ジチタイワークス

DXは地道な取り組みだからこそ、仲間を見つけ、つながり、動き続けよう。

自治体DXの推進が叫ばれる中、“取り組みがうまく進まない”と悩むDX担当者も多いことだろう。

その原因は何か、そして解決策はあるのか。自治体のITアドバイザーも務める専門家に、客観的な視点で語ってもらった。

※下記はジチタイワークス特別号(2023年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]サイボウズ株式会社

関 治之(せき はるゆき)さん
コード・フォー・ジャパン 代表理事

一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事、デジタル庁シニアエキスパート。東京都チーフデジタルサービスフェローや、神戸市チーフ・イノベーション・オフィサーなどを務め、行政アドバイザーとして多くの自治体DXを支援している。“テクノロジーで、地域をより住みやすく”をテーマに様々なコミュニティで活動中。

DX推進のつまずきに見られる“変数の不足”とは何か。

関さんはITアドバイザーとして全国で活動されていますが、自治体DX推進の現状をどう見ていますか?

率直に言って、“DXとはこう進めるものだ”という考え方はまだまだ浸透していないと感じています。もちろん、何をすべきか理解し、それぞれの場所で頑張っている人もいます。それでもうまくいかない場合はある。原因は、推進に必要な“変数”が欠けているからでしょう。

DX推進には様々な条件が必要です。例えば“トップや上司の理解”、“一緒に取り組む現場の仲間”、“機器や情報インフラ”など、これらの変数が揃わないとスムーズには進まない。そうしたことが原因で、取り組みの初期段階でつまずく人や、サイクルがうまくまわらず苦労している人が多いと感じています。

確かに、いずれかが足りない自治体は多そうです。そんな状況の中、DX推進担当者にできることは何でしょう?

不完全な状況の中でもできることは、一緒に事を進めていく現場の仲間づくりでしょう。小さな実践でいいから始めてみて、その中で現場の成功体験を積み重ねていくことが、やはり一番重要。そして、そのプロセスを仕組み化していくことがポイントになります。

仕組みに沿って誰でも取り組めるようにしておかないと、せっかくの成功事例も、個人の頑張りで終わってしまいます。自発的に業務改善を進める職員がいれば、できるだけ挑戦しやすい環境を整えて応援する。あるいはそこまでには至らなくても、何かできれば……という気持ちのある職員がその一歩を踏み出せるように後押しする。そうした人たちを庁内でつなげていく機会づくりも大切です。

プロセスの中で生まれた好事例を庁内に共有することで、上層部の理解獲得や、現場での横展開につなげていく。このような仕組みを地道に組み立てていく中で、足りない変数を揃えていくことです。

現場のWillを集めるための“ゆるい”場所が必要。

現場の仲間を増やすためのコツや、自治体ならではの注意点はありますか?

まずは“従来のやり方を変えてもいいんだ”というマインドセットが必要です。DX担当者からよく聞くのが“原課が改善課題を出してくれない”という悩み。しかし、そもそも自治体にはデジタルで仕事のやり方を変えることに慣れていない人が多い。職務をミスなく進めることが求められるため、現状維持重視だという声も聞きます。

また、日頃から住民には組織としての正しい意見を提示しなければなりませんから、個人の意見を発すること自体にもリスクを感じている。もともと構造的に、失敗に対する許容度が小さいんですね。そんな文化の中で、“変えてもいい” “失敗してもいい”、さらに“改善した方がいい”というマインドに、いかに転換していくかがカギになるでしょう。

よく起こるのは、最初からオフィシャルに始めてしまい、改革が進みづらくなること。いきなりツールが導入され、改善のアイデアを出してください、と言われても原課は戸惑います。庁内の勉強会などでゆるやかにつながり合って、“こんなことをしてみたい” “こうなったらいいのに”、といった“Will”を発言しやすい環境をつくること。事業やツールありきで進めてしまうと、最初から方法論に入ってしまう。その前に、現場のモチベーション を高めることが大切です。

現場の小さな悩みに耳を傾けコミットして解決する。

マインドセットにモチベーション、難しそうに感じます。例えばどのような方法で?

DX担当者が現場の悩みにコミットして、小さなことでも一緒に考えて解決してあげることでしょう。現場には、リアルな悩みがいくつも転がっています。例えば、タブレットがあるのにルールで持ち出せない、チャットツールが浸透しない、といったものです。これらの小さな声に耳を傾け、コミットして解決してあげる。この“本当に変えられるんだ”という実感が、マインドセットとモチベーションにつながっていきます。現場の小さな悩みは、庁外からは見えにくい。これはDX担当の皆さんにしかできないことです。

上層部の理解の獲得や、最低限の機器の必要性などは、我々のような外部の力を利用するのも一つの方法です。客観的な立場から、上層部に対して取り組みの重要性を訴えるとか、必要なツールについてアドバイスすることもできるでしょう。

関さんご自身の活動としては、今後どんなことをやっていきたいと考えていますか?

自治体DXの取り組みをより“深化”させながら、横展開していきたいですね。DXは単なる業務効率化で終わってはいけない。本来は“どんな社会を目指すのか”から考えていくべきです。それを個々の自治体だけで閉じてしまわずに、民間事業者や地域住民も巻き込んだ共通の課題として掲げ、横串でつなげて地域を良くしていく。そして全国に広げていく、そんなサポートをやっていきたいと思っています。

変化への挑戦を続けるために仲間同士でつながり合おう!

最後に、各自治体で頑張っているDX担当の皆さんにメッセージをお願いします。

全国の自治体を訪問しながら感じているのですが、DXを推進することは、すなわち役所の文化を変えること。とても地道で、難しいことだと思います。私自身も自治体職員向けの講演会などを行いますが、一度実施しただけで大きな変化を生むことなどできません。そんな中で合言葉にしているのが、“傾きをゼロにしない”という言葉です。

たとえ小さな取り組みでも、ゼロにせず、やり続けることによって応援してくれる仲間があらわれます。仲間が庁内にいないなら、外に求めてもいい。同じ志をもった人たちがつながり合える場所は、オンラインでも用意されています。デジタル庁が運営する「デジタル改革共創プラットフォーム」や、全国の自治体職員有志が集まる「オンライン市役所」などに、まずは飛び込んでみてください。コード・フォー・ジャパンでもそうしたつながりを支援していますし、産学官民の垣根を飛び越えて人と人とのコラボレーションを生む、共創リーダーシッププログラムも実施予定です。

DX推進の取り組みは大変なことも多いですが、次第に楽しくなっていく活動です。その積み重ねの中で、自分のスキルも上がるし、成果が出れば認められ、武器や仲間も増えて、仕事もラクになっていく。そんな風景が見えるまで、諦めずに続けてほしいと思います。

外とつながり合える場に、気軽に参加しよう。

デジタル改革共創プラットフォーム by デジタル庁

デジタル改革について意見交換を行う、自治体・政府職員限定の交流サイト。“窓口改善DXSaaS”など、テーマごとのチャンネルのほか、小規模自治体のためのチャンネルなど、様々な切り口でリアルな情報収集や意見交換ができる。
➡詳しくはこちら


関さんより

ただ愚痴を言うだけのチャンネルもあります(笑)。でも、愚痴から新しい解決策が見つかることもありますよね。自ら発信せずとも、まずは様子をうかがうだけでも大丈夫ですよ。気軽に参加してみてください。

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