脱炭素社会を目指すため、再生可能エネルギー(再エネ)の導入が自治体でも急速に進んでいる。
再エネにはさまざまな種類があるが、自治体で導入しやすいものは太陽光・風力・バイオマス発電だろう。本記事では、再エネが必要とされる背景やそれぞれの種類の発電コストや強み、課題について解説し、自治体の実際の導入事例を紹介する。
【目次】
• なぜいま再生可能エネルギーが必要とされているのか?
• 再生可能エネルギーの種類と特徴を学ぼう
• 再生可能エネルギーの導入に積極的な自治体の取り組み
• 地域の財産を活かした再エネ施策を進めよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
なぜいま再生可能エネルギーが必要とされているのか?
いま、再生可能エネルギーが必要とされる理由は何だろうか? カーボンニュートラルを目指す世界的な流れや、日本のエネルギー事情を踏まえて見ていこう。
化石エネルギーに頼る日本のエネルギー自給率をアップしたいから
日本は化石燃料の供給をほぼ輸入に頼っている。石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料は、国際市場の影響を受けやすく、供給の安定性に不安がある。エネルギー自給率を高めるためには、国内で安定供給が可能な再生可能エネルギーの導入が不可欠だ。
地球のエネルギー源を枯渇させないため
石油や石炭、天然ガスといった化石燃料は、動植物が長い時間をかけて地中で変化したものだ。限りある資源であり、現在の消費ペースでは約50年以内に枯渇するとされている。そのためエネルギー源が枯渇しない再生可能エネルギーの確保は未来のためにも重要である。
東日本大震災で原子力発電のリスクが顕在化したから
平成23年に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故は、日本のエネルギー政策に大きな影響を与えた。これを機に、原子力発電への依存度を下げ、再生可能エネルギーの活用を進める必要性が一層高まった。
エネルギーの安定供給と環境保全を両立させるためには、再生可能エネルギーの普及が不可欠である。
再生可能エネルギーの種類と特徴を学ぼう
再生可能エネルギーの種類はいくつかあり、それぞれにメリットと課題がある。詳しく見ていこう。
災害時にも活用!太陽熱を利用する太陽光発電
太陽の光をエネルギーに変換する太陽光発電は、企業や家庭だけでなく自治体でも導入が進んでいる。国は2030年度までに設置可能な公共の建築物(敷地を含む)の約50%以上に太陽光発電設備の設置を目指す目標を掲げており、各自治体においても政府実行計画に準じて取り組むことが求められている。
太陽光発電のメリット
太陽光発電の強みは何といっても、災害時の非常用電源として活用できる点だ。太陽光パネルを屋根や遊休地に設置するだけで、エネルギーの安定確保が期待でき、特に災害時には電力供給の一部を賄うことで、地域のインフラ維持にも貢献できる。化石燃料のように供給元の国際的な状況に左右されないメリットもある。
特に注目されているのが、次世代型の「ペロブスカイト太陽電池」だ。この技術は、従来のシリコン型太陽電池よりも軽量で柔軟性があり、建物の外壁や車のボディなどにも応用できる。官民協力しての実証が始まったばかりであるが、今後の普及が期待されている。
太陽光発電の課題
太陽光発電の課題は、発電量が安定しないことだ。天候に左右されるため、太陽光発電だけで地域のエネルギーをすべて賄うことは難しく、他の再生可能エネルギーとの併用が必要だ。
さらに問題となっているのが、設備の廃棄や管理である。現行の法律では、太陽光発電設備の廃棄は設置した事業者の責任で行われるべきであるが、実際には管理が不十分な設備も多く、住民から苦情が寄せられるケースもある。このため、地域と共生を図りつつ、設備の適切な維持管理や廃棄処理が、今後の太陽光発電の普及において重要な課題となっている。
安定的に電力を供給できる風力発電
日本でも特に風力が強い北海道や東北地方を中心に、大規模な風力発電設備が導入されている。近年、陸上型だけでなく浮体式洋上風力発電の技術開発が進んでおり、従来の着床式では設置できなかった深海域にも風車を設置できるようになった。
風力発電のメリット
風力発電の強みは、風が一定の強さで吹いている限り、安定的に電力を供給できる点だ。特に、洋上風力発電は技術の進展により、非常に大規模な発電が可能となっている。洋上は陸上よりも風が強く安定しているため、発電効率が高いとされている。
また、風力発電は、設置後のランニングコストが比較的低く、メンテナンスも容易だ。大型の風車を一度設置すれば、数十年にわたって安定した発電が可能である。
風力発電の課題
風力発電の課題は、広大な設置場所の確保だ。陸上風力発電の場合、都市部では広い土地の確保が難しく、設置が難しい。風が安定して吹かない地域では発電効率が低くなるため、立地選定が重要となる。
さらに、騒音や振動といった風車特有の問題も指摘されている。風車の回転によって発生する低周波音は、周辺住民に影響を与えることがあり、設置場所の選定には住民との合意が不可欠だ。
地域の資源を電力に!バイオマス発電
バイオマス発電は、動植物から得られる有機物(バイオマス)を燃料として発電する方法だ。化石燃料と異なり、バイオマスは再生可能な資源であり、廃棄物の再利用や農業・林業の副産物をエネルギーに変えることができる。
日本では、木材の間伐材、もみ殻、家畜の排泄物、食品廃棄物、下水汚泥など、さまざまなバイオマス資源が発電に利用されている。地域の資源を活用して持続可能なエネルギー供給を実現できるため、自治体での導入事例が増えている。
バイオマス発電のメリット
バイオマス発電の強みは、廃棄されるはずの有機物をエネルギー源として活用することで、廃棄物の削減やリサイクルに寄与し、循環型社会の構築にも貢献できることだ。また、エネルギーを地域内で生産・消費する「地産地消」の仕組みをつくりやすく、地域経済の活性化にも繋がる。
太陽光や風力とは異なり、気象条件に左右される心配もない。特に、農業や林業が盛んな地域では、廃棄物や副産物を効率的に活用できる。日本のように森林資源が豊富な国では、間伐材を活用した発電が進められており、森林の適切な管理にも貢献している。
バイオマス発電の課題
バイオマス資源の課題は収集・運搬にかかるコストが高くなることだ。農業や林業で発生する副産物は、発電所に集めるまでの運搬費用がかさむことがあり、小規模な施設ではコスト面での効率が悪くなることが多い。
発電効率の面でも課題がある。バイオマス発電は、石炭や天然ガスなどの化石燃料に比べて発電効率が低いため、大規模な電力供給には向いていない。そのため、地域ごとの小規模な分散型電源としての利用が一般的であり、都市部などの大規模なエネルギー需要を賄うには不向きだ。
CO2をほぼ排出しないため環境に優しい!水力発電
▲福井県の九頭竜ダムと長野発電所
水力発電は、非常に高い発電効率を誇っており、安定した電力を長期間にわたって供給できる。日本は山岳地帯が多く河川資源が豊富なため、古くから水力発電が利用されており、国内電力供給の一翼を担ってきた。
水力発電のメリット
水力発電は二酸化炭素をほとんど排出しないため、環境に優しいエネルギー源である。一度水力発電所を建設すれば、燃料が不要でランニングコストが低く、メンテナンスも比較的容易な点が強みである。
大規模ダムを利用した水力発電なら大量の電力を生み出すことができ、大都市への電力供給にも対応可能だ。
水力発電の課題
水力発電所を建設するためには、長期間にわたる河川流量の調査や、地形に合わせた適切な設計が必要であり、初期投資が非常に高額になる。特にダムを伴う水力発電所は建設に数年を要し、環境影響評価や地元住民との調整も不可欠であるため、計画段階から稼働開始までには多くの時間とコストがかかる。
さらに、環境への影響も大きな課題である。ダムを建設する場合、自然の河川の流れを人為的に変えるため、生態系への影響が避けられない。例えば、魚の遡上ルートが遮断されることで、生態系が崩れる可能性があり、そのための環境対策が求められる。また、ダムによって広範囲にわたる土地が水没するため、地域住民の移転や土地利用の変更が必要となることもある。
地中熱を利用して発電!地熱発電
▲日本で最初の商用地熱発電所である岩手県の松川地熱発電所。昭和41年に運転を開始した
地熱発電は、地球内部の熱エネルギーを利用して発電する再生可能エネルギーである。地中深くにある高温の蒸気や熱水でタービンを回転させ、発電を行う仕組みだ。日本は世界的に見ても活火山の多い国であり、豊富な地熱資源を持つ国の一つである。
地熱発電のメリット
地熱エネルギーは、季節や天候に左右されることなく、安定した電力供給が可能だ。発電に使用した後の熱水や蒸気は、農業用ハウスや温泉、魚の養殖、地域の暖房などに再利用することができ、地域経済の活性化や資源の効率的利用が促進され、エネルギーの地産地消にも貢献できる。
地熱発電の課題
地熱資源を活用するためには適切な立地条件が必要であり、火山や温泉地に近い場所でしか導入できない。また、発電所の建設には高額な初期投資が必要で、地下資源の調査や掘削、インフラ整備に多大なコストがかかることから、事業化までに時間がかかるケースが多い。
さらに、地熱発電は温泉地との利害が対立することがある。特に日本では、温泉は観光資源として重要な役割を果たしており、地熱発電による地下熱水の利用が温泉の枯渇につながるのではないかという懸念がある。地元住民や温泉業者との調整が必要となり、地域との協調が欠かせない。
ここまで紹介した再エネのうち、自治体で導入しやすいのは、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電である。もちろん地域特性によってその他の再エネも導入できるだろう。それぞれの特性を活かし、自治体のエネルギー自給率向上に向けて検討してほしい。
再生可能エネルギーの導入に積極的な自治体の取り組み
再生可能エネルギーの普及に向けて、地方自治体ではさまざまな取り組みが進んでいる。ここでは自治体の事例を3つ紹介する。
【大阪府吹田市】日本初!再エネ100%タウン
大阪府吹田市は、日本初となる再生可能エネルギー100%タウンを目指し、令和4年に「Suitaサスティナブル・スマートタウン(以下、Suita SST)」の街びらきを行った。
Suita SSTの特徴は、住民、自治体、行政、大学、パートナー企業が協力し、「共創」で未来のまちづくりを進めている点である。
太陽光発電、電気自動車(EV)、蓄電池、先進ガス機器などを活用したエネルギーレジリエンス対策が進められており、関西電力の協力のもと、街全体で消費される電力をすべて再生可能エネルギー100%で賄える。
このプロジェクトは、次世代のスマートタウンづくりのモデルケースとして、最低でも5年間継続される予定だ。
【大阪府枚方市】ひらパーを100%再エネ利用テーマパークに
大阪府枚方市では、令和6年夏より「ため池を活用した再生可能エネルギーの地産地消の取り組み」が動き出した。枚方市の所有で招提土地改良区が管理するため池を活用し、関西電力含む5社で協定を締結。
発電された電力は、枚方市内の「ひらかたパーク」や「くずはモール」で使用され、100%再エネを活用したテーマパークが実現する。
この取り組みは、単なる再生可能エネルギーの活用にとどまらず、水面貸しによる賃料収入をため池の維持管理費用に充てることで、ため池の保全にも貢献する。地域で発電した電力を地域に還元し、地域課題の解決にも寄与している好例である。
【岐阜県】 県立高校屋根貸し事業
岐阜県は、全国でも有数の日照時間を誇る地域であり、この特性を活かして太陽光発電の導入が進められている。「県立高校屋根貸し事業」はユニークな取り組みで、県内の高校の屋根を太陽光パネルの設置場所として活用している。
学校施設で太陽光発電ができれば、災害時にも有効活用できる。蓄電池と組み合わせることで、避難者に必要な電力を供給することが可能となり、緊急時のライフライン確保にも役立つ。災害への備えとしてのレジリエンス強化にも役立つだろう。
地域の財産を活かした再エネ施策を進めよう
再生可能エネルギーの導入は、自治体のエネルギー自給率を向上させ、脱炭素社会の実現に向けた大きな一歩となる。太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーは、それぞれに強みと課題があるが、地域の特性に応じて最適なエネルギー源を選び、活用していくことが求められる。
再エネの導入は単なるエネルギーの問題にとどまらず、災害対策や地域課題の解決といった多面的な効果が期待できる。自治体の先進事例を参考に、自らの地域の強みを生かした施策を検討し、地域社会全体で再エネの導入を進めていくことが重要だ。地域の持続可能な未来を築くために、再生可能エネルギーの活用を一層加速させていこう。