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【しくじり談#05】時期を考慮せずに提案して……私は上司への提案でつまずいた。

誰にとっても失敗は怖いもの。「できることなら挑戦せず、現状維持でいきたい‥…」と考える人は、決して珍しくないだろう。本特集では、現役の自治体職員が経験した“しくじり”と、そこから得た気づきをご紹介。

今回は、“上司への提案”という場面でのしくじりエピソードをご紹介。多忙な業務を何とかしたいと考えたBさん。だがそのアイデアは却下されてしまったという。なぜそうなってしまったのか当時の状況を振り返る。

※掲載情報は公開日時点のものです

課内業務の効率化を! と思ったものの……。

――財政部門にいた際に、しくじりを経験されたそうですね。

財政部門に入って2年目の話です。まず話の前提として、この部署は年中を通して多忙なんです。自治体内はどこでも忙しいと思うのですが、財政はとりわけ激しく、“やってもやっても終わらない”という毎日です。

一番顕著なのは当初予算編成で、10月頃から始まって翌年の1月くらいにようやく固まります。その時期になると毎月の残業時間が200時間くらいになります。
 

――200時間!? 勤務時間ではなく、残業時間だけで?

はい。毎日深夜まで作業が続き、土日も朝から夜までぶっ通しで数字をにらみ続けます。それでメンタルをやられる人もいて、これは何とかしなければ……と感じていました。

そこで思いついたのが「枠配分方式の拡充」です。枠配分方式というのは、財政部門が予算の査定をするのではなく、各事業部門に一定の権限を与え、事業部門で予算を削ってもらって、財政課に上げてもらう、というものです。一部の費目ではこの方式を採用していたのですが、その範囲を広げることができれば職員の負担も軽くなるのでは、と考えて上司に提案。その結果、見事に砕け散りました。
 

枠配分方式のイメージ図

3年越しの提案も、異動の文字には勝てず。

――上司の方も、現場の状況は分かっていたんですよね…それなのに?

これは私が提案したタイミングの問題だったんです。通常、枠配分方式の査定というのは11月頃に始まるのですが、私が上司に掛け合ったのも11月でした。今思えば、むちゃでした。

10月頃から超繁忙期に入るので、この頃にはみんなヘトヘトに疲れています。課長・係長は通常業務に加えて決裁や議会対応などがあるのでさらに忙しい状況。そんな1秒でも惜しいという時期に、財政の方式を転換するような提案をしても、誰も聞いてくれるわけがありません。
 

――なるほど……。でも来年度に向けて、というスタンスに切り替えたらいいのでは。

もちろん、そうしました。でも、話は聞いてくれるけれど、動きは進みませんでした。理由は……正確には分かりません。課長・係長は私よりはるかにキャリアも長いし経験も豊かなので、何らかの考えがあったのだろうと推測するしかないんです。

1つは、原課に任せると細部が見えなくなって財政のハンドリングができない、というのがあったのだろうと思います。それに異動もありますし。あとは、枠配分方式に変えるとなると庁内各部署への説明が必要になりますが、そうした時間を割く余裕も無かったのかな、と思います。

私も、翌年、翌々年と提案を続けましたが、自分の異動もちらつきはじめたので、5年目には諦めました。いずれにしても、今振り返るとうまいやり方だとは思えないですね。

削減のやりすぎが自分にブーメラン!

――3度目の正直、とはいかなかったんですね。でも、何らかの学びはあったのでは?

調整力は身についた気がします。提案や説明をする際の手順や段取りとか、伝える内容、伝え方は磨かれました。枠配分方式の提案は失敗に終わりましたが、おかげで自分自身の課題は見えたし、何を変えればいいのかも分かった。それをもとに変えられるところを変えて、以降の調整ごとに活かしました。

そもそも財政部門は、庁内で嫌われる傾向にあります。予算を削っていく作業をするので仕方ないのですが。だからこそうまく調整する力が必要になるんです。

――なんだか切ない話ですね……。ちなみに予算を削る作業でもしくじったことがあるとか?

削減をやりすぎたことがあります。ある部署から「公用車を20年以上使っているので買い換えをしたい」という要望が上がってきたので、私は「修理して使ってください」と差し戻しました。こんなことを言ったものの、使用歴が20年超なので庁内のルールでは買い換え時期をとっくに過ぎていたんです。でも削る意識が強いので、ギリギリまでダメ出ししちゃうんですね。

ところがある日、自分がその公用車を使うことになり、運転していたら急に故障してしまって、大慌てで修理工場まで走る羽目になりました。因果応報ではないですが、何事もやりすぎは考えものです。さすがに反省しました。
 

庁内の人間関係を大切にできる環境へ期待。

――「失敗したくない」という職員に向けてメッセージを!

私が尊敬している先輩から「失敗は仕方ない、成長の機会だと思って頑張りなさい」と声をかけられたことがあります。この言葉を皆さんにも送りたいと思います。

私は人を巻き込んだり、仲間をつくったりすることが苦手です。だから自分でできることは1人でやろうとするのですが、これは失敗につながりやすいことに気づき、直さなければと感じています。自身がこうした性格である上、業務があまりにも多忙だったので、庁内の勉強会や同期の飲み会にも参加できず、さらに人間関係が希薄になってしまっていました。

でも、今後は状況が変わっていくと思っています。紙がデジタル化され、生成AIやRPAなどの技術が導入されれば、少しは余裕ができ、仲間づくりに時間を割けるかもしれません。仲間がいれば失敗の痛みも分かち合えるはず。皆さんも仲間たちと一緒に頑張っていきましょう。あと、財政部門をあまり嫌わないでくれたらうれしいです(笑)。
 

 

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