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【セミナーレポート】稼げる地域へ データ分析・活用による観光PR

デジタル技術の進化に伴い、観光業界においてもデータ活用が求められています。そこで今回のセミナーでは、観光庁が掲げる「観光DX推進方針」を踏まえ、地域一体となって観光地や関連産業の“稼ぐ力”を回復・強化し、観光産業の再生と高付加価値化を図るための指針やヒントをお届けしました。企業が提供する最新サービスや自治体事例を通じて、観光データの効果的な分析・活用方法や、地域PRの具体的なステップについて解説しました。

概要

□テーマ:稼げる地域へ データ分析・活用による観光PR
□実施日:2024年12月20日(金)
□参加対象:自治体職員
□申込者数:195人
□プログラム
<Program1>
データ活用による持続可能な観光地域づくりの推進
<Program2>
地域と共に進めるデータ・ドリブンな観光まちづくり~自治体様の課題をともに解決する事例~
<Program3>
データを中心においた、観光客の満足度向上の改善施策
<Program4>
シン・コンパクトシティ「まちの見える化」ツナガルまちづくり事業
<Program5>
地域資源を最大限に活かす!地域一体となって稼ぐための仕組み作りとは

 

データ活用による持続可能な観光地域づくりの推進

【講師】
広島県廿日市市 産業部観光課
課長補佐
空 正夫 氏

プロフィール

2000年、廿日市市役所入庁。水道局業務課、広島県総務局行政管理課、総務部人事課、経営企画部財政課 財政係長を経て、現在の産業部観光課 課長補佐を所管。

 

【講演内容】

●廿日市市の「質」・「魅力」を向上するための3つの方針とは
●観光DMPでデータ分析を行い、その結果を活用した戦略的観光地づくりとは


直面する課題への的確な対応と、観光地としての「質」・「魅力」の向上を図るため、①満足度・快適性の向上、②観光消費額の増加、③戦略と仕組みの構築という、3つの方針にもとづいた取り組みを推進中の廿日市市。地域内のステークホルダーと連携・協力して観光DMPを構築し、データにもとづく観光地経営・マネジメントの確立に向けた同市の取り組みを、空氏が紹介した。

市観光の現状・課題と対応について

当市人口は約11万人で、そのうち宮島は約1%の1,400人と極めて少ないのですが、観光客は過去30年で1.5倍に増えており、令和6年度は過去最高の約480万人になる見込みです。令和2年はコロナ禍の影響で200万人前後まで落ち込みましたが、コロナ禍の収束と先進7カ国(G7)広島サミット、円安の影響もあり、令和5年にはかなり回復。その要因の1つが、外国人来訪者数が増えたことです。

下記図のように、令和5年の観光消費額の推移は過去最高ですが、課題としては1人当たりの観光消費額が低いこと。これは、日帰り観光が多いことが要因です。

宿泊客数、宿泊消費額も令和5年は過去最高ですが、宮島の宿泊客数は完全には回復していません。コロナの影響で雇用が縮小し、宿泊者数が現在でも戻りきっていない状況です。

それらのことを踏まえ、当市観光の課題を以下のようにまとめました。

この課題に的確な対応をすることと、観光地としての質・魅力の向上を図るため、3つの方針を定め重点的に取り組んでいるところです。特に、③の「戦略と仕組みの構築」については、目まぐるしく変わる環境変化に対応するため、データにもとづく観光地経営や、持続可能な組織体制づくりが必要だと考えています。

持続可能な観光地域づくりの推進

「千年先も、いつくしむ。」というプロジェクトを、令和5年度から稼働しました。先人から受け継いできた宮島の普遍的な価値や魅力を、“宮島ブランド”として広く国内外に発信するというものです。先進7カ国(G7)広島サミットを契機としたプロモーションを行い、令和5年10月からは宮島訪問税をいただいています。この税収を、今後どのように使っていくかもしっかり検討しなければいけないと考えています。

●オーバーツーリズム対策
観光庁が実施している「オーバーツーリズム対策」の先駆モデル地域として採択され、その取り組みを進めているところです。概要は、宮島口の道路の交通渋滞や宮島桟橋、ロープウェイの混雑解消、宮島内の代表的なスポットに集中する観光客の分散、ゴミ処理の負担などへの対応であり、宮島観光の混雑情報をデジタルマップで可視化することなどによる観光情報のデジタル化推進や、観光マナー違反への対応強化に取り組んでいます。

取り組み③の「戦略と仕組みの構築」について、もう少し紹介します。DMPの構築のきっかけになったものとして、「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」があります。この事業の中の「面的DX化」が、今回の観光DMPの構築の取り組みになっています。

観光客の行動やニーズを、データの仕組みによって、地域の課題を解決、生産性の向上、持続可能な観光地づくりをめざしています。以下は、当市が取り組んでいるDMPの構築状況です。市内にあるデータを収集・集約し、可視化。それをもとに分析・活用を進めています。

DMP構築に向けて

DMP構築を、具体的にどうやって進めるべきかが当初課題でした。人流データ、消費データ、アンケートデータなど、単純にオープンデータや統計データだけを集めても、それをどう活用できるのかイメージできませんでした。誰が、何のためにデータを使うのかを整理しないと、事業の意味がないからです。

●主な取組①/対話
令和5年度からミーティング、マーケティング定例会(勉強会)などを開催しています。重視しているのは、場作りや雰囲気作りです。データを分析して活用することで、納得感や期待感につながることをイメージしてもらえるよう、DMP構築事業者と毎週ミーティングを行い、対話や議論を行っています。これまで、当市と2つの観光協会が議論する場がありませんでしたが、参加者からは、この「場作り」が有意義だったという意見が多くありました。また、観光協会からも、今回の取り組みを参考に独自のアンケートを実施し、新たな発見があったとの声がありました。

●主な取組②/データ収集
収集したデータを月次レポートとしてまとめてDMPのデータ可視化を行い、プラットフォーム上で表示しました。ただ、これだけでは何も分からないので、現実的に使えるものを求める作業を行いました。その中で効果があったのがアンケートです。宮島から帰る方に2次元コード付きの紙を渡し、スマートフォンで回答してもらうというシンプルなものです。観光客からの生の声を聞ける点が非常に良く、9月、11月に宮島で2回実施しました。アンケート結果は以下の通りです。

今後の取り組み案として、事業者も含めたマーケティング定例会を行いたいと考えています。アンケートデータの仕組みづくりを進め、情報発信の手段としてDMPのデータを情報としてつなげていくことで、ネットワークづくりを推進していきたいと思います。

DMPはあくまでもツールであり、それをいかに活用するかが重要です。しっかりとした組織づくりや体制づくりが必要で、当市では来年度末までにDMO設立を計画中。観光を機に地域最適化を図り、稼げる地域、強かな観光地域づくりを目指しています。

 

地域と共に進めるデータ・ドリブンな観光まちづくり~自治体さまの課題をともに解決する事例【長崎県 雲仙観光局様】~

【講師】
株式会社地域創生Coデザイン研究所 コンサルティング事業部
観光チーム研究主任 リードCoクリエイター
原田 圭 氏

プロフィール

京都府京都市出身。2018年にNTT西日本入社。同社の共創ラボ「LINKSPARK」の立ち上げと運営に5年間携わり、スマートファクトリーやスマートシティに関するDXコンサルティングに取り組む。2024年、地域創生Coデザイン研究所に出向。データにもとづく持続可能な観光まちづくりの実現に向けて、地域の課題解決支援にコンサルタントとして入り込み、複数のプロジェクトを牽引。

 

【講演内容】

●地域と一緒になって観光まちづくりを進めることの重要性
●地域課題解決に向けた要件定義とデータ利活用
●データ分析/可視化を通した観光施策の実践例


多くの自治体が、データを活用した「観光まちづくり」の施策に取り組んでいる。ただ、施策の主体はどの組織なのか、どのような取り組みで何の課題を解決し、どんなまちをめざすのかといった、施策の骨組みにあたる部分が曖昧だと、本当に必要なデータが集まらないケースも少なくはないようだ。雲仙観光局様とNTT西日本長崎支店様と共同で「観光全域データオープン化活用」に取り組んだ原田氏が、地域の現状や課題を把握し、地域にとって本質的なデータ活用を検討することの重要について解説する。


地域と一緒に観光まちづくりを進める重要性

雲仙の観光収益向上、データを活用し地域の事業者の生産性を上げることを目的とした本事業は、令和6年度「観光DXによる地域経済活性化に関する先進的な観光地の創出に向けた実証事業」に採択されました。本日は、「AIレコメンド活用によるtoC向け販売促進」、「地域事業者と連携したデータ活用による生産性向上と経営高度化」の2点を中心に紹介します。

令和6年12月に、観光アンケート、人流×イベントに関するダッシュボードをリリースしました。構成としては、①性別、②年代、③タビマエ(雲仙を選んだきっかけ)、④タビナカ(楽しんだこと・消費額)、⑤タビアト(満足度等)。これら一目で分かるような構成になっています。

https://public.tableau.com/app/profile/.42192745/viz/1__17301011685500/sheet0
直近2年間のアンケートを収集・可視化したもので、一番多い50代からの回答を見ると、温泉や旅館に来る前のきっかけ、楽しんだ内容に投票が集まっています。一方、赤い色が付いた部分は満足度が低い事柄です。レジャー体験の評価が少し低いことが分かります。前年より満足度が0.16下がっているため、ここが改善ポイントになることが客観的に分かるようになっています。

突然ですが、下記図をご覧ください。皆さんの地域でも、下記のようなことを考えられていたのではないでしょうか。

観光まちづくりという観点で考えた時に、「だれが」あるいは「だれと」進めるか。どこに向かって何の課題を解決するか。具体的に一歩目をどうやって進めますか、というところがポイントと思います。

「住んでよし、訪れてよし」を実現するためには、観光客と地域住民双方に配慮し、多面的かつ客観的なデータ計測と中長期的な計画にもとづく総合的な観光地マネジメントを行うことが重要です。その、あるべき姿をどうやって実現していくのかが、ポイントだと考えます。地域によって進め方や優先順位が異なると思いますが、色々なことに少しずつチャレンジしながら、試行錯誤することが重要だと思います。

今回、雲仙観光局様とNTT西日本長崎支店様とは、下記の図のように「三位一体のワンチーム」というキーワードで進めてきました。それぞれが強みを持つ三位一体のワンチームで、地域の現状や課題を把握し、地域にとって本質的なデータ活用を検討していくことが重要です。

地域課題解決に向けた要件定義とデータ利活用

「ワンチーム」で、どうやって地域の課題を効果的に解決していくのかについて紹介します。以下は、雲仙観光客の「あるべき姿」の推進ステップになります。

2024年度は、雲仙の魅力を生かした収益向上によって成功事例をつくることをゴールに、翌年はエリア内で地域の連携事業者の規模を拡大し、2026年度に同じ九州エリアである阿蘇や鹿児島と連携し、展開を進める計画を描いています。

また、めざすべき姿に対して、「ToC」、「ToB・富裕層」、「インバウンド」、「地域事業者向け」の4つのカテゴリーに区切っています。まずは現状把握をして改善を進め、その後にしっかりとプラス面の創出をめざします。

特にデータに関連が深いToC向けのAIレコメンドに関する部分と、地域事業者向けのデータ活用の部分を紹介します。こちらは事業の全体の概要です。

対話ログや最初の質問などを通じて、属性データなどを観光DMPに蓄積していきます。ポイントは、地域に根付いたデータをどれだけ蓄積できるか、蓄積したデータをどう利活用するかです。データを扱う人によって目的や課題感が異なるため、誰がどのように利用するかも考える必要があります。そのため、要件定義をしっかりと行うことが重要です。

9月には現地で地域の従業員と多く対話を行い、様々な要望が出てきました。要望に応じて要件定義も変わっていくため、我々はアジャイル型でプロジェクトを進めることが重要だと考えています。本事業では、要件定義、データ収集、可視化、検証というサイクルを3カ月で3回実施しました。

要件定義では、仮説を立ててデータを活用する方法を考えます。データ収集では、イベントデータやアンケートなどを集めるために関係者の協力を仰ぎます。可視化では、雲仙観光局様やNTT西日本長崎支店様とアイデアを出し合い、同じ目線で議論します。

データにもとづいた観光施策の実践例

観光客、DMO、地域事業者ごとに、どのようなデータを利活用したのかを紹介します。観光客向けにはAIレコメンドを活用し、属性データや自由入力のスタートログを分析しています。ダッシュボードを作成し、家族向けのアクティビティなどが改善ポイントとして浮かび上がりました。

不動産や民泊など、の地域事業者とデータ利活用について検討しました。不動産に関しては、アンケートデータから30代以上の観光客のお土産の満足度が低いことが判明し、関連する事業者への誘因や営業施策を考えました。民泊業に関しては、人流データから8月の1週目は5,000人前後と通常より多く営業すべきだが、7月末や8月の3・4週目は低い値となっているために来年のイベントの開催有無によって営業日を判断するのが良いのではないかと、ディスカッションしました。
 

データを中心においた、観光客の満足度向上の改善施策

【講師】
株式会社JALUX 経営企画部
イノベーション推進課上席主任・ittemi事業オーナー
川崎 達也 氏

プロフィール

福岡県糟屋郡志免町出身 2018年、日本航空グループの商社であるJALUXへ入社。新規セグメント立ち上げのため、観光の課題解決をテーマにした新規事業の創出に取り組む。2023年、観光DXソリューションとして旅アプリittemiをローンチ。翌年から日本航空へ出向し、ittemiを運営。


広告やキャンペーン・イベントによって、一時的に訪問客が増やすことができても、それが次につながらないのは、観光客の再訪問シナリオをベースにしたデータ活用を行っていないからかもしれない。その土地のファンづくりを実現する旅アプリ「ittemi」について、川崎氏が紹介した。

シナリオなきPR施策の限界

ittemiは、旅行の新たな発見と感動をサポートするスマートフォン向けのアプリです。このアプリは、全体のデータ活用よりも、コンテンツ特化型のアプローチに重きを置いています。

現状の観光施策では、訪問者の再訪問を促進する方法に課題が多く、1回目の訪問後に定着する人が少ないとの声が挙がっています。データを用いながら、どうすれば観光地に再度訪れてもらえるかが課題だと言えます。

我々は現地で、観光客に対してエスノグラフィックインタビューを行い、再訪問する可能性を探る情報収集を実施しています。繰り返し訪れる人は、その土地について深く知識を持っていたり、知り合いができたりすることが多く、これが再訪問の要因となっています。

1回目の訪問はSNSなどの広告によって促されますが、その後、現地を深く知る施策を講じることが、訪問者の再訪につながります。また、深く知ってもらうことで、訪問者が他の人にもその地を広めたくなる傾向があります。このような調査結果が、ittemiアプリの基盤となっています。

旅アプリittemiの紹介

本アプリは、旅行者が「何に感動するのか」を具体的な形にするものです。近年、再度旅をする方が増えていますが、その理由は偶発的な出会いや発見にあります。しかし、現状の観光施策では、この偶発性を生み出すことが難しくなっています。SNSの活用が不可欠ですが、情報を出しすぎると予定調和の旅になってしまい、逆効果になるケースが多いです。

ittemiは、訪れた人々が偶然発見する体験がリピート訪問につながることを調査で確認し、アプリケーションに反映させています。独自の特徴として、訪問したまちを「アナザースカイ」として感じられるストーリー展開が挙げられます。

さらに、無計画・無目的の旅をも可能にし、「計画的偶発性」を生む探索型スマホアプリです。最大の特色は、「現地に行かないと重要な情報が閲覧できない」という点です。多くの人は、事前に行きたい場所をSNSなどで調べ、現地に行った際に期待外れの体験をすることがありますが、本アプリはあえて情報を限定しています。その代わり、現地の雰囲気を感じる情報を事前に提供します。ユーザーは本当に現地を訪れないと情報が集められず、その反面、行ってみたくなるような曖昧で謎解き的な要素を設定しています。

この仕組みは、人間の行動経済学を駆使し、ユーザーの興味を引く体験を重視しています。見たくなる動きや、エクスペリエンスをしっかりと取り入れた設計がなされています。これにより、ユーザーは旅を通じて新たな発見と感動を得ることができるのです。

導入事例紹介/香川県琴平町

香川県琴平町の事例を紹介します。多くの自治体が観光客の再訪や滞在時間の延長を目指していますが、具体的な施策が難しいところです。琴平町は有名な「こんぴらさん」を有しながらも、観光客が訪れた後に、すぐに別の場所へ移動してしまう現状に悩んでいます。テレワークを利用するノマドワーカーの誘致を進める中で、観光インフラやコンテンツの充実が必要とされています。

そこで琴平町は、観光マップの作成に向けてスマートフォンを活用し、データ収集を強化しています。地域に蓄積された情報や江戸時代の古いデータを活かし、観光客の行動データを直接収集するプロジェクトを進行中です。実際の現地調査を通じて、数字では捉えられない観光客の動きや満足度を把握しています。

本アプリは現在、約6万4,000回のダウンロードを記録しており、ユーザーの動きをヒートマップとして視覚化できます。

データの取得場所は、机上ではなく実際の現地であり、観光客がどのようなスポットをたどっているのかを確認することが重要です。琴平町は、観光客が知らない地域にも足を運んでもらうためのストーリー作りに力を入れ、意味づけを行っています。

まちづくりとは、観光客や我々のように他所の地域から来ている人を「風の人」とし、地域の人々を「土の人」として、この二つが交わり共創することで、はじめて「風土」が形成されます。これはとても大切なプロセスで、まちづくりにはどちらも欠かせません。

意図しない交流や共創がまちの活性化につながり、独特な魅力を生み出します。この理念を体現するアプリがittemiです。興味がある方はぜひお問い合わせください。

シン・コンパクトシティ「まちの見える化」ツナガルまちづくり事業

【講師】
富山市役所 活力都市創造部
まちづくり推進課 主幹
佐伯 哲弥 氏

プロフィール

2001年、富山市役所入庁後、富山ライトレール、まちづくりとやまへ出向。内閣官房・内閣府へ派遣、景観政策、広報課を経て、現在はまちづくり推進課で官民連携エリアマネジメント、AIカメラスマートプランニング等、人流データによるまちづくりDX、トランジットモール事業を所管。職歴の大半を、コンパクトシティ戦略に関係する幅広い事業に従事している。

 

【講演内容】

●人流データを活用した地域活性化の最新事例をご紹介「徒歩移動の限界点=“600mの壁”とは?」
●富山市で行うウォーカブルな(居心地よい歩きたくなる)まちづくりのポイントとは


コンパクトシティ戦略の深化に向け、令和2年度より「移動の見える化」と「移動手段の解析」を継続的に実施している富山市。この取り組みを通じて浮上した、同市中心市街地における徒歩移動の実態評価と、見えてきた課題と現状について、佐伯氏が解説した。併せて、官民連携で取り組む事業を対象に、課題解決の検証およびイベントの賑わい評価の分析結果も紹介した。

富山市のコンパクトなまちづくりを進める背景

当市が抱えている課題は、少子高齢化や東京への一極集中による人口減少と経済縮小、そして公共交通の衰退です。自動車に依存した生活が続き、特に高齢者や車を利用できない市民には、不便な状況が続いています。路線バスはピーク時から約7割以上減少し、まちの衰退が深刻化していました。

この問題を解決するため、当市は2002年頃から公共交通を中心とした「コンパクトなまちづくり」の研究に取り組んできました。日常生活に必要な機能を徒歩圏内に集約し、公共交通の利便性を向上させることを目指しています。また、2006年頃から本格化した公共交通の活性化では、中心市街地に商業や文化施設を集積し、住民が自動車に依存しなくても生活できる環境の構築を進めています。

このまちづくりは「お団子と串の都市構造」にもとづいており、串は公共交通のサービスレベルを、団子は徒歩圏内の居住エリアを示します。これにより、公共交通の利便性を高め、住民が快適に生活できる環境の整備を進めています。その取り組みもあり、近年では公共交通利用者が増加傾向にあります。

公共交通の活性化

公共交通活性化の取り組みとして富山ライトレールの整備が実施されました。これは、利用者の減少が続いていたJR富山港線の廃線を契機に公設民営化し、日本初の本格的次世代型路面電車(LRT)システムに生まれ変わらせるプロジェクトです。全車両と駅が改修され、均一運賃化や運行頻度の向上が図られた結果、利用者数は平日で2.1倍、休日で3.3倍に増加しました。

次に、路面電車の環状線化事業を実施し、富山駅と中心商店街のアクセスが強化されました。この結果、周辺地価が上昇し、再開発が進みました。さらに、2015年の北陸新幹線開業により、新幹線、在来線、路面電車が乗り入れる便利な交通ハブとなりました。

満65歳以上を対象に、市内各地から中心市街地への運賃を1乗車100円に設定する「おでかけ定期券事業」などのソフト施策も併用し、交通体系の強化を進めています。これにより、高齢者の外出機会が増え、健康増進や地域経済の活性化が期待されています。

おでかけ定期券事業の効果については、高齢者の交通と健康の相関関係を、京都大学と連携して調べました。

GPS内蔵端末を高齢者に配布し、10年間のパネル調査を通じて、おでかけ定期券利用者の外出状況を分析しています。定期券を持つ高齢者は、持たない人に比べて歩数が多く、年齢による減少幅も小さいことが確認されました。また、公共交通を利用した際の滞在時間は約3時間で、車と比べると約2倍となっています。さらに、訪問箇所数も多く、1日約2,000人が利用するため、経済活動への効果が期待されます。

医療費の観点でも、おでかけ定期券所有者は非所有者と比較すると、年間医療費が低く、令和2年の平均値の金額の差が約18万円。京都大学の試算によると、この事業で年間約8億円の医療費削減効果があると分析されています。運賃補填に年間約1億2,000万円かかるものの、医療費削減効果がそれを上まわることが示されました。

一方の「とほ活」は、車依存からの脱却を図りつつ、歩くことで健康促進や人との交流、公共交通の利用促進を目指しています。また、スマホアプリ「とほ活」を2019年から運用し、歩くことでポイントを獲得できる仕組みを導入しました。

官民連携で取り組む「まちの見える化」

当市はコンパクトシティ戦略の進化を目指し、「まちの見える化」に取り組んでいます。移動の見える化を通じて、日常的な移動と脱炭素をテーマにした調査を行っており、環境省の脱炭素事業のモデル都市に選定されました。中心市街地にある富山駅と中心商店街をつなげる課題に対処するため、GPSログで計測。市内での徒歩移動の限界距離の平均が、600mということが分かりました。この距離内に市役所や公園を含めることで、回遊促進が期待されます。

しかし、大規模イベント(まちめぐりフェスティバル)においては、「600mの壁」が解消されることが確認されました。ヒートマップによる分析でも多くの人が移動し、賑わいが経済的効果を生み出しました。今回の調査結果をもとに、再開発や歩行者の利便性を高める議論を進め、具体的な改善策を検討していく考えです。

また、まちづくりの賑わいを歩行者通行量調査を通じて検証しており、過去17年以上にわたってその効果を追跡しています。しかし、従来の歩行者通行量だけでは、滞在時間や移動経路が把握できず、賑わいの質を評価する上で課題が残っていました。

そこで新たにunerryとの取り組みにより、「賑わい指数」を設け、人数や滞在時間を組み合わせ多面的に評価できるようになりました。これにより、イベントの効果分析が可能となり、利用者の行動や移動手段の理解が深まりました。

また、公共交通や「とほ活」アプリのデータを活用し、地域の経済活動や業種の動向を明確にすることを目指しています市民との共感を得るためには、担当者が将来ビジョンをしっかり持つことが重要であり、全国の自治体と共に課題を共有し解決策を検討する必要があります。

地域資源を最大限に活かす!地域一体となって稼ぐための仕組み作りとは

【講師】
NutmegLabs Japan株式会社
フィールドセールスマネージャー
浅田 有哉 氏

プロフィール

新卒でJTBに入社し、約10年間旅行事業に携わる。法人営業を主に担当し、企業対象の社員旅行や招待旅行の企画提案を実施。添乗員としても国内外を飛び回る。その後転職し、Yahoo!JAPANやソフトバンクでデジタルマーケティングのイロハを学び、建設DX企業やフードデリバリー企業にて最新のDX化やSaaSサービスについて学ぶ。現在は旅行業界に戻り、観光DXを推進。タビマエからタビアトにおけるトータルプロデュースを支援。


テーマパークやフェリー会社など、観光事業者の直販予約システム導入を通して、売り上げ拡大とファン作りを目的に事業展開しているNutmeg。その実績をもとに、「地域における集客・消費額の増加」を支援するべく、自治体およびDMO様へのサービス提供を加速している。地域事業者のそれぞれの魅力を最大限活かし、地域一体となって稼ぐために必要なものを、浅田氏が紹介した。

Nutmegのサービスについて

Nutmegは、地域および観光事業者に対する持続可能な事業運営を支援するオールインワンSaaSサービスです。サービスの主な特徴は次の3つです。
・1つで完結オールインワンSaaS
・直販支援で売上・利益を向上
・販促の上流から支援する強い味方

具体的には、自社サイトを作成し予約フォームを埋め込むことで、ユーザーがオンラインで予約・決済を行えます。チェックインは2次元コードや電子チケットでスムーズに行われ、管理画面では予約台帳、在庫、空き状況を一元管理可能です。また、ユーザーはマイページを利用して予約の確認・変更・キャンセルが行えます。さらに、レビューやアンケート機能を通じて顧客のフィードバックを蓄積し、商品開発に役立てることができます。Nutmegは、売上向上やリピート率の増加、業務負担の軽減を実現するための強力なパートナーです。

新規顧客獲得や直販売上の向上を目指し、ウェブサイト作成とSEO対策で認知度を高め、より多くの訪問者を引き付けます。予約率や観光客の予約単価を向上させるために、ダイナミックプライシング機能を導入し、繁忙期に合わせた価格設定やオプション販売、パッケージ販売を実施。現地に訪れた観光客には、セット販売やクーポンを通じて追加販売を促進します。また、1度訪れた観光客のリピートを促すための施策も整備しており、データ構築と分析を通じて効果的な戦略を構築しています。

本サービスは観光業界の様々なニーズに応えるため、タビマエ、タビナカ、タビアトの3つのプラットフォームを提供しています。

●タビマエ

予約サイトやウェブサイト、ランディングページの作成を行い、オンライン予約システムを統合しています。ユーザーはこれらのプラットフォーム上で予約や決済が可能です。また、メール配信機能や問い合わせ管理をマイページで行えるため、ユーザーにとって利便性が向上します。自治体DMOは管理画面を持ち、予約管理が簡単に行えます。

●タビナカ

2次元コードやeチケットを活用したスムーズな入場体験を提供します。デジタルマップ(スマートマップ)は、GPSやGoogle Mapsと連携した最新の情報を顧客に提供し、現地での販促活動も可能です。このマップを使ったクーポン配信やイベント情報の自動発信も行い、顧客の滞在を充実させ、消費額の向上を図ります。

●タビアト

リピーターの獲得と顧客満足度の向上にフォーカスしています。観光協会やDMOが持つ観光情報を最大限活用し、本サービスを通じて自社サイトで予約を促進。これにより、地域へのファンや会員を育成します。サービスを利用する事業者は、ユーザーの訪問頻度や購入商品に関するデータをダッシュボードで分析することができ、セグメントに応じた情報発信を行いリピーター獲得につなげます。さらに、ユーザー満足度を高めるために、購入や体験後にはレビューやアンケートを通じたフィードバックを収集し、それにもとづいて商品やサービスの改善を行います。このように、Nutmegは地域および観光事業者の持続的な成長をサポートします。

DMOでの導入事例/神戸観光局

本サービスは現在、400以上の観光事業者や自治体・DMOに導入されています。中でも神戸観光局は、数年前から弊社のサービスを利用し、地域事業者と協働してコンテンツを制作し、販売を促進しています。さらに同局は、約20の事業者と連携しプレミアムなツアーを提供しています。

公式観光サイトから「神戸のとびら」というツアー予約プログラムにアクセスでき、各事業者のオリジナルコンテンツを展開。利用者は商品紹介や予約ページに直接つながり、簡単に予約が可能となり、事業者の収益向上に寄与しています。

今後の展望について

今後は、CRMのさらなる充実を図ることを考えています。弊社が提供するプロダクトを活用することで、どのようなデータを収集し、活用できるか、また具体的にどのような課題が見えてくるのか、さらにその課題に対する解決策によって期待される成果を、明確に可視化することを目指します。特に、会員数や性別、年代別、居住エリアの分布、平均購入額などの情報を蓄積・分析することが重要だと考えています。

また、エリアごとに、どの施設や場所で消費額が増加しているのか、時間帯による消費の変動もダッシュボード上で分析可能です。これにより、地域の消費動向を把握し、効果的な戦略を立てることができます。

さらに、スマートマップ(デジタルマップ)を活用いただければ、特定の施設を体験したユーザーが、その前後にどのようなルートを通り周遊しているのかといった詳細なデータも収集できます。この情報を用いて、新しい周遊ツアーの開発に役立てることができると考えています。

アンケートやレビューにもとづいたダッシュボード機能を導入することで、地域全体が連携し、地域の稼ぐ力をともに推進していくことが可能になると信じています。この取り組みを通じて、地域の活性化に向けた新たなステージを切り拓いていきたいと思います。

問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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