佐賀県では2016年に株式会社ホープの提供するサービス「観光動態調査レポート」を使って、観光客についてのビッグデータを取得した。
このレポートでは携帯電話の位置情報を利用して観光客の動きを調査・分析。性別や年齢層、交通手段、流入経路、時間帯別の移動軌跡まで、ターゲットの動向を事細かに掴むことができる。
※下記はジチタイワークスVol.1(2017年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
カンと違う結果が出たデータ
導入のきっかけは、観光客目線のマーケティングの必要性だ。県内外、海外から年間約300万人の観光客が宿泊しているものの、どこにどのような客層が訪れているのか、何が目的なのかデータとしては把握していない。試しに一つの自治体を訪れる観光客の動向を調査すると、それまでの仮説が間違っていたことがわかったという。
都市部からの客を、隣り合う市と奪い合っていると予測していたが、実際は都市部を除くと、その隣接した市からの客が最も多かった。さらに、少ないだろうと見込んでいたエリアからの客が次に多い結果が出たという。
「カンと経験にだけ頼っていてはいけない。大切なのはデータを元に施策に取り込むことです」と県の担当者は語る。データで客を分析することで体験やサービスを生かせると考えている。
市町村や観光協会の代表を招いた説明会。
住民主導で観光地を盛り上げる
また、佐賀県ではDMOの育成を支援している。DMO(DestinationManagement Organization)とは自主・自立性があり、経営感覚を持った観光地域づくりの推進主体のこと。
今まではバスで観光地をめぐる団体ツアーが多かったが、旅行は多様化して、個人で興味のある場所をピンポイントで訪れることが多い。受け入れる地域としても、ニーズに合わせた対応が必要なのだ。佐賀県ではDMOの設立を支援し、成功事例を生み出すことを目指している。
すでにいくつかの案件が動き出している。例えば、インバウンド客のほとんどが電子マネーでの決済を希望する。消費額をアップするために電子決済システムが必須だと考え、モデル事業として店舗に対しシステム導入を佐賀県が支援しているのだ。
他にも地域の資源を生かした旅行商品の検討など、レポートを地域で活躍する人たちと共有しながら地域づくりに取り組んでいる。今後はDMOを設立し、住民主体で集客・運営できる体制を整えていく。
地域経済の活性化のためまずは観光に力を注ぐ
佐賀県には都会にはないのどかな風景が広がり、伝統の祭や観光客が集中するイベントもある。それだけでなく、「おばあちゃんの家に行ったような人の温かさ」「元気にあいさつをしてくれる子どもたち」といった、新たな良さにも気づくことができたという。
「観光はあくまでも、地域を盛り上げるための手段の一つ」だと話す担当者。レポートを元に見えてきた事実は、「どのような観光戦略を進めるのか」「地域の何が魅力なのか」を地元住民が改めて認識するのに役立つと考えている。そのうえでニーズに基づいた目標をそれぞれの自治体で立てれば、観光客を呼び込み地域経済を活性化させられるはずだ。
今、手を打つことで将来の移住や定住にも結びつけたいと考えている。
佐賀県 文化・スポーツ交流局 観光課 田島祥嗣さん
まとめ
Result
○観光データをもとにした地域振興の取り組みがスタート
○県民がふるさとへの誇りを持てるような魅力の掘り起こしを進める
佐賀県は自然や伝統、祭、食べ物、人の温かさといった「ちょっと出かけたい」良さがあるところです。今後は点ではなく面での観光地域づくりが必要です。(観光課 田島祥嗣さん)
How To
01 観光客の動向を正確に把握
観光動態調査レポートでは観光客の性別、年齢層、交通手段、滞在時間、周遊ルート、宿泊地などを把握。データを地域住民や観光協会と共有すれば、観光戦略のベースになる。
02 地域全体で情報を共有
データを得た後、佐賀県では市町村や観光協会の担当者を招いて報告会を開催。依頼のあった自治体には個別で報告会を実施し追加データを収集、観光地の魅力を深掘りする。
03 新たな観光ルート、体験づくり
人気の観光地や滞在時間、滞在内容、客層をデータで把握できれば、新たな「コト消費」の提案ができる。商工会議所や民間団体と情報を共有することで地域の魅力発見にもつながる。まずは地元住民が
04 地域の宝に気づくこと
地域住民が当たり前だと思っている食べ物や街並みも、観光客の目には魅力的に映る。それらを裏打ちするデータを元に住民自身が新たなアピールポイントに気づくことが大切だ。
05 民間の取り組みを支援
データを元にした観光振興の取り組みを県が支援。その後、民間主導で運営できるようにDMOの設立を予定している。また地域で継続して観光地周遊を促す仕組みが必要だ。