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自治体SDGsモデル事業
熊本県内でも高齢化率が高い山都町。この現状に立ち向かうべく、まちの強みである“有機農業”を核として、農業・教育・移住施策など分野を超えたまちづくりに挑戦している。内閣府の「SDGs未来都市」に選定された、その取り組みを聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.36(2025年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
山都町
山の都創造課 SDGs推進室
左:主査 山﨑 咲(やまさき さき)さん
中央:主事 松永 直也(まつなが なおや)さん
右:農林振興課 有機農業推進室
主幹 仁田水 啓吾(にたみず けいご)さん
50年以上伝承されてきた有機農業を地方創生SDGsにかけ合わせた。
内閣府では、持続可能なまちづくりのためにSDGsを原動力とした地方創生を推進している。その一環として、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを提案する自治体をSDGs未来都市に選定。また、その中でも特に優秀なものを「自治体SDGsモデル事業」に認定し、補助金を交付して事業の推進をサポートしているという。これまでに全国で約70の事業が選ばれており、その中の一つが同町の“有機農業を核とした持続可能なまちづくり”事業だ。SDGs推進室の山﨑さんは、事業に着手したきっかけを次のように語る。「人口減少と少子高齢化への危機感がありました。令和2年の国勢調査によると、高齢化率は県内で最も高い50.4%。当町の基幹産業は農業ですが、担い手不足が深刻化していたのです」。まちの持続可能性を高めるにはどうすればいいのか、検討の末に着目したのが、まちの特徴であり、歴史がある“有機農業”だったという。
「昭和40年代に地元農協の組合長が農薬による健康被害を懸念して、有機農業を推進したことがきっかけです。準高冷地という地理的条件も栽培に適していて、今では有機JAS認証事業者※1数は56と全国最多※2です」と農林振興課の仁田水さん。平成15年に発足した「山都町有機農業協議会」は、同課が事務局として伴走している。こうして有機農業の推進を図ってきた結果、「有機農業全国No.1のまち」をスローガンに掲げるようになったのだという。
※1 2~3年以上化学肥料や化学農薬、遺伝子組み換え技術を使用せず、厳しい審査を受けて認証を取得した事業者
※2 農林水産省「有機JAS認証事業者一覧(国内)(令和6年10月現在)」より
▲“誰一人取り残さない” SDGsの理念に通じる思いを背景につくられた同町の国宝通潤橋。
人材育成から販路の確保まで多角的な施策で目標の達成へ。
有機農業では化学肥料などを使わないため、環境負荷の軽減や生物多様性の保全に貢献できる。さらに、農産物の付加価値を高めてブランド化することで、所得の向上にもつながっていく。そうしてまちのブランディングができれば、町外から有機農業に関心のある人を呼び込めるだろう。「有機農業の推進を核にしたまちづくりは、環境・経済・社会で複合的に取り組もうとするSDGsの考え方と合致していました。そこで、SDGs未来都市計画を策定し、農業だけにとどまらない取り組みを進めていったのです」と松永さん。庁内には部署を横断したプロジェクトチームを発足させ、活動を拡大していったという。
農産物の販路拡大に向けて、需要の高い都市部への出荷を実現すべく、生産者が合同で流通会社を立ち上げて域外へのルートを開拓。今では、関東や関西エリアにまで届けているのだという。加えて、域内での流通も促進するため、新設された道の駅で販売。また、小・中学校では食育も兼ねて、給食で有機米の提供を行う。有機米は一般米と比較すると高額なため、その差額を同町が負担する仕組みで、地産地消も促しているそうだ。
移住者や関係人口を増やしつつ持続可能なまちをつくる。
こうした取り組みと並行して、移住施策にも注力してきた。相談窓口を設置し、移住体験ツアーや住居支援などを実施。「移住者数は増加しており、令和5年度は35人でした」と山﨑さん。担い手を育成する協議会も存在し、希望者は地域の農家に入り1~2年間の研修を受けられる制度を設立。研修後は、独立就農をサポートする制度もあり、地域に根付く工夫を行っているのだという。ただし、全ての希望者を受け入れるわけではない。「就農には土地やお金、そして覚悟が必要です。そのため、年間3人を上限として、集中的にフォローをしています。そのおかげか移住就農者の定着率は約94%と高くなっています」。
有機農業を核に、住みつづけたくなるまちづくりを目指す同町。令和5年には、2030年までに達成すべき目標を示した「山都町SDGs2030年基本目標」を策定。「今後も住民や生産者とともに、山都町をブランド化し、次世代につないでいきたい」と仁田水さんは将来を見据えている。
地方創生SDGsとは
SDGsを原動力とした地方創生のこと。持続可能なまちづくりに向けた取り組みに、SDGsの理念を取り入れることで、地域課題解決の加速化などの相乗効果が期待できる。
内閣府の取り組み
●SDGs未来都市などの選定・普及展開
●官民連携事業の支援
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