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香川県三豊市

「天空の鏡」ブームを官民連携で好循環につなげる。【ふるさとづくり大賞】

全国各地で、それぞれのこころをよせる地域「ふるさと」をより良くしようと頑張る団体、個人を表彰する総務省の「ふるさとづくり大賞」の令和6年度受賞者がまもなく発表される。これに先立ち、令和5年度に自治体として受賞した事例をまとめて紹介する。

このうち香川県三豊市は、地元の海水浴場で撮影された「天空の鏡の写真」ブームを一過性に終わらせず、官民連携によって好循環につなげた取り組みが評価され、地方自治体表彰(総務大臣表彰)に選ばれた。その背景を担当者に聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

Interviewee

香川県三豊市 政策部 産業政策課
左:課長 西城 利隆 (さいじょう としたか) さん
中:課長補佐 宮﨑 俊博 (みやざき としひろ) さん
右:副主任 安藤 有規 (あんどう ゆうき) さん

SNSで火が付き、来訪者が100倍に急増。

父母ヶ浜(ちちぶがはま)は、三豊市を代表する海岸の一つだ。「もともと夕日の名所なので、カメラ愛好家の方は来ていました。ただ中心は夏の海水浴場のお客さんなので、かつては夏以外は閑散としていました」と西城さんは振り返る。

転機となったのが平成29年の「天空の鏡」ブームだった。干潮時、遠浅の砂浜の水面に映る鏡のような景色が“日本のウユニ塩湖”として話題となり、観光地としての認知度が急速に高まった。

「きっかけは三豊市観光交流局が実施したフォトコンテストの応募作品でした」と宮﨑さんは説明する。夕暮れの水面に少年たちの姿が映った美しい写真がよせられ、観光交流局も積極的に発信。「これがSNSとメディアで瞬く間に拡散されました」。

平成28年には5,500人ほどだった父母ヶ浜の入込客数はこの後、飛躍的に増加。令和4年には51万2,000人に達したという。

安藤さんは「コロナ禍で落ち込んだ時期もありましたが、令和6年ゴールデンウィークの5月4日には一日で10,500人という過去最多の訪問者数を記録しています」と順調な回復ぶりを説明する。

干潮時の父母ヶ浜の夕日を捉えた1枚。“日本のウユニ塩湖”として全国から訪問客を集める。

官民連携で宿泊施設が充実。核となる施設も。

この間、課題となったのが観光客の急増に対応するインフラの不足だった。当初、市内には宿泊施設が乏しく、父母ヶ浜周辺には「ブーム以前は10軒あるかないかという状況でした」と西城さん。

これに対する最初の取り組みが、地方創生推進交付金を活用して平成29年に設立された地域商社「瀬戸内うどんカンパニー」だった。香川県の代名詞でもあるうどんづくりができる体験型の宿泊施設で、「天空の鏡」ブームと相まって注目を集めた。

その後、観光客の増加とともに宿泊施設や飲食店の開業が相次いだ。「もともと地元には、地域の活性化に関心を持っていた事業者や住民が多くいました。そういう熱量を持った地域の方と、移住してきた方がうまく噛み合って、動きが加速していった感じです」と西城さんは語る。

そして同市は、原点である父母ヶ浜に「父母ヶ浜PORT」を整備、令和元年に開業した。様々な出店が続くエリアの総合案内所としての機能のほか、シャワー室やビーチアイテムのレンタルを備え、飲食店も入居。以前は老朽化した海の家しかなかった父母ヶ浜に、核となる施設が誕生した。

令和元年に開業した「父母ヶ浜PORT」。様々な施設が並ぶ父母ヶ浜の中心施設となっている。

父母ヶ浜PORTの指定管理者の募集にあたっては「単に利益を求めるだけではなく、地元に根ざした活動をすることを事業者に求めました」と宮﨑さんは説明する。

募集の条件として、
(1)地域経済への波及として、市全域に波及効果を生み出すこと
(2)地域と連携して地域との合意形成、協働による地域づくりをすること
(3)施設の集客力を高め、持続可能な経営を行うこと
(4)環境保全として自然環境の保全に貢献すること
という4項目を設定。市が指定管理料を払うのではなく、逆に事業者側が施設使用料を納める形で実現させた。

その後市内には、民泊を中心に多くの宿泊施設が開業し、現在は約90軒が営業しているという。この間、市としての誘致は実施してこなかったが、現在は企業立地奨励制度の対象に宿泊施設、観光施設を加えており、内外からの投資をさらに呼び込む構えだ。

行政コストを抑えつつ、持続可能な観光を目指す。

令和4年には三豊市観光交流局を一般社団法人化。交流人口、関係人口のさらなる拡大を目指し、情報発信をさらに強化した。「民間の活力を、持続的な産業振興や地域活性化につなげるねらいです。市からは情報発信や観光に携わる部分について業務をお願いしています」と宮﨑さんは説明する。

同じ年、「三豊ベーシックインフラ整備事業」もスタートした。地域でサービスを提供する事業者同士が交流し、地域の“共助”によって、行政とともに市民の暮らしを支えようという構想だ。

この一環で「地域の宿の共助」というプロジェクトも始動した。域内の宿泊施設の空き状況データを一元的に管理し、地域の企業の福利厚生サービスとして割安に宿泊できるようにする。「まだ実装までは至っていませんが、実証的に進めています」と西城さん。観光の活力を、地域全体の持続的な成長につなげる試みだ。

ふるさとづくり大賞の選考でも、民間の活力を活用し、行政コストを抑えながら好循環を生み出した点が評価された。宮﨑さんは「市にとって受賞は非常に喜ばしいこと。何よりも地元の方の活動が認められ、評価されたことがうれしいですね」と語る。

西城さんは「三豊市はもともと観光のまちではありませんでしたが、父母ヶ浜がブレークしたことでゲストハウスや飲食店も増え、好循環が生まれています。これを持続可能なものにして観光産業を本格化していきたい、受賞をその追い風にしたいですね」と歓迎する。

近年開業した「URASHIMA VILLAGE」。地元を中心とした11社が出資したゲストハウスだ。

地元住民の思いと努力が原点に。

成功の背景には、行政や観光交流局の取り組みに加え、地元住民の努力があった。1990年代に父母ヶ浜の海岸埋め立て構想が浮上した際、地元有志が「ちちぶの会」を結成。反対の意思を示すため海岸清掃を始めた。

海岸が保全され、いまや年間50万人が訪れるようになったが、「ちちぶの会の活動は今も昔も変わりなく、清掃をずっとしていただいています。賛同して活動に参加する方が年々増えている状況です」と宮﨑さんは話す。

「観光客が父母ヶ浜に来ると、地元の年配の方が写真を撮ってあげるなど、ちょっとした交流があります。その交流で観光客に喜んでいただき、また来てくれるということがある。持続的な観光のためには、そういった地元との触れ合い、交流こそ大切なのではないでしょうか」。

父母ヶ浜の清掃活動を続ける「ちちぶの会」など地元住民の方々。持続的な観光を支える主役だ。

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