通信環境が整っていない場所でも高速かつ低遅延なブロードバンド接続を可能にする衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」。その特性を活かして「ソフトバンク」は、令和6年1月の能登半島地震で甚大な被害を受けた地域の教育施設や医療施設に、Starlinkの受信機100台を無償提供。避難所をはじめ、被災地の人々へ幅広い支援を実施した。
その後、9月に同地域が豪雨に見舞われた際も、支援活動を継続。そうした被災地での経験をもとに、同社は現在、発災時はもちろん普段使いでも有用なStarlink活用法について、全国の自治体に紹介している。山野さん、橋詰さん、高橋さんに、能登支援の様子や今後の活動計画について聞いた。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです
[PR]ソフトバンク株式会社
interviewee
ソフトバンク
左:法人統括 顧問
山野 之義(やまの ゆきよし)さん
中央:法人統括 公共事業推進本部 第一事業統括部 事業企画部 部長
橋詰 洋樹(はしづめ ひろき)さん
右:法人統括 公共事業推進本部 第一事業統括部 事業開発部 部長代行
高橋 英人(たかはし ひでと)さん
災害が激甚化する今こそ、“いつでもつながる”環境の整備が重要。
自然災害の頻発化・激甚化が年々進んでいる。国土交通省の集計によると、1年間のうちに降水量が200mm以上となった日数を、「明治34年(1901年)年から昭和5年(1930年)」と直近の30年間とで比較すると、約1.7倍に増加している。
短時間強雨(1時間当たり降水量が50mm以上)の年間発生回数も、直近10年間と「昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年)」とを比較すると、約1.4倍に増加。短時間強雨、いわゆるゲリラ豪雨の増加に伴って土砂災害の発生回数も増加傾向にあり、平成30年に過去最多の3,459件を記録したほか、令和5年も1,471件と、直近10年の平均発生件数1,446件を上まわった。
発災時、住民が安全かつスムーズに避難行動を起こし、人命救助などの応急対策活動を迅速に行うためには、情報の収集・連絡体制が重要なのはいうまでもない。
ただ、発災直後は、交通および通信など各種インフラが寸断されることが多く、行政機関が十分に機能しないこともあり得る。 令和6年1月の能登半島地震発災時、ソフトバンクは直ちに石川県や被災自治体と連携を取り合いながら、通信インフラの復旧に取り組んだ。
ところが、被災地までの道路が崩落していたり亀裂が走っていたりしたため、復旧車両が基地局の近くまでいけない状況が散見されたという。
さらに、発災後に積雪があり道路の亀裂が確認できず、除雪しなければ基地局にたどり着けないケースも。「そうした状況下、可搬型衛星アンテナや可搬型発電機のおかげで、基地局エリアの応急復旧を早めることができました」と、橋詰さんが語る。
ネットワーク未整備の場所でも高速かつ低遅延な通信が可能に。
Starlinkは、アメリカの企業が提供する衛星インターネットサービス。災害により通信が途絶している場所はもちろん、固定回線や携帯ネットワーク未整備の場所でも、高速なインターネットが利用できる。
従来の衛星インターネットが、高度約3万6,000kmの静止軌道からサービスを提供しているのに対し、Starlinkは高度550km程度の低軌道上の衛星による通信。地表との距離が近い分、従来の衛星インターネットより大幅に遅延が少なく、数千機の衛星が分散して通信処理を行うので、通信容量も大きい。WEB会議やオンライン授業、ストリーミング動画の視聴など、映像を伴う通信でも問題なく使用可能だ。
- Starlink衛星と静止衛星との比較 -
ソフトバンクでは、サービス提供元と提携し、企業や自治体向けサービスである「Starlink Business(スターリンクビジネス)」として取り扱っている。
▲ Starlinkアンテナ ※ソフトバンク社提供
「当社は通信キャリアとして、“誰も取り残さない”ことを目標にしています。通信ネットワークの重要性が高まる中で、被災地域や山間の建築現場などにも通信環境を提供するため、令和5年9月より法人企業や自治体のニーズに特化したStarlink Business(以下、Starlink)の提供を開始しました」。
能登半島地震の発生後、災害対策本部から依頼を受けた同社は、市役所・役場など行政関連施設や避難所の通信環境整備に注力した。
- 避難所屋内によるStarlink活用例 -
その後、着目したのが教育施設だった。「冬休みが終わり3学期になっても、道路はガタガタで緊急車両もひっきりなしに走っている状況。特に穴水町の場合、高校と小学校の被害が大きかったため、中学校舎の一部を借りて授業を再開することになりました。そこで当社は、同中学にStarlink6台を設置し、小・中・高校生が対面+オンラインで授業を受けられる環境を整えたのです」。
また、輪島市では被災により教室が使えなくなった学校の生徒が、近隣の学校の教室を借りて授業再開するのを支援するなど、計22台を設置している。同時に、DMAT(災害派遣医療チーム)として駆けつけた医師らが、拠点として利用する複数の病院にも同設備を設置。医療者間の情報連携を支援した。能登半島全域の基地局復旧が完了した2月27日までに、累計68台を設置し、そのうち3台は、ボランティア拠点の通信用として、現在も稼働中だという。
設置に必要な機材は、専用アンテナと、電源ユニット、Wi-Fiルーター、ケーブルなど。ただ、有事の際の自治体職員は非常に多忙で、機材一式とマニュアルを送付するだけでは設置困難と判断し、同社員が設置対応まで行った。
「また、能登では地震発生後に降雪があったのですが、アンテナには融雪機能が付いています。一晩の積雪量が20cm程度なら、標準装備の融雪機能で十分対応できるでしょう」と、山野さんが実体験にもとづいて語る。
新しい技術を積極的に活用しながら被災地を多角的に支援する。
行政機関や避難所、医療現場、そして学校と、様々な場所にStarlinkを設置し、通信ネットワークを復旧させた同社。
被災地の人々から大いに喜ばれたというが、「特に印象深かったのは、輪島市内の中学生が集団避難する公共施設に設置した際のことです。私がマニュアルを見ながら作業を進めている間、中学生たちもマニュアルをのぞき込み、『Wi-Fiだ!』と歓喜の声を上げていました」と高橋さん。「避難所に入り、最初に荷ほどきをするのが普通なのでしょうが、それよりも前にスマホをWi-Fiにつないでいました。現代の若者にとっては、衣・食・住と同じくらいインターネットにつながる環境が重要なのだと痛感しました」。
通信インフラの確保という、本業部分の支援はもちろんのこと、グループ企業やパートナー企業などと連携した多角的な支援を実践できる点も、同社の被災地支援の特徴といえる。
例えば、福島県会津若松市とは、超高齢化社会における防災対策として「デジタル防災アプリ」を開発。ほかにも、ビックデータとAIを活用した実践的な避難訓練を普及するなど、災害時のより安全な行動をサポートする取り組みを行っている。
「被災地支援はアップデートさせなければならないというのが、能登半島支援を通じて得た教訓であり反省です。“飲料水や非常食などを備蓄しておけばいい”と考えている自治体も多いと思いますが、これからの避難所支援は、新たな技術を積極的に取り入れていくべき。国の方針にも反映されていますが、当社もグループのソリューション活用およびパートナー企業との連携によって、支援のあり方をアップデートさせなければなりません」。
能登地震で得た知見をもとにフェーズフリーの重要性を啓発。
能登半島の通信環境復旧において、非常に有用だったStarlinkだが、「単に導入するだけでは万が一の際に使いこなせません。普段から使い慣れておかないとダメなのです」と、山野さんは強調する。
というのも、同設備には英語版マニュアルしか同梱されておらず、コンセントもアメリカ仕様の3つ足プラグなので、国内使用の際は変換コネクタが必要だ。「屋内外のどのあたりなら電波をキャッチできて、どのように設置・接続すれば使えるのかは、ぜひ普段から使うことで確認していただきたいです」。
「能登半島地震を通じて認知度が上がり、令和6年9月の能登豪雨の際、大谷小中学校に避難していた住民の1人が、知事や首長にStalinkの名前を出して、早急な設置を要望しておられるのを目にしました」。その要望を受け、同社は迂回路を使ってその日の夕方までに現地に到着し、Stalinkを設置したという。
「現地到達が困難な孤立エリアが発生する可能性もあります。本当に必要な状況で有効利用するには、事前の配備と普段使いが重要なのです」と、橋詰さんは話す。
また、高橋さんも「地域の防災訓練など、平常時から住民も巻き込んで連携しておけば、万が一の発災時もスムーズに情報連携できるでしょうし、安否確認もスムーズになると思っています」と、フェーズフリーの重要性について強調する。
こうしたフェーズフリーの考えをもとに、同社は今後、Starlinkをはじめ、WOTA株式会社※が開発した水循環型シャワー・水循環型手洗いスタンドなどを、自治体主催のイベントや地域のお祭り、防災訓練などでの利活用支援を進める計画だ。
「例えば東海地区では、静岡県と連携して各市町との勉強会も絡めながら、同設備の設置体験会を実施しました。福井県とも、災害時の避難所支援に関する応援協定を締結。発災時の避難所支援はもちろん、平常時でも連携しながら、定期的な訓練や情報交換を実施します」。
適切な設置法から普段使いのためのユースケース創出、平時・有事双方の視点からの提案など、今後、能登半島での経験と知見を活かしたサポートを全国展開する考えだ。
※WOTA株式会社はソフトバンクの資本業務提携先企業です。
関連記事はコチラ:災害対策に生かす能登半島地震の経験〜ソフトバンクの防災訓練に密着〜
なお、同社は令和6年12月より、衛星通信サービス「Eutelsat OneWeb(ユーテルサット ワンウェブ)」の提供も開始する。低軌道衛星による高速・低遅延な通信である点はStarlinkと同じだが、“帯域保証型”の通信サービスを選択できる点、オプションで閉域網サービスを合わせて利用できるため、高セキュアな通信が可能になる点が大きな特徴だ。
「“人・モノ・金”という言葉がよく使われていますが、現在はそれに“情報”を足すのが当然になってきました。情報さえあれば助かったのに……といった事例を耳にすることもあります。平常時から飲料水や食料を備蓄するのと同じ感覚で、情報通信のためのインフラも確保しておくことが、今後の災害対策として非常に重要であり、それによって助かる命もあると、私たちは考えています」。
[ソフトバンクが提供する「Starlink Business」の強み]
⑴ 能登地震での経験を活かしたサポートが可能
被災地で多角的な支援活動を行ったことにより、様々な発見や反省が生まれた。Starlink Businessの設置・活用に関しても、実際の被災地を経験しているからこその的確なサポートが可能になる。
⑵ オンサイト工事や保守の支援サービス
電波の受信状況などを確認しながら、Starlink Businessの設置・運用をオンサイトでサポート。電源ユニットやWi-Fiルーターの設置場所によっては、自社の可搬型バッテリーを接続するなどの手助けも。
⑶ グループの力を結集して様々な課題を解決
通信だけではなく、医療MaaS、ビッグデータ解析など、グループ企業が持つソリューションや、パートナー企業が持つ防災向け水循環システムを“パッケージ”として提供。だからこそ、様々な課題を包括的に解決できる。
そのほか防災関連の取り組み
・福島県会津若松市 超高齢化社会における防災対策
・熊本県八代市 デジタル医療MaaS
・防災向け水循環システム(開発元 : WOTA株式会社)
・Agoop(災害時人流データ解析など)
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