地方創生において、避けられない問題の一つが事業承継だ。地元経済の活性化や雇用の創出を図るには、産業を持続させることが不可欠になる。この課題に対し、名張市は事業承継を全面的に支援するという先駆的な取り組みを進めている。
※下記はジチタイワークスINFO.(2023年5月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]名張市事業承継人材マッチング支援協議会
事業の灯を絶やさないために承継に着目し、支援を開始。
同市は関西のベッドタウンとして栄えてきたが、平成13年以降は人口が減少。企業数も平成21年からの7年間で15%減少したという。対策として、平成29年から地方創生推進交付金を活用した事業者への支援を開始。当初は創業支援が中心だったが、市内で廃業した店舗をよく目にすることに気づき、地場の事業がなくなれば雇用も失われるため、歯止めをかける必要があると考えたという。
こうした状況から、「名張市経済好循環推進協議会」を立ち上げ、事業承継サポートに注力し始めた。しかし、親族承継を主な対象としていたため、再び壁に突き当たったという。「親族承継できるケースはかなり限られており、事業承継サポートの裾野を広げる必要があると感じました」と蒲田さんは当時を振り返る。
そこで再び活動内容を見直し、令和4年7月に「名張市事業承継人材マッチング支援協議会」を設立。「Humidas(以下、フミダス)」という名前で第三者承継の支援にシフトした。また、後継者を探すにはプラットフォームの活用が有効だと考え、民間事業者の「トランビ」と協定を締結。“後継者を探している人”と“事業を継ぎたい人”をマッチングさせるプラットフォームの活用を推進しているという。
新施策に対する市の熱意を受け事業者の反応にも変化が。
フミダスでは、市が事務局として全体を統括し、協議会は企画運営などの実務を担当。事業承継の基本的なノウハウを学ぶ「承継塾」の開催や、事業承継に関わる課題解決のため事業者への個別訪問、専門家を通じた個別相談などを実施。またトランビとの連携により、プラットフォームを通じた事業承継を支援。相談窓口の開設やM&Aを活用した売り手と買い手のトークセッションも開催し、第三者承継の取り組みを後押ししている。さらに、デジタル活用が苦手な事業者に対しては、プラットフォームへの登録やSNS活用のサポートを行う、“デジタル支援員”を市民から募り、配置する予定だ。
こうした働きかけを進める中で、「事業承継へのネガティブなイメージを払しょくするには苦労がありました」と蒲田さん。「廃業の可能性を周囲に知られたくないという理由で、セミナーに出席するのもはばかられる、という意見があり、事業承継は前向きな事業活動だという発信を地道に続けています。その成果か、今では口コミも広がり、認識も少しずつ変わり始めているようです」。
事業の価値の再発見を経て目指すは地域を越えた承継!
スタートして間もない同市の取り組みだが、後継希望の問い合わせも入り始めているという。本格的な成果が出るのはまだ先と思われるが、この施策には承継のマッチングに加えて、別の目的もあると蒲田さんは明かす。「事業者さんに、自分たちの魅力に気づいてほしいんです。個々の技術や商品、サービスなどを“残すべき価値のあるもの”だと認識すれば、承継の意識もさらに高まると思います。また、親族承継以外に事業を続ける方法があることも伝えていきたいです」。
さらに、取り組みが交付金なしでも運用できる仕組みにしていきたいと展望を語る。「地域に根付いた活動になって、ほかの自治体でも同様の動きが進んでいけば、やがては地域を越えて人材のニーズを連携できるようになる。そういう未来を描いています」。
持続できる地域を目指して歩き始めた、同市の事業承継支援。息の長い支援が必要だが、10年、20年経った頃には大きな実りがもたらされるのではないだろうか。
名張市
産業部 商工経済室
蒲田 恵美(かまた えみ)さん
新たにHumidas(踏み出す)一歩でまちの伝統・技術・産業を守る!
事業承継にまつわる課題
●市内事業者が惜しまれながら廃業している
●事業者のニーズに応えるノウハウが不足
●市のネットワークだけでは限界がある
●事業を残したくても後継者が見つからない
●M&Aの専門事業者は依頼料が高額
●デジタルツールを活用するスキルが不足
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第三者事業承継を市が支援することでそれぞれの課題を解決に導く!
官民連携で進める承継支援の内容
市と協議会、民間の承継支援サービス会社が役割を分担し、事業者・後継希望者の両方をサポート。総合的かつ手厚い支援でマッチングを進める。
“承継塾”の開催で事業承継に必要な情報提供
事業者・後継希望者に向け、経営の基本や事業を発展させるプロセスなどを伝えるセミナーを開催。
事業者への個別訪問でニーズを喚起
市内事業者を訪問して現場の声に耳を傾け、困り事や廃業の予兆はないかといった情報を集める。
専門家紹介でプロの支援を提供
事業者の悩みに気づいたら、個別相談の場を提供。プロのアドバイスで解決への道筋をつくる。
デジタル支援でIT活用を促進
必要に応じて“デジタル支援員”を配置。プラットフォーム活用などのノウハウを提供する。
お問い合わせ
サービス提供元企業:名張市事業承継人材マッチング支援協議会
TEL:0595-63-2143
住所:〒518-0492 三重県名張市鴻之台1-1 名張市産業部商工経済室内
E-mail:info.humidas@nabarimie.com