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大阪府泉佐野市

公開日:2024-06-17

高騰した電気代を太陽光発電によって削減し、ため池保全も促進する。

農林水産
読了まで:4分
高騰した電気代を太陽光発電によって削減し、ため池保全も促進する。

脱炭素実現へ向けた農業用ため池での太陽光発電事業

脱炭素実現に向け、庁内で省エネ化を進めていた泉佐野市。ため池で太陽光発電を始めたところ、公共施設の電気代削減と脱炭素化だけでなく、ため池保全の人手不足解消にもつながったという。

※下記はジチタイワークスVol.32(2024年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

脱炭素の取り組みを進めていく中で、事業者から“ため池発電”の提案が。

庁舎をはじめとする公共施設は全て、地域新電力である「泉佐野電力」から電力供給を受けている同市。国が発表した、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すカーボンニュートラル宣言を受け、同市は令和3年9月に「泉佐野市気候非常事態宣言」を表明。昼休みの消灯や照明のLED化など、地道に取り組んできた。

しかし、昨今の情勢から電力卸売価格が高騰。公共施設の電気代にも影響を及ぼしたという。「ちょうどその頃、民間事業者から農業用ため池を活用した太陽光発電事業の提案を受けました。市が考えたスキームでは、事業者がため池で太陽光発電を行い、泉佐野電力がその電力を全量、固定価格で買い取るようになっていました。これが実現すれば、公共施設の電気を安定した価格で使用できます。また、日本卸電力取引所などから電気を購入してきた同社が独自電源をもてるため、電力の安定供給や再エネの割合を上げることにもつながるのです。発電設備の設置、運営、撤収にかかる全費用を事業者が負担するため、市の財政負担がゼロであること、水面を活用するので地上設置とは違い、整地が不要であることも大きな魅力でした」と田中さん。

そこで同市はため池での太陽光発電に取り組むべく、発電事業者を公募することに。事業の実現に向けた準備がスタートした。

土地改良区に対して24時間監視や定期的な水質検査を約束した。

同事業では、太陽光パネル設置事業者がため池の所有者である市と土地賃借契約を結んで、ため池の水面に太陽光発電設備を設置。発電した電力の全量を固定価格で泉佐野電力が購入し、同電力と契約する公共施設や民間企業に売電する。

「農業用のため池は市の所有ですが、池の水は農家によって構成される“土地改良区”が農業用水として利用しています。そのため、今回の事業は土地改良区の理解が不可欠でした」と豊田さんは振り返る。土地改良区とは農家によって構成される組織のことで、ため池、水路、田んぼなどの維持管理を行っている。「近年は少子高齢化や農家数の減少で維持管理の担い手が不足し、負担が増大していました。しかし、ため池発電のスキームを活用すれば、事業者から市に“ため池賃貸料”が支払われます。それを維持管理費用として市から土地改良区に渡し、その費用で作業を外注できるのでため池発電は多くの関係者にメリットのある事業なのです」。

現在は順調に進んでいる同事業だが、事業開始にあたり、土地改良区からは“水質汚染が心配”“農作物への影響が不安”といった懸念が出された。そこで同市と太陽光パネル設置事業者は、過去に水質が悪化した例は他地域で発生していないことを説明。さらに監視カメラを活用した、ため池の24時間監視や定期的な水質検査を約束し、土地改良区の理解を得ていったという。

▲太陽光パネル設置の様子。令和6年3月末時点で市内5カ所に設置し、事業を実施している。

予定していた発電量を達成し、公共施設に再エネを安定供給。

令和5年6月、市内3カ所の農業用ため池で太陽光発電が始まった。発電出力は合計2,797kwと、予定の発電量を達成。この成功を受けて、令和6年に入り、新たに市内2カ所の農業用ため池でも発電事業を開始した。これらのため池による発電で、市内公共施設の電力の約26%が賄われているという。

さらに予期せぬ副産物もあったそうだ。環境教育を行う地元団体からの依頼で、環境衛生課の職員が小学生にため池発電施設の見学会を実施したのだ。「市内の小学生は、授業の一環でごみの焼却場や水道局を見学する機会があります。今後も環境教育の教材として、ため池での太陽光発電を活用してもらえたら、子どもたちや地域住民の環境意識を高めることにもつながるのでは、と期待しています」。

現在、市内の別の土地改良区からも、ため池での太陽光発電をしてほしいという声が上がっており、市内でも評価されつつあるこの取り組み。ただ、発電した電気を活用する場がなければ、せっかくの電気がムダになってしまう。「ため池発電は脱炭素化に大きく貢献する事業。この再エネを使いたいという民間企業がもっと増えれば、市としてもぜひ協力したいですね。泉佐野電力と密に連携して再エネに関心をもつ民間企業を増やし、ほかのため池でも発電事業を始められないか、可能性を探っていきます」と今後の展望を語ってくれた。

左から
大阪府泉佐野市 生活産業部環境衛生課
田中 健一(たなか けんいち)さん
豊田 雄資(とよだ ゆうすけ)さん
 

予算情報

第1回 総事業費4.9億円
需要家主導による太陽光発電導入促進補助金を活用 (自治体負担なし)

第2回 総事業費4.8億円
二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を活用 (自治体負担なし)


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