下げるべきかの判断も、とっさにできたのだと思います」。

一連の投稿では「絶対に助ける!下向かず、あきらめず!私たちが県民全員を助けます!何度でも言います、必ず助ける!」といった力強い励ましも注目を集めた。米山さんは、こう胸の内を明かす。「言い切ってよいのか担当の中でも葛藤はありました。でも、まさに濁流が迫っている極限状態にある方に少しでも前向きに、『必ず助かるんだ』という強い意志をもって待っていてほしい、という思いがありました。『そのうち助けに行けると思います』という、あやふやな声がけはできませんでした」。

もう一つの理由に、救助部隊の尽力があった。「かなりの部隊が投入され、皆さんが夜を徹した全力の活動が進められていました。だから、不安な状況下でも、あきらめずに待っていてほしい、そう思っていたんです」。決して簡単な決断ではなかった。でも住民への想いと救助部隊への信頼が、担当者たちを突き動かしたのだ。


救助を求める投稿に対し、部隊が全力で活動していることを伝え、極限状態のもとでも助かるんだと、強い気持ちを持てるよう諦めないで欲しい思いで投稿した。

 

「スピード感」と「双方向性」ツイッターの利点を最大活用。

ツイッター活用により、情報の収集が迅速に、かつ自治体と住民との間で双方向的に行われた。

「無事に救助されたら投稿を消すよう呼びかけていました」。一件ずつ照合し、情報が残ったままの投稿があれば連絡をとって状況を確認したのだという。

助かった住民からは、リプライ機能を使って感謝の声も届いた。米山さんは「私たちにできたのは情報をつなげることだけ。無事に助かって良かったという安堵の気持ちが一番」と顔をほころばせる。

今後より良い形でツイッターを救助活動に生かすための課題を尋ねると「ツイッターで届いた情報をどう精査し、救助機関と共有して実際の現場へつなげられるのか、仕組みの検討や調整・整理が必要」との答えが返ってきた。警察には110番、救急には119番と、独自の通報システムがある。各組織が抱える最優先すべき情報に、ツイッターの情報が飛び込む形になる。加えて、ツイッターのみだと、投稿者の氏名や連絡先(電話番号)が得られず、救助部隊や現場は要救助者と連絡が取れにくい。そのため、情報が不十分となり現場に混乱を招くおそれもある。まず、情報を共有し、実際の活動につなげられるようにするためには、何が必要なのか。違った種類の災害でも、同じような対応ができるのか。救助活動に活用する面では、まだまだ検討や整理が必要な点は多いという。

例えば電話が集中して緊急通報がつながらない中、ツイッターを通じて緊急性の高い救助要請が入ることも考えられる。「避難中にケガをして階段で動けなくなり、目の前に水が迫っている――そんなときに情報源がツイッターだとしても、優先的に救助してもらえるような仕組みができれば理想的」と米山さんは期待を寄せる。

米山さんは「ツイッターはホームページなどの広報ツールとは異なった形で、情報の発信のみでなくリアルタイムで情報収集や交流までできるのが最大のメリット」という。ちなみにデマに関して聞くと「人命に関わる情報の中に、デマは紛れていませんでした。『このアカウントがこう言っているなら』と思ってもらえるような、信頼されるアカウントを目標に、長野県危機管理部は今日もツイッター運営を行っている。

 

Solution 課題解決のヒントとアイデア

1.ハッシュタグを効果的に使って集めたい情報を収集

救助要請時には、画像と位置情報に加えて「#台風19号長野県被害」というハッシュタグを付けて投稿するよう呼びかけた。ポイントは複数のキーワードを組み合わせたこと。複雑にはなるが、だからこそ幅広く情報を拾いすぎない。結果として集めたい情報が限定でき、必要な情報をスピーディーに収集することにつながった。

 

2.投稿した人と双方向のやりとりができるツイッターの利点を生かす

場合によっては、リプライ機能を使って情報を精査。やりとりすべきかどうかの線引きは、“緊急性の高さ”や“被害の大きさ”といった点がポイント。複数の担当者が、共通して“返信が必要と判断できる投稿”に返信するというルールを徹底しながら、ツイッターがもつ“交流の簡易性”という利点を最大限に活用。限られた時間内での迅速かつ適切な対応が可能になった。

 

3.職員6人の役割分担を明確にしチームワークで対応する

災害発生時に情報発信を担当したのは、20代から50代の職員16名で、常時6名を確保できるよう交代で対応にあたった。「全体を見ることができる」「ツイッターに精通している」などの得意分野を生かし、役割を分担。県民からの問い合わせ電話や報道機関の対応、ツイッターの対応と、それぞれがやるべきことを明確にし、専念したことがチームワーク向上につながった。

 

Interview

受け取る側が何を考えているか、把握することが大切。言葉は分かりやすく、親近感を持ってもらえる発信を。日常的な活用が、災害時の力になります。


長野県危機管理部 危機管理防災課 防災係
米山 雄樹さん

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