既存建物の“ZEB化”可能性調査
建物全体で省エネと再エネ創出を同時に行うZEB※1。新築で取り組む建物はあるものの、既存建物での実現には課題が多い。そこで京都市では、民間企業の力を借りて“実現可能性”を調査。次のステップに向けて、大きく前進したという。
※1 ZEB=Net Zero Energy Building(快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと)
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]パナソニック株式会社エレクトリックワークス社
左から
京都府京都市
環境政策局 地球温暖化対策室
課長 山田 淳平(やまだ じゅんぺい)さん
係長 菊田 翔一朗(きくた しょういちろう)さん
樹山 竜太(きやま りょうた)さん
ZEB化の取り組みを進めていく上で既存建物への対策が課題となった。
「京都議定書」誕生の地である同市。平成16年に“京都市地球温暖化対策条例”を制定し、一定面積以上の建物を新築する人を対象に、「建築物排出量削減計画書」の提出を義務付けた。さらに、その後の改正では再エネ設備の設置も義務付けるなど、建物の脱炭素化にかかる取り組みを行っている。その中で、近年着手しはじめたのが、市内建物のZEB化推進だ。
「太陽光パネル設置などの施策を打っていくうちに、理想としていたZEB化を目指せる状況になってきたのではないかと感じていました。そこで、国の方針も踏まえてZEH※2・ZEBの普及推進に取り組むことにしました」と山田さん。そんな中、既存建物をどう改修するかが課題になったという。「建物を使用しながらの改修は制約が大きく、外壁や窓などの工事は時間もコストもかさむため、難しいと感じていました」と菊田さんは指摘する。
そこで、社会課題を解決するために、民間企業が事業提案する公民連携の枠組みである“公民連携プラットフォーム”を活用。既存建物のZEB化に関する課題解決の提案ができる民間企業を募集することに。4社が手を挙げ、そのうちの1社が「パナソニック エレクトリックワークス社」だった。
※2 ZEH=Net Zero Energy House(再生可能エネルギーの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅のこと)
調査で対策の方向性が分かり、次の打ち手が見えてきた。
ZEBプランナー※3として、既存建物のZEB化を数多く手がけてきた同社。まず、実現可能性が高い建物を選定し、調査を実施。空調設備や照明の最適化など、設備改修だけでZEB化を目指せる提案を行う。それだけでなく、工事手法の検討や活用できる補助金の案内など、ZEB化に向けてサポートしている。
設備改修だけでZEB化を達成している「パナソニック京都ビル」を見学した樹山さんも、「これまでは外壁や窓などの工事を実施して、ようやくZEB化できるというイメージでした。ですが、設備改修だけで達成可能であることが実感でき、ハードルが下がりました」と話す。
令和5年11月、ZEB化可能性調査を実施する民間施設および公共施設を募集し、その中から9施設の調査を同社に依頼。結果をもとに、設備改修案、ZEB化の達成度合に加え、設備機器の概算費用などをレポートにまとめた。「これまでは太陽光パネルの設置や高効率機器への更新など、個々の取り組みを実施しているだけでした。しかしレポートを見ると、“空調を変えたらどれだけエネルギー消費量が下がるのか”“空調だけで無理なら給湯設備も変えるとどうなるか”といった形で、どのような改修メニューを組み合わせて、どの程度取り組めばいいのか、トータルでの方向性が見えるようになりました」と菊田さんは手応えを語る。
※3 「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」が認可した、ZEBや省エネ建築物を設計するための技術や知見を保有する事業者のこと
中小企業への無料調査実施で民間に広まるきっかけづくり。
市内建物のZEB化を進めていくにあたり、民間企業の協力をどう仰いでいくかも課題だったという。「市内建物の脱炭素化を実現するためには、公共施設だけでなく、民間施設の対策も欠かせません。公共施設は、市が取り組みを進めれば実現に近づきますが、民間施設ではそうはいかず、当市だけで市内建物のZEB化を進めるのは難しいと感じていたところです。昨今のエネルギー価格高騰もあり、中小企業においても脱炭素への関心が高まっています。しかし、なかなか積極的な投資ができていないのが現状でした。今回の提案では、外壁や窓の大がかりな工事が不要ということもあり、改修を検討しているという前向きな声を複数企業から聞いています。実際に改修が行われ、ZEB化が達成できればモデルケースとなり、市内に取り組みが広がる足がかりになるのではないでしょうか」と山田さんは期待を寄せる。
脱炭素の実現に向けて、既存建物のZEB化は重要だ。しかし、ハードルの高さから、令和5年時点の認証取得数は15%未満だという。そのため国も力を入れており、補助金の内容を新築よりも手厚くしている状況だ。様々な実績をもち、“外壁や窓を触らない改修”の知見やノウハウをもつ同社。可能性調査の実施により、“候補を絞れない” “コストが高く予算確保が難しい”といった問題も、解決につながるのではないだろうか。
企業の声
ビルを使いながら設備改修を行いコストを抑えたZEB化を実施
設備改修のみで既存建物をZEB化できれば、費用と工期の圧縮が可能になる。計画立案から改修工事まで、どのように進んでいくのだろうか。パナソニックエレクトリックワークス社が取り組んだ、自社ビルのZEB化について話を聞いた。
パナソニックレクトリックワークス社
橋本 文隆さん(はしもと ふみたか)
自社ビルが改修時期を迎え、可能性調査を実施することに。
京都を代表する製造業が盛んなエリアにある「パナソニック京都ビル」。同ビルは“創エネ” “省エネ” “エネマネ※”の技術を取り入れて建てられた“環境配慮型ビル”だ。完成から約10年が経過し、改修時期を迎える中でもち上がったのが、“外壁や窓などの工事をするのではなく、設備改修のみでZEB化を達成する”という計画だったそうだ。
「ZEB化しやすい建物にはいくつかの条件があります。同ビルは延べ床面積が約3,000㎡と広すぎず、空調も部屋やフロアごとに設置する“個別方式”なので、理想的な条件が揃っていました」と橋本さんは説明する。そこで“可能性調査”を実施したところ、思惑通り実現のめどが立ったという。「ZEB化においては、照明や空調などの設備でどれだけエネルギー量を減らせるかが重要です。そこで効果が見込める設備を改修し、効率化を図ることになりました」と語る。
※エネルギーマネジメントの略。工場やビル、住宅などで、エネルギーを合理的に利用するための活動のこと
最適な照明や空調機器でエネルギー消費量の削減へ。
総合電機メーカーとして幅広い機器を取り揃える同社は、トータルプランニングが可能な点が強み。調査結果を踏まえ、総合的な観点から選定を進めたという。
「空調に関しては高効率の室外機を導入し、電力消費量を減らしました。さらに室内機の一部は配管をなくし、搬送動力も抑えています」。また、パナソニックでは、人間が感じる“空間の明るさ感”を定量化した“Feu(フー)”という指標を策定。この指標を活用して機器を選ぶことで、快適さを確保しつつ、不要な明るさを抑えているそうだ。「改修の結果、一次エネルギーの消費量が53%減りました。ビル内で働く従業員へのアンケートでも、“省エネ意識”や“地球環境への貢献感”の項目において、7割以上が“以前より上がった”と答えています」。
ショールームとして公開し、既存建物のZEB普及に貢献。
同ビルは現在、見学施設として公開中だ。「照明や空調、太陽光パネルなどを中心に見学をしてもらい、ZEB化の具体的な手法を解説しています。中でも、事務所を稼働させながら工事をどう進めたのかという質問が多いです。そのため、既設の基礎・配管などを再利用し、短期間での施工を実現した室外機などを見せつつ説明しています」。
見学者からは“既存建物のZEB化に高いハードルを感じていたが、汎用技術の組み合わせで実現できると分かった”“実例を聞き、非常に参考になった”という感想が寄せられているという。
橋本さんは「国内でZEB化された建物のうち8割以上が新築。既存建物は大半が手付かずです。脱炭素に関するセミナーなどで啓発活動を行いながら、蓄積してきた知見やノウハウを活かし、自治体や地域全体をサポートしていきたいです」と、意気込みを語ってくれた。
設備改修による取り組みイメージ
照明や空調設備のリニューアルのみで建物内にいながらZEB化の実現を目指す
設計から約10年のタイミングでZEB化可能性調査を実施し、省エネ性能に優れた設備のリニューアルでエネルギー消費量を減らすことに成功した「パナソニック京都ビル」。自治体でも以下のような改修で、ZEB化につながる可能性があるという。
ZEB化の第一歩となる“可能性調査”
延べ床面積などの建物情報からZEB化の可能性が高い建物を選定し、可能性調査を進めることがポイント。調査を実施し、具体的な対策や費用目安を知ることから始めてはどうだろうか。
専門家がサポート
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サービス提供元企業:パナソニック株式会社エレクトリックワークス社
E-mail:sogokikakukaihatsu@ml.jp.panasonic.com
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パナソニック東京汐留ビル