
2040年問題を控え、自治体でも労働力不足への対応が課題となっている。しかし、業務改革の必要性を感じつつ「何をやればいいのか」と困惑する現場も多いようだ。
那須塩原市は、事業者のサポートを受けつつ全庁業務量調査を実行。その結果をもとに業務改革を庁内に広め、成功事例が生まれはじめているという。担当職員に取り組みの詳細を聞いた。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです
[PR]株式会社ガバメイツ
interviewee
栃木県 那須塩原市
左:総務課 主任 池澤 勇(いけざわ いさむ)さん
右:高齢福祉課 主任 菊池 昭寛 (きくち あきひろ)さん
現場の危機感を元に見出した“BPR”という新しい打ち手。
「行政運営のためのリソース不足を、年々加速度的に感じます」。同市の池澤さんはそう語る。
行政へのニーズの多様化と、職員不足という、相反する現実の板挟みになり、現場の負担が増しているのだ。「従来の対策では到底追いつかない。何か新しい施策を打たなければならないのは明らかでした」。
この“新しい施策”として着目したのが、業務プロセスやシステムなどを抜本的に見直し、再設計する「BPR(Business Process Re-engineering)」だった。同市は、業務プロセスの全面的な見直しによる業務改革を目指して取り組みに着手。そのパートナーとして選んだのが「ガバメイツ」だ。
同社は「自治体DX支援プラットフォーム」として、全国200以上の自治体で全庁業務量調査やBPRなどの業務改革支援を行ってきた実績をもつ。
また、10万件以上の自治体業務手順書を格納したBPR支援ツール「GovmatesPit(ガバメイツピット)」も提供している。こうした点を評価してサービスを採用したという。「豊富なデータと知見から、他自治体の事例も参考にできると期待しました」。
同社とタッグを組み、まずは成功に向けたストーリーを共有した。全庁業務量調査を行い、回収したデータをガバメイツピットで可視化。その結果をもとに改善できる業務を所管課で洗い出し、原課からの改善要望も取り入れ、優先順位を決めた上でBPRに取りかかっていくという手順だ。この流れに沿って、同市の全庁業務量調査が始まった。
業務を可視化することで、変えるべきポイントが見えてくる。
同市における全庁業務量調査が始まったのは令和4年。この調査依頼を受けたときの印象を、高齢福祉課の菊池さんはこう振り返る。
「当時はBPRを理解していませんでした。なので、業務量調査にもピンときていなかったのですが、あの作業があったからこそ業務改革ができたと、今になって思います」。
通常、調査全体にかかる期間は最短3カ月程度だが、職員の負担を考慮し、より丁寧に進められた。
調査終了後、所管課ではガバメイツピットを使って、業務の所要時間やコア業務・ノンコア業務の比率などを可視化。最大限の効果が期待できる業務を洗い出しつつ、調査後に実施するBPRに参加する部署を募った。そこで高齢福祉課も手を挙げたという。
「調査を通して、何が課題なのかが見えてきました。当課の係長も現状を危惧していたので、何とかしたいという気持ちで参加を表明したのです」。こうして、高齢福祉課を含む8つの業務がBPRの対象に選定された。
令和5年度も取り組みは継続され、令和6年度からは、ワークショップ形式のBPRを導入。所管課が全てを管理するのではなく、また原課に任せきりにするのでもなく、誰もが“自分事”として主体的にBPRに取り組める環境を目指した。
ワークショップでは、同社がサポートに入り、ガバメイツピットを活用しながら、業務の分析をさらに精緻化。可視化されたデータをもとに、業務の課題を具体的に抽出し、ITツールを活用する、外注する、作業自体をやめるなど、最適な改善策を検討していく。
- GovmatesPitを使ったBPR検討の流れ -
約1,000時間削減だけじゃない!全庁的な業務改革で職員の負担軽減にも貢献。
高齢福祉課での業務改革の1つが「要介護認定業務」の効率化だ。
介護認定調査では、調査員が対象者の自宅や施設を訪問し、心身の状態を確認した上で調査票を作成する。「調査票のチェックには1件当たり25分程度を要していました。ここにAIを活用した確認システムを導入し、作業を5分程度まで短縮しています」。
また、別の業務でもAI-OCRとRPAを活用し、退庁後に自動処理を走らせるなどして効率化。要介護認定業務全体で、約1,000時間を削減できたという。「業務時間の短縮も重要ですが、職員の負担軽減ができたことが大きいと感じています」。
他部署でも業務改革の取り組みは進んでいった。ほかにも大きな効果を生んだのが「屋外広告物の許可業務」だと池澤さんは話す。「原課の職員が、問い合わせ対応で忙殺されていました。その課題に対し、ホームページの掲載内容をより分かりやすく刷新したのです」。
改善の結果、簡易な問い合わせは約80%も減少した。この成果を庁内展開したところ、同様の取り組みが他部署にも波及し、全庁的に効果を生み出しつつあるという。
これら各所での取り組みにおいて、総務課は各原課の取り組みに伴走し、ガバメイツもサポートをし続けた。「こうした一体感が、当市の取り組みの特徴だと考えています」と池澤さんは力を込める。
業務改革の自走サイクルで、よりよい未来を目指す。
同市の業務改革で、もう1つ重要なポイントになるのが、各部署への“モニタリング”だ。
令和6年度からは、BPRで導き出した改善策を実施した後、池澤さんと同社の担当が原課の改善施策の進捗状況を聞き、適宜アドバイスしていった。「原課の自走が目標ですが、その見極めができるまでは関わり続けるのが基本です」。
モニタリングに参加した方からは、「検討だけで終わらず、定期的に施策導入に関する課題整理や助言をもらえたことが心強かった」との声も挙がっているという。
また、BPRや業務可視化に関する研修も毎年実施しており、この場で意識が変わる職員も多いのだという。「職員は、漠然とした課題感を抱えています。同時に、BPRとは何かを把握していない人も多い。これをつなげることで“解決できるかも”という気づきになります」。
令和7年度で、4年目に入る同市の取り組み。今後の展望について菊池さんは「より良い未来を考える手段としてBPRがあります。改善するなら少しでも早い方がいいし、こうした活動をする職員が増えてほしい」と期待を込める。
また池澤さんは「職員自身が“業務を改善することができる”というマインドを持つことが重要」としつつ、以下のように締めくくってくれた。「各原課には問題意識があるが、改革をする余裕がない。まずは職員のマインドを醸成し、同時にわれわれがサポートすることで余裕のない状況をフォローしていきたい。自発的かつ継続的に業務見直しサイクルがまわっていく環境をつくるために、今後もこの事業を推進していきます」。
- 那須塩原市におけるBPRの歩み -
自治体ごとに最適なメニューを提案します!
ガバメイツの担当者に、自治体から寄せられるよくある質問を伺った。
株式会社ガバメイツ
プロジェクト推進本部サービス開発部 部長代理
武嶋 淳志(たけしま あつし)さん
Q1. BPRを進めたいが、何から着手すればいいでしょうか?
A. 弊社では、業務可視化、対象業務の選定等に向けた全庁業務量調査の実施をご提案させていただいております。もちろん、全庁で調査を行うことが難しいという場合もあるかと思いますので、まずは課題等をお伺いさせていただき、各自治体様の状況に応じたご提案をさせていただきます。
Q2. BPRに対する職員の反応は?
A. BPRと聞くと「負担が大きい」、「難しそう」といった反応も多いかと思いますが、ワークショップの参加者からは「業務改革が大きく前進し、やってよかった」という声も多くいただいています。
Q3. 職員のスキルセットも進めたいのですが……
A. BPRの考え方や業務の可視化手法など、様々な研修メニューを用意しています。また、関連会社にLoGoチャットの「トラストバンク」や、DX人材育成の「ディジタルグロースアカデミア」などもあり、連携した提案も可能です。