金沢市ではDX推進に積極的に取り組んでおり、平成31年に「金沢市ICT活用推進計画」を策定。行政手続きのオンライン化の推進やAIやRPAなど先端技術の活用などに取り組んできた。
さらに同市では2年間で集中的にデジタル化を進めるため、令和3年に「金沢市デジタル戦略」を策定。新しい生活様式に対応した行政サービス提供や地域社会のデジタル化推進だけでなく、職員のデジタルリテラシー向上のため、一般職員研修やリーダー育成研修などを実施している。DX推進のためのリスキリングや人材育成の取り組みについて、デジタル行政戦略課の担当者に聞いた。
Interview
デジタル行政戦略課
右:浅永 晃司(あさなが こうじ)さん
左:住田 凌(すみた りょう)さん
デジタル人材育成のため、“全職員向け一般職員研修”と“リーダー研修”を実施。
同市はDXの推進に向けて、令和元年から本格的な活動を開始した。具体的な活動内容としては、RPAやAIの活用による業務改善や、フリーアドレスの導入によるペーパーレスの推進などだ。このような取り組みを令和3年度以降さらに推進するため、「金沢市デジタル戦略」を策定した。
DXの推進には職員の意識変革が必須である。しかし、「特に意識面において職員の間で大きなギャップがあると感じていました。RPAやAIなど業務改革を行う手段を用意しても、現場がそれを使って変えようという意識マインドを持ちきれていなかったのです」と浅永さんが語るように、デジタルに関する知識の底上げとデジタル化を推進するリーダー育成が金沢市の急務であった。
同市では令和元年度から、希望者に向けたスキルアップ研修や新採職員向け研修を実施している。だが、研修の受講者とそれ以外の職員とでギャップが生じてしまっていたという。また市役所全体でDXを推進するにあたり、デジタル担当部署だけでDX推進に取り組んでいても、なかなか進まない。そこで令和3年度より、全体的な情報リテラシーの底上げとマインドセットをするための「一般職員研修」を全職員対象に実施。さらにDX推進の核となる人材を育成するための「リーダー研修」をスタートさせた。
情報リテラシーの底上げから研修をスタート。
一般職員研修の開催にあたっては、具体的にどのような知識やスキルが必要なのか、デジタル行政戦略課内で検討したという。初回となった令和3年度の一般職員研修では、経済産業省や総務省が提供している無料デジタルコンテンツを利用し、DXを推進するうえでのデジタル関連の用語や基礎知識を共通化すること目的に、主にAIやICTなどの用語学習を中心に行った。
さらに、ExcelやWordなどの基本的なツールの操作を説明した「効率アップテキスト」を作成・配布した。「金沢市役所で実際に使っているツールのノウハウや経験を盛り込みたかったので、職員が自らテキストを作成しました。研修後のアンケートでは8割の職員が『効率アップテキストが一番役に立った』と回答していることからも、効果を実感しています。」と住田さん。
次年度の令和4年に開催した研修では、情報リテラシーの向上を目指した令和3年度からさらにステップアップし、マインドセットや考え方の学習を中心に行ったという。「DXの鍵となるBPR業務改革やサービスデザイン思考、EBPMへの取り組みなどの分野における有識者の講演を動画化し、約2,000人の全職員に受けていただきました」と住田さん。「各メニューを終えた後には、簡単な確認テストを実施して受講者を確認しています。現在の受講率は7割弱なので、最終的には100%になればと考えています」。
一方リーダー研修の開催にあたっては、所属する自部署の課題を自分たちで解決に導き、全庁的なDXを推進する役割を担える人材を育成するため、デジタル関連の基礎知識を一般職員よりも深く学べる内容となっている。対象者は1年に20名で、市役所内に20局ほどある局の中から1名ずつ推薦して決める形だ。20代後半から40代前半までの職員が集まる。受講期間は約半年で、受講時間はトータルで200時間だ。
「デジタルについての基礎知識を一般職員よりもさらに深く学んでいただいたうえで、ローコード・ノーコードツールを使ってデータ分析やアプリ開発を実際に体験してもらっています。またそれだけでなく、リーダーが各自で課題を持ち寄り、その課題に対してサービスデザイン思考を使って解決するといった、マインドセット変革のためのワークも行っています」と浅永さん。eラーニングを使用した基礎知識の習得から対面でのツール操作まで充実した研修内容だ。さらに翌年度からはデジタルスキルだけにとどまらない研修メニューへブラッシュアップすることも意識したという。
また、職員研修の様子は金沢市公式noteでも発信しており、具体的な研修内容や成果について、実際に研修に参加した職員の生の声が確認できる。
▲ ローコード/ノーコード開発ツールを実際に使いながら学んでいく[提供:金沢市]
▲ DXリーダー研修2期生のグループワークの様子[提供:金沢市]
デジタル人材の育成により、利用者目線を持った職員を増加させたい。
一般職員研修とリーダー研修を実施した結果、非常に大きな変化が生じた。まず一般職員研修では、職員の全体的な情報リテラシーの向上が認められたのだ。研修前と研修後に実施している初級レベルと中級レベルのレベル分けでは、研修前と比べ、研修後の結果は中級レベルが3倍強に増加した。
一方リーダー研修の成果としては、過半数のリーダーがRPAやチャットボットなどを活用し、職場で業務改善を行ったり、業務改善チームをつくって推進活動などを実施したりした。ただ、リーダー研修の成果はそれだけではないという。「『サービスデザイン思考を持てた点が一番大きな変化だ』という声を多く耳にします」と浅永さん。「今までは市民サービスを設計する際に、利用者目線でサービスを設計することができていませんでした。しかしこの研修に参加した受講者全員が、利用者目線で物事を考えることを習得できたのです。マインドセットの部分は、全員レベルが上がった形で卒業することができました」と熱く語った。
金沢市では今後もデジタル人材の育成を推進し、デジタル行政推進リーダーを合計で100名育成。約100ある全課に配置したいと考えている。さらに、デジタル化取り組み推進には管理職の意識向上が不可欠と考え、令和4年からは管理職向けの研修も開始している。「自治体でのリスキリングの本質はより良い行政サービスをつくるために学ぶことだと思います。やはり学ぶにしても、何の目的で学ぶのかという定義づけが重要ではないでしょうか」とDXの推進に悩む自治体へのアドバイスも語ってくれた。金沢市では、利用者目線を持った職員が増えることで、より良い行政サービスの提供が可能になると考えているという。今後のさらなる変化に期待したい。