地域アプリの創出に向けてデータ連携基盤を構築
デジタル田園都市国家構想交付金“デジタル実装タイプ”のTYPE2として、国が推奨する「データ連携基盤※1」。まちの未来をつくる重要施策だが、実現するのは難しい。そこで、先行して取り組む那須塩原市に話を聞いた。
※1 データをやりとりするシステム基盤
※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]三菱商事株式会社
那須塩原市
企画部 デジタル推進課
左:課長 村松 一紀(むらまつ かずき)さん
右:主査 笹沼 昂史(ささぬま たかし)さん
持続可能なまちへの第一歩としてデータ連携基盤の構築に挑戦する。
デジタル庁が、スマートシティの実現に向けて推奨するデータ連携基盤。様々な地域課題を解決する施策としても注目される。しかし、「当市が取り組む理由は、住民に選ばれる“持続可能な那須塩原市”を実現するためです。その第一歩がデータ連携基盤でした」と、村松さん。令和4年8月、DXとEX※2の一体的な推進を掲げる「三菱商事」と連携協定を締結し、デジタル技術の活用による“地域創生”の道を歩みはじめた。
「この分野に幅広い知見をもつ三菱商事とともに事業計画を策定したことで、令和5年のデジ田交付金のTYPE2に見事採択されました。現在はデータ連携基盤の構築と、それに接続するアプリの開発に取り組んでいます」と話す。
自治体のICTサービスは、それぞれ異なるシステムで提供されることが多い。しかし、データ連携基盤なら、それらを集約して提供できる。そのため、サービスごとに毎回システムを構築する必要がなく、笹沼さんは「初期投資の金額は大きくなりますが、長期的に見ると、かえって安価に抑えることができると期待しています」と話す。また、利用者である住民からすると、1つのID・パスワードで各アプリにログインでき、利便性が向上する。
さらに、データ連携基盤の最大のメリットともいえるのが、各アプリの活用データが基盤にまとめて蓄積されていくこと。活用が進むほど、膨大なデータが蓄積され、利活用できるようになる。笹沼さんも、「一番の魅力は、年齢や性別だけではなく、趣味や嗜好、行動パターンなどにもとづいて、個人に最適化された情報やサービスを届けられるようになることです」という。
※2 EX=Energy Transformation(エネルギー分野における変革)
秋の実装に向けて基盤を構築し4つのアプリの開発を急ぐ。
データ連携基盤では、アプリの提供に必要なデータと、アプリ自体をそれぞれAPIで基盤に連携(上図参照)。前者はデータアセットと呼ばれ、同市では今のところ自治体保有のデータのみを使用するが、各種オープンデータを活用することも可能という。
開発中のアプリは、住民に情報を配信する「地域ポータル」、観光客に観光情報やクーポンを配信する「デジタル観光パスポート」、子育て関連の情報を一元化する「電子母子手帳」、そして環境配慮行動にポイントを付与する「エコポイント」の4つで、今年10月中のリリースを目指している。
デジタル推進課が中心となって進めているものの、所管課が複数にわたるため、庁内の調整にも工夫が必要になるという。「効率的に進めるため、担当者同士で話し合うボトムアップと、幹部層から認識一致を図るトップダウンの両方で進めています」と笹沼さん。
11月よりデータ連携基盤と4つのアプリの接続が順次完了する予定だが、これほどスピーディに進展している背景には、同社の熱心な協業体制があるという。
「オンラインミーティングのほか、月に1~2回ほど当市に足を運んでくれています。職員向けの勉強会を開いたり、住民の声を聞く会を開いたり。また、実際にアプリを運用する所管課と、DXをどう進めるべきかについて、直接やりとりしてくれています。難しい事業ですが、技術的なことなども丁寧に説明してくれることで、職員の理解も進んでいるようです」と、村松さんは話す。
専門性の高い分野だからこそ民間事業者のサポートがカギ。
同市では、データ連携基盤の構築と、4つのアプリ開発事業で交付金を取得した。おかげでDX推進計画は順調に進んでいるが、「最初は“データ連携基盤とは何か”“構築したら何ができるのか”というところから三菱商事に教えてもらい、ようやくここまできました。うまくイメージできず、漠然とした要望を伝えた場合も、こちらの意図をしっかり汲み取って具体化してくれます。交付金の申請書類も、オンラインをつないで一緒につくっていった感じです」と笹沼さん。同社と二人三脚で進めているという。
「そもそも当市のDXは、住民に“住みたい・住みつづけたい”と感じてもらうことが目的です。そのためデータ連携基盤に関係することもしないことも、できることは全てやっていくつもりです。スマートシティのためではなく、目の前のDXに取り組みつづけた結果、スマートシティになっているのが理想ですね」と、村松さんは語ってくれた。
予算情報
総事業費:約2億7,500万円
データ連携基盤の構築費ほか、4つのアプリ開発費を含む。
那須塩原市が開発を進めるアプリと連携イメージ
令和5年、「データ連携基盤を活用した“ファミリー層が住みやすいまちづくり”の創出」事業として、デジ田交付金に採択された同市。それに伴って実装を進める「地域ポータル」と「デジタル観光パスポート」について紹介する。
住民と地域コミュニティをつなぐ情報配信アプリ
■地域コミュニティへの参加を促す
住民への情報の配信や管理を一元的に行うアプリ・地域ポータル。地域のイベントをカレンダー表示するほか、気になる情報などはタスクで管理できる。基盤に接続するため、蓄積されたデータと照らし合わせて、個人に最適な情報を届けられる。
■まずは子育て世帯で実証実験
■ 概要
学校と保護者をつなぐ連絡ツールとして活用。保護者にアプリをインストールしてもらい、学校・学年・部活ごとに連絡事項などを配信する。
■ アプリの機能
学校行事や書類提出のタスクが、カレンダーなどに自動で反映される。出欠の連絡や、保護者へのアンケート機能も搭載している。
■ 成果
平均して1週間に13.8通の連絡事項をアプリで配信。既読・未読を判別できるため、保護者へのフォローがしやすくなったという。
■ 今後の展望
市内にある全ての公立小・中学校に導入を検討中。また、市内全世帯への普及を目指し、今後は学校以外に自治会などにも活用を促す予定だ。
■ゆくゆくは行政手続きもアプリに
今後は、同市が発信する情報を全て入手できるアプリを目指していくという。さらに、今はまだ構想段階だが、将来的には各種申請などの行政手続きも行える“スーパーアプリ”に発展させたいと考えているそうだ。
実証実験のサポートも文句なし
三菱商事の担当者が学校に出向いて、保護者や先生に使い方を説明。そこで出た要望などにも、「いつまでに修正します」「こうしたらできます」と、対応がスムーズです。
村松さん
地域の魅力を詰め込んだ観光パスポート
■観光客の心強い味方に
観光客は、LI NEで友達申請するだけで、観光情報の入手はもちろん、エリアマップからの店舗検索、地域内店舗のクーポン取得、特産品が並ぶECサイトへのアクセスなどが容易になる。また、ラーメン図鑑など、まちの魅力も満載。今後は、市の公式SNSと連携することで、災害時の交通規制情報なども配信していく予定だ。
当市の知られざる名物も!
当市は知られざるラーメン激戦区。そういう地元ならではの情報を発信できるのも良いですね。
笹沼さん
まちづくりで“地域創生”を目指す、三菱商事の取り組み
データ連携基盤担当者の声
三菱商事 電力・地域コミュニティDX部
近藤 要(こんどう かなめ)さん
自治体サービスの“今”と“未来”に貢献
スマートシティなど、これからの都市サービスに欠かせないデータ連携基盤。現状の課題解決をはじめ、個別に提供されている自治体サービスをシームレスにつなぐなど、各サービスの付加価値向上にも有益です。プライバシーを守りながら住民一人ひとりを識別し、必要なサービスを必要なとき、必要な人に届けることで、サービスの提供価値と住民の利便性向上を目指しています。
当社では、基盤の構築をはじめ、地域課題の抽出や、基盤に接続するアプリやサービスの開発など、プロジェクト全般をサポート。“便利で活気のある自律分散型コミュニティ”の創造を掲げ、地域住民のため、自治体や各事業者と連携・推進しています。
地域ポータル担当者の声
三菱商事 電力・地域コミュニティDX部
坂上 聡(さかがみ さとし)さん
実際に利用する人に寄り添いサポートする
当社の強みは、基盤の構築だけではなく、地域住民や観光客が利用できるアプリやサービスを提供していること。那須塩原市が導入する「地域ポータル」と「デジタル観光パスポート」は、当社が責任もって開発・提供するサービスです。地域ポータルの実証実験では、私が学校に行って、実際に現場で使ってくれる教頭先生や保護者に直接、説明し、質問や要望を受け付けました。
サービスは実装して終わりではなく、使いつづけてもらうために、常に改善が必要です。実装に至るまではもちろん、“住民に使い勝手の良いものになっているか”“住民ニーズの変化に対応できているか”など、実装した後もしっかりサポートしていきます。
東京都狛江市×福島県矢吹町
「低コストで運用できる、小規模自治体向けのデータ連携基盤モデル」はこちら
お問い合わせ
サービス提供元企業:三菱商事株式会社
東京都千代田区丸の内2-6-1
丸の内パークビルディング27F
データ連携基盤
TEL:070-8788-3667(担当:近藤)
E-mail:
ml.pj.data-platform@mitsubishicorp.com
地域ポータル
TEL:070-3875-2829(担当:坂上)
E-mail:
ml.pj.hometown-portal1@org.mitsubishicorp.com
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