ジチタイワークス

千葉県

県の橋渡しで山村と都市の自治体がつながり、森林環境譲与税を有効に活用する。

自治体間の相互協力で森林整備とCO2排出量の削減を両立

令和6年度から住民への賦課徴収が始まる「森林環境税」。その有効な使い道が問われる中、配分額は大きいが森林をもたない都市部と、森林整備の予算が足りない山村部をつなぐ、千葉県の取り組みが注目されている。

※下記はジチタイワークスVol.32(2024年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

都市部が間伐費用を負担する代わりにCO2吸収量を還元してもらう仕組み。

同県の山武(さんぶ)地域で育てられているサンブスギ。幹を腐らせる溝腐れ病にかかりやすく、森林整備の大きな課題になっている。また、令和元年度には、台風15号の強風により、県内各地で甚大な倒木被害が発生。被害が広範囲に及んだため、倒木の撤去などに時間がかかり、今もその処理は終わっていない。特に森林の多い地域では、台風被害の処理に人手と予算を取られ、本来進めるべき間伐を行えない事態に陥っていたという。

「そこで思いついたのが、自治体の枠を超えた森林環境譲与税(以下、譲与税)の有効活用です」と椎名さん。都市部の市町村に分配された譲与税を、山村部の森林整備に活用できないかと考えた。「ゼロカーボンシティ宣言をしている浦安市(うらやすし)が、県内でカーボン・オフセットの連携先を探しているという話を聞いていました。同市は人口が多いため譲与税の配分額は大きいのですが、市内に整備すべき森林がありません。他県で自治体間連携によるカーボン・オフセット事業が行われていることは知っていたので、それを参考にできないかと考えたのです」。

こうして同県は「森林整備広域モデル事業」を立ち上げて、同市と、台風15号で甚大な風倒被害を受けた山武市(さんむし)をマッチングしたという。

前例がないため庁内調整に苦労したが担当者の熱意で事業化が決定した。

両市にとってWin-Winになることを目指したモデル事業だが、実現には大きな壁があった。それは“前例がないこと”だ。他県で実施されていたカーボン・オフセット事業は自治体同士が直接手を組んでおり、同県が調べた限り、都道府県が仲介した事例はなかったという。また、山武市は浦安市からの譲与税で、私有林の間伐に対する補助事業を計画。「もともと自治体への譲与基準には公有林ではなく、私有林の面積が関係しています。そのため譲与税の本来の趣旨からすると、私有林の整備に活用するのは望ましいといえるでしょう。しかし、こちらも前例がなかったため、取り組みの内容や必要性を丁寧に説明し、庁内の理解を得る必要がありました」と坂本さんは話す。

その後、同県は整備対象である私有林の調査や、期待できるCO2吸収量の算出などを千葉県森林組合連合会に委託。委託費は県に分配された譲与税から約700万円を確保した。こうして事業の準備を進めると同時に、協定内容の調整も行っており、①山武市の森林整備の一部を浦安市が譲与税で負担する、②山武市は森林整備によって確保されるCO2吸収量を浦安市に還元する、③山武市産の木材を加工した製品の利用や相互の交流活動などを行う、という内容の協定を令和4年3月に両市が締結。「協定内容の調整などはとてもスムーズでした。私たちには見えない苦労もあったと思いますが、両市の担当者が熱心に動いてくれたおかげです」。

※写真はイメージです

CO2排出量の実質ゼロを目指し小さな取り組みを積み重ねる。

協定にもとづき、浦安市は山武市の森林整備費用として約300万円を負担。山武市はそれを活用して間伐の補助事業を立ち上げ、令和4年度には約3.55haの森林を整備。38. 4tのCO2吸収量を還元した。この量は、一般家庭が1年間に排出するCO2量で換算すると、わずか十数世帯分に過ぎない。もちろん県は、協定締結前に想定吸収量を浦安市に示して意向を確認。同市からは、「ゼロカーボンシティへの挑戦における様々な取り組みの一つと考えているので、量の多寡は問題ありません」という力強い言葉が返ってきたそうだ。CO2吸収量は少なくても、一つひとつを着実に積み上げていくことが大事であり、積極的に取り組む意義は大きいといえるだろう。

今回の協定には森林整備とカーボン・オフセットに加えて、山武市産木材の活用や、両市の交流が盛り込まれている。締結前には浦安市長が山武市を訪問し、整備予定の私有林などを同市市長と視察。また、山武市はサンブスギでつくった折り紙を浦安市に提供するなど、協定をきっかけに両市の距離も近づいているようだ。

成功事例ができたことで本事業への関心も高まり、令和5年3月に習志野市(ならしのし)と南房総市(みなみぼうそうし)が、同年8月には市川市(いちかわし)と一宮町(いちのみやまち)がそれぞれに同様の協定を締結。「県内には54の市町村があり、自分たちで他自治体の意向を確認するのは容易ではありません。県が仲介することでスムーズに意向を確認でき、最適なマッチングにつながると考えています。連携が広がれば、県内の森林整備とカーボン・オフセットが進むため、県としても取り組むメリットは大きいのです」と坂本さん。譲与税の活用方法に悩む自治体にとって、同県の成功は朗報といえるのではないだろうか。

千葉県
前・森林課 森林経営管理室(現・森林課 森林政策室)
椎名 康一(しいな こういち)さん

前・森林課 森林経営管理室(現・森林課 森林政策室)
坂本 知彌(さかもと ともや)さん

 

森林環境譲与税の活用だけでなく市民レベルの交流も進む

 都市部 
 浦安市 

浦安市 環境保全課 主事
南雲 祐子(なぐも ゆうこ)さん

Q なぜこの取り組みに参加を?

当初、森林環境譲与税は、公共施設を新設する際に県産材の活用を促進する目的で基金に積み立てていました。しかし、この事業なら、当市が掲げるゼロカーボンシティの達成や、県内の森林整備に寄与できます。そのため取り組む意義は大きいと考え、参加を決めました。

Q 参加してどうでしたか?

県が両市の要望をくみ取ってくれたおかげでスムーズに進み、CO2排出量の削減を達成できました。山武市提供の木の折り紙は1歳6カ月健診で配付しており、木製品に親しむきっかけになっています。

 

 山村部 
 山武市 

山武市 農政課 森林整備係 主査補
冨川 隆博(とみかわ たかひろ)さん

Q なぜこの取り組みに参加を?

木材価格の低迷や後継者不足で管理が行き届かない森林が増え、令和元年の台風では倒木で長期間停電が発生するなど、市民生活に多大な支障を及ぼしました。前例がなく不安ではありましたが、森林整備への市民の関心が高い今こそ取り組むべきだと考えました。

Q 参加してどうでしたか?

林業関係者が非常に協力的で、これまであまり手がまわらなかった間伐を実施できました。浦安市との市民レベルの交流も広がり、この関係を大事にして両市民の森林への関心を高めていきたいです。


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