ジチタイワークス

群馬県前橋市

マイナンバーカード活用で移動困難者を救え!「マイタク」事業における前橋市の挑戦

超高齢化が進み、国内の65才以上人口が3割に迫ろうとする現在、地域で解決すべき課題の一つが移動困難者への対応だ。前橋市ではタクシー利用補助とマイナンバーカードの活用でこの問題に向き合い、総務省「ICT地域活性化大賞2019」では奨励賞を受賞。

具体的な取り組み内容を、同市政策部 交通政策課の櫻井 亮輔さんに聞いた。

※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.8(2019年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 群馬県前橋市

運用開始後に表面化した問題

群馬県中南部に位置する前橋市は人口約33万。そのうち65才以上が約28%を占めており、他の地方自治体と同様、高齢者を中心とした移動困難者の支援に悩んでいた。これに対し市長が掲げたのが、「200円で市内全域をまわれる仕組みを作る」という公約だった。どうすれば実現できるか検討を重ねた結果生み出されたのが「マイタク」制度だった。

マイタクは、移動困難者のタクシー利用を市が補助する制度だ。他の交通手段ではなくタクシーに焦点を当てた理由を、櫻井さんはこう語る。「移動困難者が求めているのは、できるだけ歩行を減らしドアツードアで目的地に到着すること。これを実現するにはタクシーが最適です」。

マイタクは平成28(2016)年1月から運用を開始した。利用条件は、①75才以上の人②65才以上の運転免許非保有者③障がい者・要介護者・妊産婦など④運転免許証を自主返納した人のいずれかに該当し、申請・登録をした市民。登録者が一人でタクシーに乗車した場合は運賃の半額(上限1,000円)、複数人で乗車した場合は一人あたり最大500円が補助される。

利用の際は市から発行された利用登録証を提示し、降車時に利用券及び運賃と補助額との差額を運転手に渡す。タクシー会社はマイタク利用分を市に申請し補助金が支給される、という流れだ。この制度は好評を得て、利用登録者は2万人を超えた。しかし、課題も表面化した。職員や事業者にかかる負担だ。

マイタク制度では、利用券を職員が1枚ずつデータと照合する必要があった。また、タクシー会社では申請事務で利用券のデータ入力作業が発生していた。つまり、利用者の数に比例して現場の負担も増える。この折、交付が始まったばかりのマイナンバーカードの利活用策が課題となっていた。そこで、内部からもカードをマイタクに活かせないかという声があがり、前橋市はすぐに導入に向けて動いた。

「便利」と「低コスト」の両立を目指して

公共交通へのマイナンバーカード活用は全国でも前例がなかったが、マイタクのシステム改修は急ピッチで進められ平成29(2017)年12月から3カ月にわたる実証実験を経て、平成30(2018)年5月から運用が始まった。カード利用を希望する住民は、市にカードを持参してマイタク登録の処理をしてもらう。利用の際は乗車時にカードでのマイタク利用を伝え、運転手は市から貸与されたタブレットでカードを読み取る、という手順だ。読み取り用タブレットは約400台配布したが、高齢の運転手からは「今まで触ったことがない」という声も上がった。これに対し市は、使い方に関する説明を重ねていった。不安の声は次第に「お客様とのやりとりが早く済むようになった」という声に変わっていったという。

住民の反応も「外出する機会が増えた」、「カードなら財布の中もすっきりする」と良好で、運用開始後のアンケートでは、利用者の86%、ドライバーの63%が「便利だ」と回答。タクシー会社も60%が「データ処理の作業時間が短縮された」と回答した。さらに前橋市でも、紙の利用券では1人あたり224円かかっていた印刷・郵送費が削減され、利用券のチェック作業も不要。今後の目標は、カード登録者を増やしていくことだ。平成31(2019)年3月時点で、カードでの登録率は約14%。これを引き上げるため、通常120回の年間利用上限をカード登録では150回に増やしてメリットを謳っている。

他にも同市では、母子健康情報の提供や地域経済応援ポイント制度にもマイナンバーカードを活用しており、将来的には健康保険証としても利用可能になる予定だ。櫻井さんは一連の施策について「財政的な負担はありますが、マイタクが活発に利用され、移動困難者が外に出る機会が増えれば、地域経済にも良い効果があるはず。これらを総合的に考えつつ、カード登録者を増やし、コストダウンを進めていく予定です」と語ってくれた。

How To

01 住民のメリットを分かりやすく提示

住民を動かすには動機づけが欠かせない。マイナンバーカードを利用すれば、利用登録証+利用券の持ち歩きが不要になる。また、乗車時の手続きが簡単になるだけでなく、利用上限の120回が150回に増える。このような点をアピールして登録を促していく。

02 事業者への懇切丁寧な説明

新しいことに対して反発や抵抗はつきもの。使い慣れないタブレットに対して抵抗感を示す運転手には、システム保守担当事業者と共同でのオリエンテーションを繰り返し実施。運転手自身の負担が軽減されること、地域に貢献できることなども伝えて協力を求める。

03 ICTの積極活用

利用結果の入力や紙とデータの照合など、時間のかかる手作業のうち、機械で処理可能なものはできるだけ機械に任せる。最初の導入にはある程度の負荷がかかるが、長期的にみるとコストや人的工数におけるメリットは大きくなる。

04 他の施策とのリンクによる訴求

例えば妊産婦は、マイナンバーカードでマイタクが利用でき、母子健康情報も提供してもらえるなど、複数の施策でサービスを受けられる仕組みを作る。案件単体ではなく、他の施策とのリンクで「使ってみよう」というモチベーションを高める工夫をする。

Results

自由な発想が既存の仕組みをさらに便利にする

マイナンバーの使用については法律で厳しく制限されていますが、一方でマイナンバーカードに掲載された電子証明書等の活用については、自由な発想のもと、官民問わず、特に制限なく使うことが推奨されています。まずは使い道を充実させること、これが住民へのサービス充実はもちろん、カード普及にとっても大事なことだと考えています。


(前橋市政策部 交通政策課 櫻井 亮輔さん)
 

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