ジチタイワークス

三重県桑名市

“縦割りをなくす”を合言葉に誕生した多世代共生施設「桑名福祉ヴィレッジ」とは。

民間提案でつくる、地域と一体化した複合型福祉施設

令和4年4月にオープンした「桑名福祉ヴィレッジ」。4つの福祉施設を統合したこの複合型施設は、前例のない取り組みを実現させようという官民の熱意の結晶だという。施設の構想から現在までの、桑名市の足跡を追う。

※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]大和リース株式会社

要件を最小限に抑えた提案募集に自由なアイデアで応えた民間事業者。

桑名福祉ヴィレッジが誕生したきっかけは、同市の伊藤市長が2期目に掲げた公約だったと新井さんは振り返る。「各福祉施設の老朽化という問題もありましたが、そもそも、介護、障害、子育てなどの福祉行政の“縦割り”をなくせばもっとよくなるという考えでした。そこで、福祉の横連携を図り、多世代が共生できるインクルージョン施設をつくろうという構想が始まったのです」。

しかし、複合型の福祉施設をつくるとなるとプロジェクトの規模も大きくなる。そこで、官民連携を積極的に進めるという同市の方針を踏まえ、公募型のプロポーザルを実施。「市が所有する用地に複数施設を統合することを前提として、後は自由なアイデアを募ることにしました」。平成30年に募集を開始し、最優秀提案となったのが、公園を併設して地域との交流を生むというアイデア。同市社会福祉協議会(以下、社協)と、官民連携事業に強みをもつ「大和リース」による共同提案だった。

提案内容には、公園エリア内に地域住民が自由に出入りできる交流スペースとショップをつくるといった案も盛り込まれていた。「どんな施設ができるのか、ワクワクするような内容でした。このようなアイデアは、行政だけでは考え出しづらいものです」。こうして、社協と同社、そして同市の3者で事業を進めていくことが決定した。

庁内でも施設でも縦割りを取り払い、事業者とは“対等な関係性”を築く。

同市はすぐに両者との連携体制を構築。定期的に3者協議の場を設け議論を交わしたが、ここで心がけていたことがあったと語る。「民設民営の施設となるので、市が意見を出しすぎてもいけないし、全てお任せでもいけません。3者は共同体であり、対等な関係だということを意識しました」。そうした場面で、コーディネート役として進行・調整を務めたのが同社だったという。「官民連携の経験が豊富で、福祉関連施設のノウハウももっていたので、とても助かりました」。

庁内では福祉総務課がプロジェクトを主導しつつ、同時に各部署との調整も進めていった。この施設では福祉の提供対象が複数である上、公園も併設するため、関連部署もおのずと多岐にわたる。「例えば、公園の利用者が敷地内で事故に遭ったら誰がどう対処するのか、といった話も出ました。そうした問いが出てくるたびに議論を交わし、適宜解決していきました」。施設の縦割りをなくすことは、同時に庁内の縦割りをなくすことでもある。粘り強くコミュニケーションを重ね、合意形成を積み重ねていったという。

また、施設建設には補助金も活用したが、事業主となる社協には補助金申請に関する十分なノウハウがなかったため、市の職員がそのサポートを行った。さらに、補助金は年度単位になるため、工事を年度内に完了しなければならないという問題もあった。これは同社が設計から施工までを担う“デザインビルド方式”で進めることで、通常よりもかなり工期を短縮できたという。

 

桑名市 官民連携の心構え ー5カ条ー

1. 固定概念にとらわれない
2. 民間ノウハウを最大限活かす
3. 提案・対話は断らない
4. 提案事業者を大切にする
5. 行政と民間の壁を壊す

民間提案の受け入れ姿勢を設定したことで成功事例が増え、庁内全体にもこの考え方が浸透しつつある。

手探りの挑戦から誕生した、前例のない多世代共生施設。

このように、いくつもの壁を3者が協力して乗り越え、桑名福祉ヴィレッジが完成。以前よりも機能を強化した児童発達支援センターと保育所、母子生活支援施設、養護老人ホームなどを統合し、令和4年4月にオープンした。

実際に運営を始めると、予想以上によい流れが生まれてきたという。現場のスタッフからは“高齢者が子どもたちの姿を見て、元気をもらえている”“地域住民が好意的に接してくれている”といった声が上がっている。新井さんは「各施設が孤立しないよう、互いの気配が感じられるつくりになっていることが、安心感を生んでいると思います」と分析する。

また、スタッフのサポート体制にもポジティブな効果があらわれているようだ。「スタッフの事務所は、通所系・入所系それぞれ1部屋ずつとなっています。保育所と児童発達支援センターのスタッフが気軽に相談し合うなど、リアルな横連携ができているようです」。子どもを預ける利用者からも“以前よりサービスが充実してありがたい”と好評だ。

福祉施設だけでなく、併設された交流スペース「ヴィレッジセンター」や、食品・雑貨などを販売するショップもにぎわっているという。ヴィレッジセンターは地域のサークル活動などでも活用されている。また、子どもを施設へ預けた後に保護者同士が情報交換をしたり、最近では子どもたちがグループで宿題をしたりといった姿が見られるそうだ。「近隣の小学校では、お金の使い方を学ぶ授業でショップが利用されていると聞きました。安心・安全な施設として定着しているのはとてもうれしいですね」。

他自治体にも知見を共有しつつ、今後も桑名流の連携は続く。

現在、開所から1年半が過ぎ、隣接する公園は市民の憩いの場となっている。単なる複合化を超えた機能を提供する同施設には他自治体からの視察も多く、積極的に受け入れているそうだ。視察時には多くの質問が飛び交うが、「この施設は、あくまでも当市の地域性に合わせてつくった施設です」と説明しているという。「複合型福祉施設として参考になる点はぜひ役立てつつ、その上で、各市町村に合ったカスタマイズをしていただければと思います」。

官民連携をうまく進めていくためには「口出ししすぎず、丸投げにもせず、目指す目的に立ち返り、共有することが大切です」と新井さん。そうした関係性を意識しつつ、互いの強みを惜しみなく出し合うことで取り組みは成功に向かうという。「官民連携と聞くと、本来は行政がやるべきことを民間に外注しているというネガティブなイメージを抱く人もいますが、そうではないと思います。職員が本来やるべきことに集中するためのBPOであり、民間のアイデアを取り入れる絶好のチャンスでもあるのです」。

自治体と事業者がコンセプトを共有し、絶妙なバランスを保ちながら、行政、施設の縦割りをなくして誕生した桑名福祉ヴィレッジ。地域の福祉連携を高めるこのような取り組みが、今後は全国でも生まれてくるかもしれない。

保健福祉部 福祉総務課
課長
新井 崇史(あらい たかし)さん

 

桑名福祉ヴィレッジの施設概要

 

■ 地域との交流を生む

ヴィレッジ公園・芝生広場

公園が隣接することで、地域住民も施設を身近に感じることができる。施設利用者との交流も生まれ、多様な人々が共生する空間となっている。

ヴィレッジセンター・ショップ

ヴィレッジセンターの1階には誰もが自由に出入りできるラウンジ、2階には会議室がある。ショップでは飲食物や雑貨を販売中。

 

■ 分野や世代を超えて地域の福祉に対応する

分野を超えた連携

異なる施設のスタッフ同士が知見を交換したり、養護老人ホームの厨房で調理した食事を母子生活支援施設に提供したりと、施設が一体化したメリットを、サービス全体に活かしている。

世代を超えたつながり

養護老人ホームの食堂からは保育所の遊戯室の様子が見えるため、高齢者にもよい刺激となる。

スタッフルームを一体化

通所系、入所系のスタッフルームをそれぞれ1部屋にまとめ、職場を越えて相談し合える環境をつくる。

見通しの利く外構

敷地の外構には視界を遮る塀などを設けず、開放感のあるフェンスで囲み、地域との一体感を生む。

 

企業担当者の声

大和リース 東京本店
規格建築事業統括 事業部長
立花 弘治さん

自治体の本気に応えたい

当社には官民連携に積極的な風土があります。中でも民間提案制度は、私たちの創意工夫を活かせる点が魅力です。当事業では広い部署にわたる横連携が必要となりましたが、福祉総務課の担当職員が各部署をまとめてくれたおかげで施設を完成させることができました。また、庁内の縦割りだけでなく、行政と民間の壁も取り払ってくれたので、私たちも対等な立場で発言でき、当社の提案を元にプロジェクトを進められたというのも大きいです。

福祉では“理想”が大切ですが、理想ばかりでは経営が厳しくなります。そのバランスをとるという面で、民間の経営的視点も活かしていただければと思います。

お問い合わせ

サービス提供元企業:大和リース株式会社

規格建築事業部 事業統括部

TEL:06-6942-8065
Email:sakaue@daiwalease.jp
大阪府大阪市中央区農人橋2-1-36
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