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自治体がキャッシュレス決済を導入するメリット・デメリット|導入ポイントや事例も紹介

近年は様々な場所でキャッシュレス化が進んでおり、自治体においてもキャッシュレス化が推進されている。自治体におけるキャッシュレス化としては、自治体窓口や公共施設のキャッシュレス化に取り組む先進的な自治体として、経済産業省は2020年度より全国の29自治体を「モニター自治体」 に選定した。

これにより経済産業省は、キャッシュレス化にあたって生じるノウハウや課題を手順書にまとめ、より多くの自治体がキャッシュレス化を進めやすくなるよう取り組んでいる。

今回は、自治体がキャッシュレス決済を導入するメリット・デメリットや、導入時のポイント、自治体のキャッシュレス導入事例まで詳しく紹介する。
 

【目次】
• 自治体がキャッシュレスを導入する「メリット」
• 自治体がキャッシュレスを導入する「デメリット」
• 自治体がキャッシュレスを導入する際に決めるべきポイント
• キャッシュレスを導入した自治体の事例2選

自治体がキャッシュレスを導入するメリット

まずは、自治体がキャッシュレスを導入する3つのメリットを解説する。

事務負担を軽減できる

自治体がキャッシュレスを導入する大きなメリットは、事務負担を軽減できることだ。特に市役所や区役所では、会計のために長い行列ができたり、待ち時間が数十分を超えたりしてしまうケースも多い。やりとりに時間がかかっている理由は様々だが、その1つとしては、現金をやりとりする際のお釣りの受け渡し等に時間がかかることが挙げられる。なかなか小銭が見つからなかったり、お釣りが多く数えるのに時間がかかったりするためだ。

しかしキャッシュレスの場合は「ICカードをタッチする」「バーコードを提示する」といった動作だけですぐに会計を済ませられる。支払いにかかる時間の大幅な削減や、受領した金銭の管理等の手間がなくなり、結果として事務負担の軽減につながる。
 

会計トラブルを解消できる

会計トラブルの解消も、キャッシュレス化によるメリットの1つだ。現金でやりとりをしていると、お釣りを渡し間違えるといった会計トラブルが発生するケースも多く見られる。具体的なトラブルとしては、お金の数え間違いや置き忘れ、渡し忘れなどだ。

一方キャッシュレス決済では、バーコードやタッチ決済等で決まった金額のみを引き落とすため、お釣りの渡し間違い等の会計トラブルが発生するリスクを大幅に抑えられる。結果としてより迅速なサービスの提供が可能になり、現金の紛失や盗難などの問題も解決できる。
 

住民の利便性が向上する

3つ目のメリットは、住民の利便性が向上することである。現代は様々な場所でキャッシュレス化が推進されており、現金をあまり持ち歩かない人も多い。実際に消費者庁が実施した「消費者意識基本調査」では「キャッシュレス決済を使っているか」という消費者への質問に対し、「使っている」と回答した人は58.6% にもなった。

さらに近年は新型コロナウイルスの感染拡大により、感染予防対策としてキャッシュレス決済を選択している人も存在する。スマートフォンやICカードのみで簡単に支払いを済ませられるキャッシュレス決済の導入は、現金を持ち歩かない住民にとっては大変便利であり、地域住民の大幅な利便性向上につながると言える。

自治体がキャッシュレスを導入するデメリット

自治体へのキャッシュレス導入には多くのメリットが存在する一方で、いくつかのデメリットも存在する。ここでは、主な2つのデメリットを紹介する。

停電時や端末故障時に使えない

大きなデメリットとしては、停電時や端末故障時にキャッシュレス決済を利用できなくなってしまうことが挙げられる。キャッシュレス決済は専用端末を用いて決済をしているため、端末が故障してしまった場合は、会計業務を行えなくなる。

また同様に停電した場合もシステムが作動しなくなり、支払いができなくなってしまう。するとトラブル発生時や災害発生時には現金でのやりとりがメインとなる可能性が高く、キャッシュレス決済オンリーにすることにはある程度のリスクが存在すると言える
 

地域住民からのニーズがない場合は利用者が少ない

せっかく導入しても、地域住民からのニーズがない場合は利用者が限られることもデメリットの1つだ。例えば高齢者が多い地域で導入しても、キャッシュレス決済を普段から利用している人は少ないと考えられるため、キャッシュレス決済の利用ケースは限られるおそれがある。

すると、キャッシュレス決済を利用するごく一部の住民のためだけに、導入コストや運営コストを支払うことになってしまう。またそもそも利用者が少ないため、住民の利便性アップにはつながりづらいと考えられる。

自治体がキャッシュレスを導入する際に決めるべきポイント

ここまで紹介した様に、自治体へのキャッシュレス決済の導入には様々なメリット・デメリットが存在する。それぞれの自治体の状況に合わせて、慎重に判断することが重要である。

では、導入する際にはどのような点に注意すべきなのだろうか。ここでは、導入時に気をつけたい2つのポイントを紹介する。

導入する決済手段の選定

まずは、導入する決済手段の選定だ。ひと口にキャッシュレスと言っても、クレジットカードやデビットカード、電子マネー、コード決済など幅広い種類があり、それぞれに異なった特徴がある。そのため、複数の決済手段を使い分けている人も多い。代表的な決済手段の特徴は以下の通りだ。

● クレジットカード・・・利用額に応じてポイントが還元される
● デビットカード・・・支払いをすると即座に利用額が引き落とされる
● 電子マネー・・・ICカードだけで支払えるほか、チャージ方法が分かりやすい
● コード決済・・・スマートフォン等の画面を提示するだけで支払いを済ませられる

 

ただし上記決済手段をどれも導入しようとすると、契約手続きや運用が煩雑になる可能性が高い。実際にキャッシュレスを推進したモニター自治体による「モニター自治体中間アンケート調査結果 」によれば、導入しているまたは導入を検討している決済手段として、バーコードや二次元コード決済が1位、クレジットカードが2位、交通系電子マネーが3位となった。それだけでなく、1枚の二次元コードで複数のコード決済に対応できる「JPQR」などを導入する自治体も増えている。ほかの自治体の導入傾向も参考にしながら、住民の利便性を高められる決済手段の選定が重要である。
 

決済事業者の選定

決済手段の選定と同様に重要なポイントが、決済事業者の選定だ。決済事業者とは具体的には、クレジットカード会社や電子マネー事業者、複数の決済ブランドと仲介してくれる決済代行会社などが挙げられる。決済事業者の選定が重要である理由は、決済端末の種類や決済手段が各事業者によって異なるためである。端末の設置スペースや回線の有無、予算などを比較しながら慎重に判断する必要がある。

決済端末の代表例としては、プリントQR型、モバイル型、タブレット型、据え置き方型、POS連動型などがある。「タブレット型の場合は持ち運び可能なため、レジがない場所でも手続きができる」などそれぞれに特徴があるので、端末を使用する場所などを検討しながら決めることが重要だ。

キャッシュレスを導入した自治体の事例2選

最後に、キャッシュレスを導入した自治体の事例を2つ紹介する。
 

群馬県富岡市 

群馬県富岡市では、さらなる市民サービスの充実と利便性向上のために、キャッシュレス決済サービスを導入。現金のやりとりを省いた、迅速な決済を実現できる仕組みを導入した。

富岡市における導入決済サービスは、以下の4つのシーンである。

1.市民課、税務課および妙義中央公民館の窓口で交付する各種証明書交付手数料の支払い時
2.市県民税(普通徴収)、固定資産税・都市計画税、軽自動車税、国民健康保険税、介護保険料および後期高齢者医療保険料の納付書による支払い時
3.富岡製糸場見学料、市立美術博物館・福沢一郎記念美術館観覧料および藤田峠キャンプ場施設使用料などの支払い時
4.上下水道道料金の支払い時


それぞれのシーンで利用できる決済手段は異なるが、大きく電子マネー、クレジットカード、交通系電子マネーに対応している。中でも市役所窓口での手数料支払い時にはPayPay、LINEPayをはじめとした7種類ものキャッシュレス決済に対応しており、スムーズな支払いや窓口対応の実現に成功している

 

福岡県福岡市

福岡県福岡市では、行政手続きのオンライン化等のDXを積極的に推進している。福岡市では従来も公共施設の支払いにLINEPayを導入していたが、さらなる利便性向上と感染症対策として、令和3年に利用できるキャッシュレス決済を大幅に拡大した。

対応しているキャッシュレスの種類は従来は11種類であったのに対し、令和3年には約30種類に増加している。具体的には、クレジットカードのVisaやMasterCardなどが利用可能になったほか、電子マネーでは交通系ICカード9種類のほか、WAON・nanacoなどが利用可能となった。さらに二次元コード決済では、LINE PayだけでなくPayPayや楽天ペイなどにも対応している。

また福岡市植物園や市内駐輪場等では、1つの二次元コードを設置するだけで複数のQRやバーコードサービスに対応できる「クラウドペイ」を導入。これにより、d払いやauPAYなど5種類の二次元コード決済も利用可能となった

まとめ

自治体へのキャッシュレス決済の導入は、事務負担の軽減や会計トラブルの解消などメリットもある一方で、停電時や端末故障時に使用できない、ニーズがない場合は導入費や運営費がムダになってしまうなどのデメリットも存在する。

また導入時には、導入する決済手段や決済事業者の選定など、様々な手続きを実施する必要がある。地域におけるキャッシュレスへのニーズを把握し、必要性を見極めたうえで、各自治体に適した方法を導入することが重要だ。

 

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