多種多様な仕事がある自治体現場での人事異動は、しばしば「転職」と称されるほど。「これまでの経験が活かせず途方に暮れる」といった話を耳にすることも多い。
本企画、『自治体シゴトのテキスト』では、少しでも皆さんの支えとなるよう、多種多様な自治体業務について、その業務に精通している方にやりがいや魅力、仕事のポイントについてご紹介いただく。
【生活保護ケースワーカーを学ぶ 実践編】
第5弾のテーマは「生活保護ケースワーカー」。
基礎編、実践編、応用編に分けてご紹介するお話の中で、今回は「実践編」を紹介する。
今回は『福祉知識ゼロからわかる!生活保護ケースワーカーの仕事の基本』などの著者である大阪市職員の山中正則さんにご登場いただく。山中さんのテキストには、いったいどんな内容が書かれているのだろうか。
※著者の所属先及び役職等は2024年4月公開日時点のものです。
※各記事の掲載情報は公開日時点のものです。
生活保護ケースワーカーのシゴトを緩やかにコントロールするための3つのポイント
こんにちは、大阪市の山中正則です。
前回に続いて「自治体シゴトのテキスト 生活保護ケースワーカーを学ぶ(実践編)」として、基礎編でお伝えした「最初からキャパオーバー」な生活保護ケースワーカーのシゴトを緩やかにコントロールするための3つのポイントを紹介します。
地方公務員の仕事は生活保護ケースワーカーに限らず、引き継ぎらしい引き継ぎもなく、すぐにプロとしての仕事を求められます。
生活保護ケースワーカーは生活保護法をはじめ、被保護者が抱える課題に対して「他法他施策」を学び、それを支援につなげなければなりません。
しっかりと自身の仕事への知識・経験を積んでいく時間も作れず、最初からあたふたとすることも多いでしょう。
何からやれば、何から学べばと悩むこともあるかもしれませんが、そんな皆さんこそ、次の3つのポイントをまず押さえていただければと思います。
ポイント1 生活保護ケースワーカーは『沿道のサポーター』
ケースワーカーの仕事の一つに被保護者の「指導・指示・助言」を行うことがあります。
「指導・指示・助言」と言うとどうしても教師やコーチのような仕事を思い浮かべてしまうかもしれませんが、そのイメージを持ってケースワーカーの仕事につくとあまりうまくいかないように感じられます。
担当する被保護者が多いというのもそうですが、皆さんが向き合う方はそれぞれの人生の中で様々な課題を抱えています。担当者としてポンと目の前にあらわれたケースワーカーの「指導・指示・助言」はどれほどの意味を持つでしょうか?
私もそうでしたが、担当する被保護者が自分の父母や祖父母のような年齢の方ということもあります。また、言葉でしか聞いたことのない病気を抱えている方や、皆さんが経験したことのないような、過酷な事態を経ている被保護者もいるでしょう。
そんな被保護者に経験・知識もない先生・コーチとして立つのではなく、皆さんは長い人生を走るランナーを応援する「沿道のサポーター」の距離感で接してもらえればと思います。
「指導・指示・助言」を「応援」だと思えば、仕事の向き合い方が少し変わってくるんじゃないでしょうか?
被保護者の言葉を聞いて、何を「応援」することが力になるのか、仕事を制度や仕組みから捉えるのではなく、また必要以上に重く持つのではなく適切な距離感で仕事を進めましょう。
ポイント2 感情や苦しさを吐き出すのが新人の仕事
ケースワーカーは一人で色々と抱え込みがち。
何しろ担当している業務には被保護者の濃密な個人情報が含まれており、仕事がしんどくても仕事帰りに同僚と居酒屋などで話して、他人に聞かれでもしたらすぐに問題になってしまいます。家に帰っても、家族に説明するのが難しいのが正直なところです。私も家族によるとケースワーカーをしていた頃は、寝言で仕事のことをよくしゃべっていたといいます。
そうなると、悩みを吐き出すことができるのは職場でということになってきます。
……といっても、先輩職員もそれぞれの担当する被保護者を抱えているので話しかけにくいという人もいるでしょう。
それでも、皆さんは仕事で抱えた感情や苦しさをぜひ吐き出してほしい、むしろそれが新人ケースワーカーの一番の仕事だと思っても良いくらいです。
生活保護の仕事はチームワークが大事です。
皆さんだけでなく、先輩職員もそういった感情や苦しさを抱えたり、乗り越えたりしながらケースワーカーの仕事をしています。
感情・苦しさを吐き出すことで先輩職員も皆さんにアプローチすることができます。
吐き出すこともチームワークの一つです。
ポイント3 他職種・多職種の連携を意識
ケースワーカーには担当する被保護者に関する相談が寄せられます。
家賃を滞納しているから払わせてほしい、入院の同意書に記入してほしい、きちんと服薬しないので指導してほしい……
まるでケースワーカーが被保護者の家族かのように色々な相談がありますが、その全てに皆さんが応えていては、ますますキャパオーバーになってしまいます。
そこで意識してほしいのが、「その人が生活保護を適用していなかったらどうなるの?」という視点です。
生活保護には「他法他施策の活用」という原則があり、様々な社会施策・資源を活用して、それでも足りないところを生活保護制度で支えます。
ですから、難しい事態が発生したときに最初に取り組んでほしいのは、あえて生活保護制度以外の社会施策・資源に目を向け、庁内外の「他職種・多職種」との連携を意識することです。
他法他施策の全てをケースワーカーが知って対応することは無理なことです。
しかし、その分野に詳しい職員や専門家に積極的にアプローチをかけて協力を仰ぎ、それを繰り返していくことで、様々な課題に対応する「引き出し」が増えていきます。
この際、注意してほしいのが「丸投げしない」ということです。
ケースワーカーの仕事じゃないとほかの窓口に連れて行くというのではなく、積極的に皆さん自身も関わることが大切です。
基礎編でも紹介したとおり、ケースワーカーの仕事は非常に多岐にわたるので一つ一つの仕事を掘り下げる前に、緩やかにコントロールして負担を和らげる方法を身につけたいものです。
具体的な課題への取り組み方とは。
応用編に続く
プロフィール
山中 正則(やまなか まさのり)さん
大阪市生まれ、育ち、1993年に大阪市に入庁。
1999年に福祉知識ゼロで生活保護ケースワーカーになり、
生活保護関連の通達や通達を独自にデータベース化した『生活保護通知・通達総索引』を制作。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2022」受賞。
著書に「福祉知識ゼロからわかる!生活保護ケースワーカーの仕事の基本」「生活保護ケースワーカーはじめての現場の実務」(学陽書房)