ジチタイワークス

熊本県小国町

オーバーツーリズムを解消する予約制導入で、住民と観光客の満足度向上へ。

多くの人が訪れる自然豊かな観光地での事前予約制導入

観光客が過剰に押し寄せることで起こるオーバーツーリズム。地域住民の生活環境悪化、観光客の満足度低下など多くの問題がある。小国町は解決策として、人気観光地への予約制導入に踏み切ったという。

※下記はジチタイワークスVol.27(2023年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

観光地でありつづけるため予約制で規制を設けることに。

同町の観光資源である鍋ヶ滝公園は、CMのロケ地になったことがきっかけで、年間約24万人が訪れる人気の観光名所となった。「それまでは地元の人しか知らないような滝でしたが、階段をつくって歩きやすくするなど、公園内を整備していくと、観光客がさらに増えていきました」と当時を振り返る橋本さん。一方で滝周辺は人であふれ、写真も撮れないような状況に。大型連休やライトアップ期間中は周辺道路で大渋滞が発生し、地域住民の生活にも支障が出るなど、深刻な問題になっていたそうだ。

その対策として、平成27年から近隣の小学校跡地を駐車場にし、現地までシャトルバスで送迎を行っていたが、新型コロナ感染症対策のため運行中止に。その結果、大型連休中は休園することになり、令和2年の観光客は年間約9万人にまで減少してしまったという。

「鍋ヶ滝公園が今後も観光地としてありつづけるためには、オーバーツーリズムの解消が必要でした。地域住民の生活環境が保たれ、観光客が安心して快適に観光できるように、受け入れ体制を整える必要がありました」と新家さんは話す。そこで町長の発案により、事前予約制の導入に踏み切ることになった。

県内外へ広報するとともに反対意見にも根気強く対応。

「最も心配だったのは、いかに混乱なく予約制に切り替えていくかでした」と橋本さん。観光客には新聞広告やデジタルサイネージ、WEBなど様々な媒体で告知。特に来園者の多い福岡県でも情報発信したという。また、観光当日でも情報を得られるよう、町内の道路に案内看板を設置し、宿泊施設や飲食店などにもチラシやポスターを配布。問い合わせ対応のためコールセンターも設置した。

その一方で、予約制の導入には、周辺の飲食店や観光施設からの反対意見もあったという。それらの意見は、“公園は気軽に立ち寄れる場所であるべきだ”という考えや、“観光客が減るのではないか”という不安から出たもの。「担当職員が直接説明を行い、根気強く進めていきました。オーバーツーリズムと新型コロナ感染症対策という2つの論点から話をしたことで、皆さんに納得していただくことができました」。

予約システムについては、民間企業とともに模索しながら、来園者の滞在時間や車1台当たりの乗車人数などを予測して構築。発案の約1年後、令和3年11月から事前予約制を開始し、令和4年には年間約16万人もが訪れたという。また、高齢者やWEBの利用が不慣れな観光客のために、観光協会の窓口でも予約できるようにするなど、導入後も改善を続けている。

鍋ヶ滝入園口には誘導のため看板が設置されている。

地域住民と観光客の双方が満足する結果へと結びついた。

「今年の5月の連休には8,000人を超える来園があり、スムーズに運用できたと感じています」と橋本さん。また、観光客からは“子連れでも安全に散策できた” “ゆっくりと写真が撮れた”とのうれしい声が。地域住民からも“渋滞が緩和されて良かった”との声が聞かれたという。令和4年には、こうした鍋ヶ滝公園の混雑対策に関する取り組みが国際的に認められ、“世界の持続可能な観光地TOP100選2022”に選出された。

オーバーツーリズムを解消するためには、住民との関係性を普段から築くことが大切だと新家さんは話す。「地域住民が“観光地”として受け入れてくれるか、どれだけ理解して協力してくれるかが重要なポイントになります。しかし、全ての意見を反映しようとすると何もできなくなってしまうため、思い切って行動に移す勇気も必要です」。今後、交通渋滞緩和に向けたバイパス建設工事も控え、予約上限数の再検討や平日の誘客という課題も残る同町。「予約システムの導入により、来園者の行動形態が数値化されます。そのデータを今後の誘客や、小国町全体に長く滞在できるしかけづくりに活かしたいと思います」。持続可能な観光地であるために、誘客とオーバーツーリズムの双方をバランス良く考えていく必要があるだろう。

小国町 情報課 商工観光係
右:係長
新家 龍太郎(しんや りゅうたろう)さん
左:主事
橋本 知明(はしもと ちあき)さん

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