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北海道苫小牧市

【特集】健康経営と働き方改革の両輪でウェルビーイングを目指す

独自の健康経営宣言をもとに、働き方改革と健康経営を一体的に推進している苫小牧市。その成果が評価され、優良法人を認定する「ホワイト500」に3年連続で選出されている。具体的な取り組みの内容を担当者に聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

 

 

Interviewee

苫小牧市 総務部 行政監理室
左:服務主幹 出雲 奈緒(いずも なお)さん
右:主任主事 山﨑 俊輔(やまざき しゅんすけ)さん

 

行政サービスの向上を目指し「健康経営」を宣言。

同市が「苫小牧市健康経営宣言」を出したのは令和3年。この宣言は、職員の“ヘルスリテラシーの向上”等を掲げ、健康経営と働き方改革の一体的な推進を目指したものだと出雲さんは語る。

「職員が心身ともに健康になり、個性や能力を発揮できるようになれば組織が活性化し、市民サービスの向上につながります。そして、その仕事を通じて充実感や幸福感を得ることが職員のモチベーションを上げますので、このような好循環が生まれることを目指しています」。

同宣言の中では、ヘルスリテラシーの向上とともに“生活習慣病の予防”“ワークライフバランス”“多様な働き方”“働きやすい職場環境”という項目が挙げられている。こうしたウェルビーイングを高めようとする風土は以前からあったのだという。「例えば、心の健康という面では、以前から臨床心理士に相談ができる体制を取るなどの取り組みを実施していました」。

これらの動きの中、民間事業者と比較して自分たちがどのようなレベルにあり、今後何をしていくべきかを可視化するため、令和2年度に「健康経営優良法人」の大規模法人部門の認定に申請した。

この健康経営優良法人認定制度は、健康経営に取り組んでいる全国の法人が、社会的に評価される環境を整備するため、経済産業省が平成29年から導入している制度。認定に際しては、組織の経営理念や方針、組織体制をはじめ、ヘルスリテラシーやワークライフバランスなどに関する具体的な取り組み内容、それに対する評価・改善、リスクマネジメントまでを総合的にチェックされる。

この審査を経て、同市は認定法人の中でも上位とされる「ホワイト500」に、自治体では初めて認定された。申請総数約1万5,000団体の中で上位に入るという結果だけでもレベルの高さがうかがえるが、特筆すべきは、その取り組みの多彩さだ。

ヨガ研修から食育セミナーまで、健康づくりメニューを続々と。

同市の取り組みは、ヘルスリテラシー向上に向けたものと、働き方改革に関連するものの2つに分けられる。ヘルスリテラシーの向上を目指す取り組みとして、とりわけ人気なのがピラティスやヨガなどの研修・指導だという。「外部講師を招いて、本格的な内容で実施しています。定員はありますが、基本的に希望するものは全て受講可能です」。

また、勤務時間中にはストレッチタイムを設け、職員のリフレッシュを促す時間としている。窓口をもつ課など実行するのが難しい場合もあるが、それ以外では、朝の始業時間前と、昼食後で眠くなりがちな14時頃の1日2回、内部の保健師が考案したストレッチメニューを実践。健康だけでなく業務効率アップにも貢献しているようだ。

「そのほか、バランスボールの貸し出しも好評です。1カ月単位で庁内での貸し出しを行っているのですが、いつも予約で埋まっているような状態。『3週間で体重が4キロ以上減った』とか『自分で買ってプライベートでも使いたい』などの声も出ています」。

このように体を動かすものだけでなく、セミナーによる学びの場も用意されている。メニューは豊富で、内部の管理栄養士が食育システムを使って栄養指導をするものなどが特に人気だという。「こうした研修やアンケートは、連携協定を締結している事業者の協力で実施しているものも多く、その協力のもとで健康習慣アンケートも実施し、効果測定などに活用しています」。

昼食後の午睡「パワーナップ」を実施した狙いとは。

働き方改革に関する取り組みも多岐にわたる。テレワークや時差出勤の導入をはじめ、職員が働きやすい服装を選択できる“ナチュラル・ビズ・スタイル”は令和3年度から導入。スニーカーなどの歩きやすい靴で通勤・就業できる“ウォークビズ”は令和6年度から本格実施している。

攻めの姿勢を見せているのが、まだ自治体では事例の少ないパワーナップ(積極的仮眠)も取り入れている点だ。山﨑さんはこの制度の目的について次のように話す。

「職員の休憩時間はお昼だけですが、スマホを見ている職員が多い。仲間との情報交換とか、子育ての情報収集なども大切だとは思いますが、脳が休まる時間がなく午後のパフォーマンスに影響するという意見もあったのです。そこで、昼食後に20分程度の午睡をとるよう推奨することにしました。この制度で“休憩時間には休む”ということを浸透させたいと考えています」。

▲ 外部講師を招いて開かれたピラティスの研修。定員以内であれば、希望する講座は全て受講が可能だという。

ちなみに、同市の庁内では常にBGMが流れている。提供元にイメージを伝え、選曲してもらっており、朝はオルゴールの音色、昼はジャズなど時間帯によって変えるといった工夫もしているという。

「職員からも好評で、今のところ否定的な意見はありません。庁内が静まり返っているより、BGMが流れている方がリラックス効果があり、集中力も高まるようです。職員同士のコミュニケーションがとりやすくなるという効果も出ています」。

そのほか、ベストセラー作家で、SNSでも精神医学や心理学等の情報をわかりやすく発信されている精神科医の樺沢 紫苑さんを招いて働き方改革セミナーを実施するなど、取り組みの幅は広い。同時に、制度の面でも有給休暇の種類を30以上準備するなどしてオン・オフの切り替えの後押しもしている。「男性職員の育児休暇取得率は50%を超えました。以前は40%程度だったので、休みを取りやすい環境ができつつあると考えています」。

職員の意識も変わり、庁内・庁外にもポジティブな変化が。

こうした一連の取り組みを継続してきた結果、令和6年には3年連続で「ホワイト500」に認定。今でも自治体では唯一の認定団体となっている。「対外的なPR効果もあるようで、事業者から提案を持ちこんでいただき、新たな施策につながったこともあります。他自治体から問い合わせを受ける機会も増えてきました」。

▲ 「ホワイト500」市長会見で認定報告後の写真。自治体では唯一の認定を3年続けて実現した。

また、新規採用面接の場で、市の健康経営に関する取り組みを魅力的に感じたと話す学生もいたという。「認定そのものが目的ではありませんが、評価を受けたことでポジティブな変化が生まれています」。

そして、庁内での反応や効果については、様々なシーンで手応えを感じると出雲さんは笑顔を浮かべる。「健康診断での有所見者率は、令和2年度の34.1%から、令和5年度は30.5%と年度ごとに下がっています。再検査の受診率は100%です。また、エンゲージメント調査では、8割の職員が“職場に心理的な安心感がある”と回答しています」。

こうした数字があらわす好結果については、取り組み全体を通して、職員一人ひとりに変化が起きているのだろうと分析する。

「個人的な感覚ですが、職員の中に自らが健康になろうとする意識が高まってきたのだと思います。職員アンケートは随時実施しており、今後も取り組みの内容はブラッシュアップしていきます。例えば庁内のBGMはどんな音楽がいいか、どのようなセミナーに参加したいか、といった声を拾い、よりポジティブな変化を起こしていきたいと思ってます」。そして、職員のために使える予算は限られているので、今後も様々な工夫をしていかなければならない、と付け加える。

最後に、健康経営を目指す自治体へのアドバイスを聞くと「まだ取り組みの最中なのでおこがましいですが」と前置きしつつ、以下のように答えてくれた。

「ウェルビーイングを難しく考えるのではなく、職員が元気になり、働きやすくなるには何をすればいいのかを考えて、そこで浮かんだアイデアを1つずつ実行していくことが大切だと思っています。その結果として組織が活性化され、高い行政サービスにつながって、ゆくゆくは市民のウェルビーイングの向上にもつなげていけたら最高ですよね。これが私達の目指すところだと思っています」。

▲ ヨガの研修を受ける苫小牧市職員。ヘルスリテラシーの向上を目指す取り組みの一環だ。

 

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