ジチタイワークス

静岡県藤枝市

地場企業のDXを身近な事例集で後押しする。

人口減少が進む中、地域経済を効率的に持続させるには、企業のデジタル化が不可欠だ。しかし経営規模の小さい中小企業では、人材不足や導入コストなどの問題からDXに踏み切れないケースも少なくない。そこで静岡県藤枝市は令和6年、市内事業所のDX成功例を紹介した「藤枝市DX事例集」を発行。中小企業の検討促進に手ごたえを感じているという。担当者に聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

 

藤枝市の企業DXを担当する瀧下さん

 

 

 

Interviewee

静岡県藤枝市 産業振興部 産業政策課 中小企業振興係
係長 瀧下 恵大 (たきした けいた)  さん

中小事業所の過半数がデジタル化「未着手」。

藤枝市では、市内5,478事業所の99%を中小事業所が占める。市内の中小企業は、地域経済を支える主役だ。

大企業に対抗するための業務効率化や、将来的な人手不足への対応のため、中小企業こそデジタル化による生産性向上が求められている

しかし同市が昨年、市内の中小企業を対象に実施したアンケートでは、回答した202社のうち、DXに「未着手」と答えた企業が52%を占めたという。

理由としては「デジタル化を進めるための人材がいない」38%に次いで、「何から始めればいいのかわからない」との回答が18%を占め、DX導入を促す情報の不足が浮き彫りになった。

瀧下さんは「例えば国の補助金を受けようとしても、前提となる予算規模が大きい場合も多く、躊躇する企業が少なくありませんでした」と実情を明かす。

「DXスクール」で導入ノウハウを伝える。

そこで藤枝市は令和5年度、デジタル田園都市国家構想交付金を活用して「地域DX牽引人材育成プログラム事業」を3か年計画で始動した。

手はじめに、市内事業者向けの「藤枝未来DXスクール」を同年10月から開講した。先進企業の担当者や大学教授らを講師として招聘。DXがもたらす業務改善の利点や、導入のための様々なノウハウを6回にわたって指導した。

実際のDX導入につなげるため、現場の担当者と、決定権をもつ経営者が揃った形での受講を奨励。市内の事業所から27人が参加し、デジタル化への具体的な知見を深めたという。

今回発行した事例集は「スクールで始まったDX推進の動きをさらに広げ、今後の受講拡大にもつなげるねらいで企画しました」と瀧下さんは話す。

令和5年10月から始まった「藤枝未来DXスクール」

令和5年10月から始まった「藤枝未来DXスクール」。市内事業所の経営者と従業員がデジタル化について知見を深めた。

成功事例10件を紹介、導入への呼び水に。

同市では、中小企業庁が管轄する「IT導入補助金」の採択を受けた市内の企業に対し、市独自の「IT導入事業費補助金」を出している。

事例集は、その対象となっている40社の中から、業種や導入システムが重複しないように10件の成功例を選択。導入企業の生の声と写真を豊富に盛り込み、A4判24ページにまとめた。

世界的な断熱パネル製造工場が図面の電子化で作業を効率化した例や、インボイス対応で作業量が増大した税理士事務所が証憑スキャンによる自動処理を導入して成功した例などを掲載している。

このほか、国税庁管轄のため特殊な記帳が求められる造り酒屋が、酒造業専用のシステムを導入して業務を効率化したユニークな例も紹介。生産管理のノウハウがデータ化されるため、ベテラン職人の技を若い職員が引き継ぐ助けにもなっているという。

編集は市内の企業に委託したが、取材には瀧下さんら市役所の職員も同行したそうだ。

瀧下さんは「取材先の企業からは、デジタルは慣れるまで大変だが慣れたら負担が軽くなったとか、事務作業が3分の1になった、という生の声を聴けました」と貴重な経験を振り返る。

「藤枝市DX事例集」の誌面

「藤枝市DX事例集」の誌面。それぞれの事例を見開きで掲載し、豊富な写真も交えて紹介している。

令和6年8月末に紙の冊子で2,000部を作成し、市や藤枝商工会議所、岡部町商工会などを通じて配布。市のホームページではPDF版を公開した。

その後、1カ月ほどの間に「事例集がDX検討のきっかけになった」などの声が市役所にも複数届き、瀧下さんは「手ごたえを感じています」と語る。

WEBで公開しているPDF版には今後、新たな事例を追加することも検討しているそうだ。

他部署と連携して企業のデジタル化を加速へ。

「藤枝未来DXスクール」は令和6年度も10月から開講を予定している。

今回は「SNSマーケティングコース」と「ノーコードシステムコース」の2つのプログラムを用意した。「実技も取り入れ、少しレベルアップさせました」と瀧下さん。

令和7年度もスクールを継続するほか、将来は同市情報デジタル推進課が担当している「デジタル経営診断」と連携して、中小企業のDXをさらに促進する構想だという。

藤枝市と同様、中小企業のデジタル化の遅れに課題を感じている自治体は少なくないだろう。

瀧下さんにアドバイスを求めると、「今回の事例集は紙でつくりました。デジタル化とは相いれないようですが、DXに踏み出せていない企業に届けるにはやはり必要だったと感じています。デジタルへの間口を広げるのがポイントでしょうか」と語ってくれた。

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