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徳島県神山町

公開日:2023-10-16

高齢者が積極的に活用!地域アプリと対話でデジタル格差を埋める。

福祉・医療
読了まで:4分
高齢者が積極的に活用!地域アプリと対話でデジタル格差を埋める。

山間部が抱える課題の包括的な解決を目指す地域アプリ

地方創生の好事例として全国から注目を集める神山町。先進的な取り組みを続けてきた同町で、ICTを活用した新たなサービスがスタートしたという。高齢化に悩む自治体がDXを推進するためのヒントを探る。

※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

デジタル化を見越した先行投資で限界集落から地方創生の聖地に。

一時は消滅可能性都市として名前が挙げられるほどに人口減少が加速していた同町。しかし令和5年現在、複数の企業がサテライトオフィスを構え、若年層の移住も増加している。さらに国内で19年ぶりとなる高専が町内に開校するなど、地方創生の先駆者としても有名だ。もともとは少子高齢化に対する手だてはなかったというが、その状況を変える最初の一手となったのは、平成16年度に実施した光ファイバーの敷設事業だった。

「若年層の住民が転出する状況を食い止めるには、インターネット網の整備は必須でした。しかし、当時は通信会社に問い合わせても、ADSLを通すのは採算が取れないと断られるほどの限界集落。結局、地デジ移行を見越して、なるべく安く町民がネットとテレビを利用できるように、光ファイバー敷設を行いました。それが結果的に情報を外に向けて発信できる土台になったのです」。

その後、空き家情報などを発信する過程で企業のオフィス開設が活性化。スキルをもった人材の移住につながるなど、ポジティブな連鎖を生むことになる。それでも山間部では高齢化率が高く、課題は山積みだった。特に、近年の課題は公共交通だ。高齢者の移動手段である町営バスは乗車率の低さから運行を終了し、民間のタクシー会社との連携で、町民がアプリを使って気軽にタクシーを利用できる制度をつくりあげることになった。

手軽で便利なサービスであれば高齢者にもデジタルは受け入れられる。

町営バス廃止により導入されたタクシー予約アプリ「さあ・くる」は、公共交通の課題だけでなく、高齢化社会のデジタル格差やまちの情報発信手段など複数の課題を包括的に解消することを目指して展開されたという。令和5年現在、高齢化率約53%の同町において、アプリが受け入れられない懸念はなかったのか。杼谷さんは「高齢者だからデジタル機器は使えないと安易に決めつけるのは良くない。使いやすく便利なものであれば受け入れられるはずだと判断しました」と胸を張る。

アプリをタクシー予約だけでなく、ごみの日の案内など回覧板的な役割も果たす情報発信の場にすることで、日常的に触れられるものとした。そのほか、60歳以上の高齢者がいる世帯にタブレット端末に加えスマートスピーカーを無償貸与し、高齢者でも簡単に操作できる環境を整えた。「タブレット講習会を定期的に開催し、いつでもデジタル機器について相談できる窓口“神山ラボ”も設置しました。機器の配布が目的ではなく、デジタルを浸透させ、5年後、10年後の格差をなくしていくことが大切だと考えます」。

このように、同町の先進的な取り組みでは、住民との密な情報共有と対話が欠かさず行われている。小さなまちだからこそ距離の近さが重要だと話す杼谷さん。“昔からの住民がまちの新たな動きを把握できていない”という状況を改善すべく、「まちを将来世代につなぐプロジェクト」の一環で、町民・町内バスツアーを企画。まちの変化を自分事として捉えてもらうきっかけになったという。

▲講習会で1時間ほどレクチャーすると、ほとんどの高齢者がゲームを楽しめるほどに操作に慣れてくるという。

まちと住民をつなぐアプリ「さあ・くる」

信頼関係を武器に、より便利な神山町を実現していきたい。

アプリでは、現在タクシー予約や地域情報掲載のほか、動画での情報発信にも力を入れている。今後はさらに内容を充実させ、地域に関わる人々が登場する動画も定期的にアップする予定だ。「この先、高齢化が進むと、回覧板が機能しなくなる可能性も高まります。だからこそ、早い段階で情報共有の手段をデジタル化することは必須だと考えています。文字情報も高齢になると読むのが難しくなるので、動画視聴でまちの動きを知ることに慣れておいて損はない。新しい動きについていけず、まちへの愛着が薄くなるという連鎖は生みたくありません。私自身も住民ですから、暮らしやすい便利なまちになってほしいという気持ちは同じなのです」。

かつての光ファイバー敷設事業により、図らずも8割を超える世帯でネット環境が整っているという状況を活かし、利便性と豊かさを追求する同町。密で丁寧な対話を続けてきた結果、“タクシー手配や情報収集が便利になった”と多くの住民から喜びの声が聞かれ、デジタル格差解消に向けた手応えは十分だという。

住民と向き合い築いてきた強固な信頼関係が、新たな取り組みを浸透させ、定着させる文化の源となっているのだろう。デジタル田園都市国家構想が目指す、地方のあり方を先取りしつづける同町に、今後も注目したい。

地方創生のカギとなるプロジェクト


神山町
総務課 課長補佐
杼谷 学(とちたに まなぶ)さん

予算情報

総事業費 約1億9,738万円
デジタル田園都市国家構想交付金TYPE1採択。アプリ開発などに活用。

 

 

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高齢福祉
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