ジチタイワークス

兵庫県神戸市

ICT化と“圧倒的な当事者意識”で挑む 全国をリードする神戸市の働き方改革

労働力の確保は今、自治体にとっても大きな課題である。しかも神戸市は、平成7年に発生した阪神・淡路大震災以降の財政悪化という問題を抱え、この20年で職員数は約30%も削減された。職員の負担増も課題となる中、神戸市は「働き方改革推進チーム」を組織。

ICTを積極活用した業務改革や職員の意識改革に取り組み、現在では、自治体における働き方改革の先進地となっている。チームのメンバーとして改革を引っ張る行財政局業務改革課の宮本雄一さん、奥島 紳司さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.9(2020年4月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 兵庫県神戸市

閉塞感の中、疲弊する職員も“待ったなし”だった改革

職員数が削減され一人当たりの負担が増すという悪循環の中、育児や家族の介護のため労働時間を短縮しなければならない職員も増加。その中で行われたアンケート調査では、毎日繰り返し取り組む膨大な作業に閉塞感を持ち、疲弊している人も少なくないことが分かった。これを受けた久元 喜造神戸市長の「仕事の時間はもっと楽しいものであるべきであり、職員の負担増は市民サービスに大きく影響する」との考えから、平成29年6月、神戸市は「働き方改革推進チーム」を設置し、業務の改革に大きく舵を切ったのである。

チームはまず、平成30年度から3年間のロードマップを策定した。宮本さんは「これは、目標と、それを達成するための具体的な施策、そして自分たちが目指す姿を端的な言葉に表し、1年ごとのマイルストーンを設定したものです」と話す。職員に対し、どんな改革が何につながり、その結果の姿がこうなる、ということを分かりやすく知らしめることから改革は始まった。

プライベートと両立しやすく働きやすい環境を創出

ロードマップに盛り込まれた施策1「多様で柔軟な働き方の実現」の中には、①在宅勤務の普及②モバイルワークの普及③フレックスタイム等の普及④フリーアドレスオフィスの導入が掲げられ、生活との両立がしやすいだけでなく、効率的に仕事をしていると感じられる職場環境づくりが進められてきた。

①と②の内容について「在宅勤務の普及については、まず在宅で行える業務であれば誰でも所属長の承認のもと行うことができることにしました。また、在宅勤務の取得を半日単位としていたものを、時間単位で取得できるように変更。事務処理用PCも小型・軽量化を進め、それまで庁内でしか使用できなかった事務処理用PCを自宅に持ち帰ることができるようにしました。さらに、タブレット端末を導入し、庁外での業務も行いやすくしました」と宮本さん。

③のフレックスタイムについては、その本格導入は、政令都市初の試みとしてロードマップ策定以前の平成29年より行われていた。「今回これを、育児や介護という理由に限らず、業務の都合でも可能としました。例えば、会議が夕方以降に行われるときには、朝の出勤時間を遅らせるといったことができるようになりました」と奥島さん。

フレックスタイムでの勤務は最大で週に4回まで可能で、在宅勤務との併用も可能。平成30年度には149名が利用、令和元年度は前年度を上回る見込みであり、利用する職員数は着実に増えている。

④のフリーアドレスオフィスについては、「上司との壁を感じにくくなった、周囲とのコミュニケーションを取りやすくなった、というだけでなく、自分だけのデスクではなくなったことで、机上が書類に埋もれるという状態が解消されました。これは、“強制的”とも言えるやり方で取り組んだペーパーレス化も後押ししています。ただ、コストのほか、担当する業務や部署等では情報管理の面で難しいところもあるため、可能な部署から導入しています」と宮本さん。


ICTの活用で生み出される効率の良い働き方

施策1の「在宅勤務」や「フリーアドレスオフィス」、そして施策2にある、「業務の省力化」においてカギになるのが、ICTの活用だ。庁舎内の無線LANを拡大し、ルールをきちんと定めた上で、全庁共有のサーバーで文書管理。これによってペーパーレス化もより促進された。同時に内部共通事務のシステム化も推進。例えば、消耗品購入について、発注から納品・検査までをオンライン上で行えるようにすることで雑務のスリム化を計画。現在、民間のサービスを活用したシステムを構築中で、令和2年度から実施予定だ。

また、施策3における「全庁コミュニケーションと協働の促進」を掲げて導入されたのが全庁グループウェアだ。それまで、スケジュールの閲覧が所属単位でしかできなかったものが、全職員分全てオープンに。これにより情報共有の幅が広がり、協働業務の日程調整が非常にスムーズに行えるようになった。さらに、グループチャットやWeb会議の機能も導入。神戸市には本庁のほか10の区役所、その他出先事業所があるが、会議や簡単な打合せなどが遠隔で実施でき、移動等のロスを削減できるようになった。グループチャットに関しては、過去の発言内容も保存されるため、担当者が変わることがあっても引継ぎがスムーズになるという利点も生まれているという。

不可欠な“意識改革”にも徹底して取り組む

そして、施策4が「改革を促進する意識の醸成」だ。「在宅勤務やフレックスタイム制の活用が“当然”という意識が全職員に浸透しなければ、どれだけ制度を整えても改革は成功しません」と奥島さん。業務においても、この仕事は本当に必要か、ほかに効率の良い手立てがあるのではないか。「やっていることを当たり前と捉えずに、時代に応じたやり方、考え方を積極的に取り入れて自ら変化するという意識が欠かせないと思っています」と奥島さん。

意識改革に対しては、幹部職員向け研修会等による“トップダウン”だけでなく、幅広く、職員一人ひとりの意識を変える“ボトムアップ”の取り組みも展開。職員を“巻き込む”ために、様々な工夫を行っている。その一つが、平成30年度に実施した、職員に対するアイデアや業務改善提案の募集だ。提案は115件にものぼり、可能なものは迅速に取り入れているという。

例えば、庁内インターン制度は職員の提案から生まれたものであるが、この制度は職員自身が希望する所属を申告して選考を受け、合格した所属で職務経験が一定期間できる制度だ。令和元年度は21名がこの制度を利用した。宮本さんは「実務を経験することができて、働く姿がより鮮明にイメージできたなどの感想が多く寄せらせており、職員がキャリアプランを考えるに当たり有益となっている」という。


ほかにも、これまで育児経験のない職員が、「育児」と「仕事」の両立で、時間に制約がある働き方を疑似体験できる研修もある。

意識改革はセキュリティに関しても同様であり、「神戸市が掲げる厳しいセキュリティポリシーは業務の効率化と相反する部分もあります。ですが、だから改革は不可能だとあきらめるのではなく、その枠の中でより良い方法を全員が考える必要があると思っています」と奥島さんは話す。

久元市長がよく口にする“圧倒的な当事者意識”という言葉があるという。これは、働き方改革は全職員に関わることであり、一人ひとりが、自分自身が
当事者だという意識を持たなければならないという意味だ。「どんな小さな成功事例でもそれを全職員で共有し、当事者意識を醸成していくことが重要です」と宮本さん。

そこで働き方改革推進チームは、平成29年度のキャッチコピーを「やめる・へらす・かえる」とし、まずは、自分の仕事をそういう視点で見てみることを促した。そして平成30年度には「やめる・へらす・かえる をすぐにやってみる」として、さらなる改善を進めたのである。

働き方改革推進チームは、「新しい取り組みの実行段階においては職員との密接なコミュニケーションを最優先事項とし、スピード感を持ちつつも、現場が混乱しないよう頭ごなしに進めることはしない」ことを徹底している。物理的な改革と意識の改革を一方的に推し進めるのではなく、なぜ改革が必要なのかを納得してもらうための周知・啓発はこれからも継続していくことが必要である。

働き方改革はより質の高い市民サービスも創出する

働き方改革の取り組みにより、業務の見直しや業務工程の簡素化、効率化を進めるに当たっては、市民サービスの目的達成のために必須の事業・工程
かという視点が重要である。そこで、徹底した市民目線での手続きの簡素化やICT化を進めていくため、区役所の業務改革ロードマップも策定。市民と関わる窓口業務の改善を目指し、申請書ダウンロードサイトの新設や郵送および電子申請対象業務の拡大、窓口におけるタブレットの設置などを進めている。

窓口業務がオンラインで行われれば遠隔から申請が可能となり、待ち時間がなくなる。これにより、住民が便利になるだけでなく、職員の業務のスリム化も実現可能だ。「行政課題が多様化する中、仕事は増えていきます。しかし財政は厳しく、人を増やすことはできません。日々の業務を効率化し、市民相談や対人支援、企画立案などのより専門性の高い業務に注力するために、時代に応じた業務改革や意識改革を行っていくことは絶対に必要だと考えています」と宮本さん。

市役所で働く職員のワーク・ライフ・バランスと生産性向上を実現することは、ひいては、市役所の“使命”でもある市民サービスの質の向上につながる
ことも間違いない。一つのゴールに到達したら、次のゴールへ。“できることは、もっとあるはず”。そんな神戸市の改革は、これからも続いていく。

Projects 働き方改革(業務改革)ロードマップ~スマートなワークスタイル、働きやすい職場~

施策01
多様で柔軟な働き方の実現

●在宅勤務の普及
●フレックスタイム等の普及
●フリーアドレスオフィスの導入など

施策02
業務省力化、電子化による生産性向

●ペーパーレス化の促進
●文書管理の効率化
●共通事務のシステム化など

施策03
全庁コミュニケーションと協働の促進

●全庁グループウェアの導入
●Web会議の活用促進など

施策04
改革を促進する意識の醸成

●業務改善や市民サービスの向上につながるアイデアの募集
●幹部職員向けの研修など

How To

01モバイルワーク用PCの導入

在宅勤務や、出張時など庁外における作業を行いやすくするにはどうすればいいか意見を収集し、モバイルワーク用のPC導入およびセキュリティの整備を行う。

02 制度活用のハードルを低くする

在宅勤務やフレックスタイム制の活用条件を、育児や介護などに限定せず、業務都合の場合でも申請・取得できるようにする。

03 ICT積極活用で、環境および業務内容をスマートに

ICT活用によるペーパーレス化で、消耗品管理などの雑務を軽減。“書類を置かないデスク”がフリーアドレスオフィスの導入につながり、コミュニケーションの活性化ももたらす。また、サーバーで文書管理をすることで必要な情報へのアクセスを容易にし、全庁グループウェアによって他部署との協働業務もスムーズになる。

04 本庁や区役所との違いはあっても、できることから

体制や設備の違いで一斉に取り組めないものは、本庁と区役所でサービスを差別化。 本庁では、目指す姿と取り組みを具体的にした「ロードマップ」の作成、区役所では主に窓口業務のスリム化に焦点を当てた改革を行う。

05 意識改革にも徹底して取り組む

ICT化におけるハード面や、在宅勤務等の仕組みを整えても、職員の意識が変わらなければ改革は進まない。職員による業務改革提案は積極的に受け付け、できることは迅速に導入。幹部職員向けに研修なども実施する。

圧倒的な当事者意識
一人ひとりが当事者意識を持つよう根気強く周知する

「どんなに有用な制度でも、職員がみな納得し、庁内全体での意識が向上しなければ、改革の意味がないと考えています。全ての職員が働きやすい職場とするには、職員からの業務改善のアイデアを取り入れたり、積極的なICT活用が必要です」(写真右:奥島 紳司さん)「働きやすい環境のおかげでプライベートが充実すると、さらに仕事の効率が上がります。効率UPは、住民サービスの向上にもつながります」


(左:宮本 雄一さん)

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