ジチタイワークス「公務員ライフを楽しむためのバラエティ増刊号」とは?
社会の難題に立ち向かう公務員の皆さんに、ちょっとした安らぎの時間を提供したい。
そこで今回は、編集室に「公務員のためのバラエティ班」を臨時創設!
疲れたココロとアタマを休めながらも、公務員ライフを少し楽しく、豊かに感じられる……
そんな多彩なコンテンツをお届けします。
※下記はジチタイワークス バラエティ増刊号(2025年1月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
公務員でいる限り、異動は避けては通れない道。毎年春になると、喜びや悲しみの声が聞こえてくる。少しでも穏やかに受け入れるための心のもち方とは?異動に負けないメンタルづくりについて、僧侶の草薙さんに話を聞いた。
僧侶・作家
興道の里代表
草薙 龍瞬(くさなぎ りゅうしゅん)さん
16歳で家出し、大検(現高認)を経て東大法学部卒業。30代半ばで得度出家。インドに活動拠点をもち、社会改善NGOや幼稚園などを運営。日本では宗派に属さず、仏教を「現実に役立つ合理的な方法(生き方)」として紹介している。
<著書>「反応しない練習」KADOKAWA/「大丈夫、あのブッダも家族に悩んだ」筑摩書房、ほか。
異動によるモヤモヤは、引き算で消える?
いざ異動という現実に直面したときに、希望がかなわずガッカリすることがあるといいます。「希望が通っていいな」と人をうらやんだり、「自分だけ外れくじを引いた」と自虐的になったりする人もいるかもしれません。どうすれば、心が軽くなるのでしょうか。
身に起こる現実に対して、心は必ず反応します。その反応の根底にあるのは、大きく分けて3つ。「貪欲(求めすぎること)」「怒り」「妄想」です。妄想とは、頭の中の考え事。「こんな異動先ならいいな」という希望や、逆に「また異動か、嫌だな」「うまくいかないかも」といった思いも、妄想に当たります。
妄想が増えるほど心の反応は強くなり、それに比例して、ストレスが増加します。異動にストレスを感じるのであれば、その反応のもとにある妄想を減らせばいい。それが解決への第一歩です。
練習をすることで妄想は消せる。
では妄想を減らすには、どうすればいいのか。ここで役に立つのが、坐禅やマインドフルネスです。カギは「体の感覚をしっかり意識する」こと。例えば、目を閉じて手をぎゅっと握る、ぱっと開く。大きく息を吸って、倍の時間をかけてゆっくり吐き出す。その体の感覚を、目を閉じたまま観察します。「これは感覚であって妄想ではない」と、言葉にして自覚します。オススメは、歩数を数えながら歩くこと。大地を踏みしめ、歩数に集中することで、妄想に勝てるようになります。
イメージの助けを借りる方法もあります。大きく息を吸い込んで膨らみ切った体を「妄想で膨らんだ自分」と思ってください。そこから息を吐き切った体が「等身大の私」。この妄想ゼロから、行動をスタートしましょう。こうした練習を続けると、短時間で妄想をリセットできるようになります。
まず体験、という発想で新たな物事の入口に立つ。
妄想を減らした頭で何を考えるか。これが第二のカギになります。例えば、もしブッダが公務員になって、福祉課からDX課へ異動を命じられたとしましょう。そこで「せっかく培ったスキルが使えなくなった」「うわ、最悪だ」というような反応は、当然しません。「自分にできるだろうか」と不安に思ったとしても、「妄想が湧いた」と気づいて体の感覚に戻ります。
そこから何を始めるか。実は、新たな物事への入り方においては、ブッダであれ誰であれ、答えは1つです。まず「体験する」こと。「DXというよく分からない(妄想しても答えが出ない)仕事があるらしい。ならば体験しながら、方法を学んでいこう」と考えるのです。
体験、できる、役に立つ、これが仕事の3条件。
妄想からではなく、体験から入る。この発想ができれば、人生は180度変わります。仕事や趣味、結婚、子育ても、全ては「体験」から始まるのです。子どもなら、訳が分からないまま遊びや学びを体験して「できること」を増やしていきます。これが成長です。
このステップは、大人でも変わりません。異動をはじめとする未知の体験を大人が恐れるのは、「こっちがいい」という先取りの願望や、「変化が面倒くさい」「きっとうまくいかない」「せっかく慣れたところなのに」といった妄想が、心を重くしているからです。でも異動という現実は避けられない以上、そうした妄想はムダ。「体験から入る」ことが最良の選択なのです。
公務員の仕事には可能性が広がっている。
仏教では、体験して、やり方を学び、できることが増え、役に立てるようになった時点で「仕事ができる」と理解します。ここに妄想は入りません。皆さんは試験に合格し、公務員になった人たちです。「まず体験することが仕事の第一歩」と発想できれば、大抵のことはできるのではないでしょうか。
幼い子どもも自分探しの若者も、みんな体験から入って可能性を広げていきます。公務員の皆さんは、お金をもらって可能性を広げていけるのだから、まあなんとうらやましい(笑)。ぜひ仕事を通じて、この社会を支えつづけてほしい。素直にそう願っています。