ジチタイワークス

福島県伊達市

「トヨタ生産方式」で業務効率をアップ

「働き方改革」が叫ばれている今日この頃、皆さんはどのように日頃の業務に向かわれてますか?自治体の業務というと、書類の煩雑さやシステムの複雑さによってどうしても無駄が多くなりがちです。

そこで今回は「トヨタ生産方式」で業務効率を改善している福島県伊達市の事例をご紹介します。

※下記はジチタイワークスVol.1(2017年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 福島県伊達市

5町の対等合併

伊達市は平成18年に伊達町、梁川町、保原町、霊山町、月舘町の5町が合併によって誕生。当時より各町の異なる行政手法が擦り合わされてこなかったために、事務の不効率が課題とされていました。さらに合併に伴う交付税の特例措置が平成28年から段階的に削減され、平成33年度には総額14.1億円の減額が見込まれている状況です。

このような厳しい状況下にあっても持続可能な行政経営を目指すため、早急に事務の不効率を是正し、原価を抑え歳出を切り詰めていく仕組みが必要とされていました。

ただし、従来の行政手法を踏襲するだけでは抜本的な解決は望めない。そこで注目されたのが、既に多くの民間企業で導入され成果を上げ続けていた「トヨタ生産方式」です。

しかし「トヨタ生産方式」は本来であれば工場などの生産現場で活用されている手法です。そのため導入にあたって「本当に業務効率が上がる?」「そもそも市役所に馴染むのか?」「付加価値を生まない作業は全てムダって言われても・・」など、戸惑いの声が上がりました。

そこで、JR東日本時代に工場長という立場でトヨタ生産方式を現場に導入し、その効果を直接肌で感じてきた仁志田昇司市長の強力なリーダーシップが重要な牽引力を果たしました。

取り組んだこと

3Sと5T

はじめに取り組んだことは3S(整理・整頓・清掃)と5T(定位・定品・定量・定路・定色)に基づいた業務改善です。「形跡管理」と言われる基本に則り、「あるべき位置に、あるべき物が、あるべき数量を常に確保できる仕組み」を心がけていきます。

デスクの中の文房具は型枠を使って整理整頓。


3S5Tの「定位・定品」での改善事例。もとに戻す仕組みが、探す無駄を減らした。

共用物を置く場所も全てラベルで管理します。

見える化

全41課120係の業務を洗い出します。洗い出された内容はPQ分析パレート図といわれる手法によって業務時間の多い順に並べ替えを行い、その後業務時間の多いものから優先的に作業手順書の作成を進めました。

そうやって整理された業務内容に対して、今度はスキルの見える化を実施。いつまでにどこまでのスキル習得を目指すかを明確にすることで、自治体ならではの人事異動にも耐え得るスキル体制を構築しました。

委託業務の時期ズレや企画部門でのプロジェクト進行具合を、各メンバーが正確に把握する業務進捗を見える化しました。

成果

この取り組みによって挙げられた成果を一部ご紹介します。

生産性の向上

①作業改善や委託業務の見直しや進捗管理の徹底などにより、2015年度には人件費を含め約5500万円(理論値)の削減効果があった。

②健康推進課で最も業務量の多かった「がん検診業務」は年間1126時間の圧縮に成功。この時間を市民の血圧指導などに振り分けた。その結果、他の事業との相乗効果もあって、一人当たりの医療費を押し下げることに成功した。

コスト削減

全庁での1S(整理)実施後、必要以上に保管していた多数の余剰品を再利用した結果、138,882円の歳出削減が図られた。

窓口の待ち時間を削減

市民担当窓口では、住民票の作業件数が最も多い。そこで職場の実測や歩数・時間測定等、業務の動きを科学的に分析。窓口の端末とプリンターのレイアウトを改善し、一件あたりの処理時間を短縮することに成功した。

知識を全庁内で共有

各部署で不要になった書籍等を集約し、庁内に図書館を開設。

職場環境の美化

書類を重ねない、キャビネットの上や机の脇にモノを置かない等を徹底。職場が綺麗になり、モノを探す時間が減少した。

ポイント

担当者いわく、一番の効果は職員の意識が変わりつつあること。企業であれば継続的な原価低減を実施し収益を上げ続けなければ倒産してしまうという危機感を常に抱いています。しかし、行政にはそういった危機意識は生まれにくい。この意識の差こそが市役所に改善活動が根付かない最大の要因であり、この意識を変革することが必要でした。

そのためには、勘と経験ではなくデータを用いた裏付けある改善をすること。優れた事例は毎月、市長・副市長・教育長をはじめ全幹部職員が集まる発表会で横展開を促進するなど、導入に向けた当事者の方々の並々ならぬ努力が伺えます。また事例発表会では、初心を忘れることが無いように「間接業務の革新十一か条」を毎回唱和しているとのこと。

その結果、これまでの前例踏襲的な考え方から「そもそもこの業務は必要か?無駄はないか?何か改善ができないか?」と考えることが広まっていったそうです。

まとめ

いかがでしょうか?

トヨタ生産方式は、効率化だけを目的に進めると失敗すると言われます。それは、トヨタ式の根底にあるのは「人間尊重」だからです。

無駄な働きを人にさせない思想・哲学。職員が互いに信じあい、尊重する気持ちがないと「何のためにこの地味な作業をやり続けるのか?」と疑念が生まれます。新人や嘱託の方なら単純作業が当たり前、なんて以ての外ですね。

どこにでもある課題を解決させるのは、誰にでもできる努力の積み重ねだなと思いました。

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