「働き方改革」に多くの企業が取り組む今、自治体においても公務員の働き方改革が重要視されている。デジタル社会の到来や、個人の価値観の変化・多様化など、社会情勢の変化により行政が対応すべき課題も複雑化・多様化している。
人材確保に課題を抱える自治体も多い中、自治体はどのようにして公務員の働き方改革に取り組めばよいのだろうか。本記事では、公務員の働き方改革に焦点を当て、その重要性や推進のために考えられる制度、働き方改革に取り組む自治体の事例を紹介する。
【目次】
• 公務員の働き方改革とは
• なぜ公務員に働き方改革が必要か
• 地方公務員の働き方改革の推進で考えられる主な制度
• 公務員の働き方改革に取り組む自治体の事例紹介
• 公務員の働き方改革でより質の高い行政サービスを
※掲載情報は公開日時点のものです。
公務員の働き方改革とは?
厚生労働省は、働き方改革を「働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」と定義している。
(引用:厚生労働省「働き方改革」)
働き方改革は、国民の全てが活躍できる社会の実現を目的としており、公務員も例外ではない。
働き方改革を推進するにあたっては、長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態によらない公正な待遇の確保が求められている。
チェックしておきたい「働き方改革関連法」
平成31年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」では、残業時間の上限規制や勤務間インターバル制度の導入促進などの措置が定められている。
ここでは、チェックしておきたいポイントを以下に記載する。
「働き方改革関連法」の主なポイントとは
1.残業時間の上限規制
・時間外労働は原則月45時間、年360時間が上限
・臨時的な特別な事情がある場合で、労使が合意する場合には年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満まで
2.勤務間インターバル制度の導入促進
・前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」の導入促進
3.年5日の年次有給休暇の取得
・10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、そのうち年5日の年次有給休暇を、労働者の希望を踏まえて時季を指定し与える
4.月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
・中小企業では、月60時間を超える時間外労働について割増賃金率を50%に引き上げ
5.労働時間の客観的な把握
・管理監督者が労働時間を客観的・適切に把握する義務がある
6.フレックスタイム制の拡充
・フレックスタイム制の清算期間を1カ月から3カ月に延長
公務員の働き方改革においては、職員それぞれが活躍できる環境を整備することを目的に推進される。職員の健康保持やワークライフバランスの観点から、業務の内容や労働時間などを、働き方改革関連法を参考に見直してみよう。
なぜ公務員に働き方改革が必要なのか
公務員の長時間労働や過重労働はたびたび問題として取りざたされているものの、自治体では民間企業と比較して働き方改革の推進が困難なケースも少なくない。しかし、住民により質の高い行政サービスを提供するためには、公務員がそれぞれのパフォーマンスを十分に発揮するよう努めることが重要だ。
一方で、社会情勢の変化によって行政が対応すべき課題が複雑化・多様化していることで職員への負担が大きくなっているために働き方改革も思うように進まない現状がある。
IT技術は行政における業務効率化を実現できるメリットがある一方で、セキュリティリスクの高まりや住民間のデジタル格差解消など、新たな課題を生んでいる。
大規模災害や感染症など、平時には顕在化しない問題への対策をどうするか、少子高齢化による行政需要増大や労働力不足、減少する財源の中で行政サービスの水準をどのように維持していくのかなど、行政がかかる課題には枚挙にいとまがない。
これらの課題を解決しながら住民サービスの質を維持・向上していくためには、デジタル技術を活用した業務効率化、生産性向上に加え、限られた人的リソースの中で各職員が高いモチベーションを保ちながらパフォーマンスを発揮できる働き方を実現する必要があるだろう。
働き方改革の推進により労働時間の削減や多様な働き方を実現することで、各職員が高い貢献意欲ややりがいをもって働き続けられる環境を構築できる可能性がある。よりよい環境を用意することは、人材獲得の面でもプラスに働くと考えられる。
地方公務員の働き方改革の推進で考えられる制度5選
では、働き方改革を推進するためにどのような制度を設ければよいのだろうか。ここからは、働き方改革に寄与する制度を5つ紹介する。
1.長時間労働の是正
長時間労働の是正を図るためには、残業時間の削減や休暇の取得促進、業務効率化などに関する制度を設ける方法がある。
例えば、定時退庁日(ノー残業デー)の設立や、残業・深夜勤務の事前申請の導入、一斉消灯などが考えられる。これらの制度を設けることで、勤務時間外の労働を抑制し、長時間労働を防止できるだろう。
2.ワークライフバランス推進・多様で柔軟な働き方の推進
ワークライフバランスの推進においては、長時間労働の是正と同様に時間外勤務の縮減に努めるとともに、子育てに関する制度を利用しやすい職場環境を構築しよう。
後述する男性の育児休業等の取得促進に加え、子育てや家庭に関する情報交換を行う場を設ける、子育て世代の職員に向けたライフプランセミナーや研修を開催する方法もある。
3.男性職員の育児休業等の取得促進
女性職員だけでなく、男性職員の育児休業等の取得を促進することも重要だ。男性の育児休業等取得促進のための施策としては、育児に伴う休暇・休業の1カ月以上の取得を目指すなど方針・目標を明確化したうえで、対象職員の取得計画を作成するなどの方法がある。
また、管理職や人事担当者が、職員からの相談を受けやすい雰囲気づくりに努めよう。これには、育児休業等に関する質問や相談を受け付ける窓口を設置することも有効だ。
4.テレワークの推進
多様な働き方を実現するための施策として、テレワークを導入することも検討してみよう。様々な場所で働ける環境を用意することで、定着率の向上を図れる。
5.ハラスメント防止対策
パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメントなど、様々なハラスメントを防止するための対策を講じよう。
各種ハラスメントに対応する相談窓口を設置する場合には、相談者と行為者の両者のプライバシー保護に留意する必要がある。また、ハラスメントを防止するために、ハラスメントにつながる行為などの周知や、首長からのメッセージによる注意喚起を行う方法もある。
公務員の働き方改革に取り組む自治体の事例を2つ紹介
ここからは、働き方改革を推進するための各種施策を検討している自治体の参考となる、2つの自治体の取り組みを紹介する。
【鳥取県】平成28年度よりフレックスタイム制度を導入
鳥取県では、仕事と家庭生活等との両立および公務能率の向上を目的として、フレックスタイム制度を平成28年度から導入している。
制度の利用実績は、令和2年度で643人、令和3年度が627人。制度開始以降、利用者数は増加傾向にある。
鳥取県のフレックスタイム制度では、職員の申請にもとづき、週38時間45分になるよう所属長が勤務時間を割り振る。
同制度の最低勤務時間は4時間から6時間と定められている。また、フレックスタイム制度を利用する職員には原則として時間外勤務を命令しないことも定めた。
出典:総務省自治行政局「人事院規則15-14(職員の勤務時間、休日及び休暇)の一部改正等について」
【長崎県長与町】若手プロモーターを各課に配置しテレワークの導入に成功
長与町は、「IT推進のまち」をテーマに掲げ、多様な働き方を実現するために様々な取り組みを行ってきた。
令和2年より導入の検討を始めたテレワークもその1つだ。コロナ禍を契機として、トップダウンでテレワークの導入が決定し、令和3年4月には試験導入をスタートしている。
長与町の取り組みの特徴に、プロモーター制度がある。導入当初、自治体でテレワークは難しいという声が多数あり、導入の目的を周知するため各課に1名のプロモーターを配置し、テレワークの浸透を図った。
プロモーターには、新しい取り組みへの抵抗感が少ない若手職員を選任。ワーキンググループを月に1~2度開催し、その内容を各課に持ち帰り共有する、業務の棚卸しを行いテレワークでできることを明確化する作業などを行った。
これらの取り組みにより、テレワークでも効率よく業務ができる環境を構築できている。
公務員の働き方改革でより質の高い行政サービスを実現しよう
働き方改革の推進は、長時間労働になりがちな公務員にこそ必要な取り組みといっても過言ではない。
少子高齢化が進む中、職員の確保に課題を抱えている自治体は少なくない。
長時間労働の是正や多様な働き方の実現は、職員の確保や定着に寄与するだけでなく、モチベーションやパフォーマンスにも好影響を与えてくれるはずだ。職員の働き方改革に着手することにより、行政サービスの向上にもつながるだろう。